とにかく明るい安村

「毎年5月に開催される、欧州各国が参加する国際版の紅白歌合戦ともいえる『ユーロビジョン』というイベントがあるのですが、とにかく明るい安村さんのギャグ『安心してください、はいてますよ』が、そのまま盗用されていました」

Don't worry, I'm wearing

 そう苦笑しながら語るのは、元国連専門機関職員で、海外居住・就業経験も豊富な谷本真由美さんだ。

 イギリスの公開オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演するや、とにかく明るい安村の「Don't worry, I'm wearing(安心してください、はいてますよ)」は大ウケ。

 瞬く間にイギリスで人気者になったのはいいものの、類似ギャグが横行するまでに。ついには、フィンランドのWindows95man なるタレント(!?)が大舞台で堂々とパクったというのだから、安村本人からすれば“安心できない”出来事だろう。

 谷本さんは、「May_Roma(めいろま)」名義で、日本の新聞やテレビでは報じられない「世界と日本の真実」をX(旧Twitter)などでポストする、歯に衣着せぬ論客だ。

 2024年12月に発売された人気シリーズ第6弾『世界のニュースを日本人は何も知らない6』(ワニブックス【PLUS】新書)では、前述したエンタメ系の情報も数多く取り上げ、日本人が知らない世界のトレンドを紹介している。

「そもそもイギリス人は“裸ネタ”が好きなんです(笑)。『Naked Attraction』というお見合い番組があるのですが、この番組では隠れているのは顔だけで、全裸状態─つまり、身体的特徴のみを判断基準にパートナー候補を探します。

 信じられないかもしれませんが、完全無修正で局部もそのままテレビに映っています」
(谷本さん、以下同)

裸ネタ以上に衝撃的なイギリスの番組も

 他にも、既婚カップルが他の異性らと「スウィンギング」(夫婦交換および乱交)を行うことで、それが刺激になって元のカップルの関係がよくなるかどうかを実験するという『オープンハウス』なるリアリティー番組も人気だそう。

 いくらなんでもオープンすぎると思うのだが、こうした番組が普通に民放局で放送されているというのだから世界は広すぎる……。

社会的に意義がある番組を制作し放送するという名目で電波使用が許可されており、多様性の一環という位置づけなのですが、こうした言い分が欧州全土ですべて許容されるわけではありません。

 例えば、昨年開催されたパリ五輪の開会式は多様性を謳ったものの、『キリスト教を冒とくしている』という理由から全世界で大炎上しました」

元国連専門機関職員で、海外居住・就業経験も豊富な谷本真由美さん

 中でも、レオナルド・ダ・ヴィンチの15世紀の名画『最後の晩餐』のパロディーシーンが非難の的となったが、「フランスは宗教などのタブーを冒とくすることが合法であるだけでなく、表現の自由の重要な柱と見なされている」と谷本さんは説明したうえで、

「世界中の人が見ることに鑑みれば“やりすぎ”です。風刺やパロディーであったとしても、フランス人以外からは悪趣味にしか見えない」
 
 とバッサリ。自己主張が激しすぎる演出は、世界から反感を招くだけというわけだ。

 また、欧州において“鉄板”ともいえるエンタメ&ワイドショー的話題が「王室関係」だと、谷本さんは話す。

王室スキャンダルや日本の皇室も格好のネタに

例えば、ノルウェーで王位継承権第4位のマッタ・ルイーセ王女が、53歳で再婚したのですが、その相手が49歳のアメリカ人の自称霊媒師。しかも彼は自身を『レプティリアンである』とも言っています。レプティリアンとは、人間と似た形態の爬虫類(トカゲ)のような生物のこと。怪しいにもほどがある(笑)」

 この結婚式の直後には、同じくノルウェーのメッテ=マリット王太子妃の長男が、アルコールとコカインを使用中にガールフレンドに対する傷害と器物損壊の疑いで逮捕されたというのだから、ノルウェー王室、“全部乗せ”すぎる!

イギリスでも、チャールズ国王の弟であるアンドリュー王子が、中国政府のスパイだといわれている実業家と昵懇だったことが判明し、大問題となっています。『007』もびっくりです(笑)。

 アンドリュー王子は以前、性的人身取引で起訴され勾留中に急死した米国の富豪、ジェフリー・エプスティーン氏とも親しく、その流れで2001年に当時17歳の女性に性的暴行をしたことが判明し、民事訴訟を起こされたことがありました」

 日本でも皇室関係の話題は事欠かないことを考えると、ロイヤルな人々のてんやわんやと、それをウォッチする民衆の関心は世界共通なのかも。なんでも、日本の皇室は他国でも関心事のひとつとして捉えられているそうだ。

2024年6月、イギリス訪問に出発される天皇・皇后両陛下

2024年6月に、天皇、皇后両陛下がイギリスを訪問されましたが、現地でもかなり大きく取り上げられていました。公共放送であるBBCで何度もアナウンスされていましたし、Xの広告でも訪英することが伝えられていたほどです」

 谷本さんは、「欧米でやたらと日本の存在感を後押しするような動きが広がっている」と指摘し、ここ最近のエンタメ業界は最たる例だと続ける。

『ゴジラ-1.0』『SHOGUN 将軍』は、ともに素晴らしい作品でしたが、前者はアジア映画として初のアカデミー賞・視覚効果賞を受賞し、後者はアメリカのテレビ業界で最も権威ある賞のエミー賞で、史上最多となる18部門を受賞しました。

 また、昨今は海外のゲーム会社が、日本を舞台とするゲームを作ることも珍しくありません」

韓流に代わって日本コンテンツが台頭

 うれしい反面、「急にどうした?」と感じている読者も少なくないはず。こうした動きは、「2025年も加速していくのではないか」と谷本さんは推測する。

「イギリスで動画配信サービスを見ていると、私の趣味嗜好に関係なく、オススメに上がってくる日本のコンテンツが明らかに増えました。対して、少し前まで席巻していた韓流ドラマやK-POPが影を潜めるようになってきた。

 Creepy Nutsはイギリスでも人気が高いです。
明らかに、日本のカルチャーにスポットを当てよう、日本推しを進めよう、という雰囲気があるんですね」

2023年に東京・明治神宮で行われた奉納相撲

 実は今年、イギリスでは34年ぶりとなる大相撲のロンドン公演が10月に開催される。

「開催場所はロイヤル・アルバート・ホールです。ここは政府関係のイベントを行うような場所で、お金さえ払えば誰でも使用できるといった場所ではありません。格式が高く、外交的な要素がとても強い

 谷本さんは、「水を差したくはないのですが」と断ったうえで、

「対中国を考えたとき、西側諸国にとって日本はキープレーヤーとなります。『日本には頑張ってもらわないといけない』という思惑があるため、欧米諸国が“強い日本”“優れた日本”を演出しているのではないかと勘繰ってしまう(苦笑)」

 もちろん、どんな理由であれジャパニーズクオリティーが世界的に評価されることは良いことだともつけ加える。

「日本のカルチャーやエンタメに対して、ここ最近では見られなかったような盛り上がりがあります。裏を返せば、ビジネスチャンスです。こうしたコンテンツを追い風にして、世界を驚かせてほしい」

 はやし立てられたとしても、“踊らにゃそんそん”。世界のエンタメの動向を知ることも、ひるがえって日本を知ることにつながるのだ。

『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)、『キャリアポルノは人生の無駄だ』(朝日新聞出版)など著書多数。※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融企業を経て、現在はロンドン在住。X(旧Twitter)上で「めいろま」として舌鋒鋭いポストが注目を集めている。累計50万部の『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。

取材・文/我妻弘崇