LGBTQ+という言葉を、最近メディアなどでよく聞くようになった。
世界の中には、同性婚を認める国も出てきている。日本では認められていないが、同性同士のカップルを対象とした『パートナーシップ制度』を導入する自治体が近年増えてきた。これは、同性カップルに対して、婚姻と同等である証明書を発行する制度だ。
これによって、公営住宅への入居が認められたり、病院で家族として扱ってもらえたりする。しかし、自治体によって制度や考え方が一律でないため、別の自治体に引っ越すと法的な効力が失効し、引っ越し先の自治体で新たな証明書を取り直さなくてはいけない場合が多い。
世界中でジェンダー平等が叫ばれているが、日本の対応はまだまだ遅れているのが現状なのだ。
LGBTQ +の人たちが登録できる結婚相談所
そんな中で、こうした性的マイノリティーの人たちが登録、公的証書を提出し、正式なお見合いを通じて生涯レベルのお相手探しができる結婚相談所の団体がある。
それが、一般社団法人日本LGBTサポート協会(以下、LGBTサポート協会)だ。理事である松村寿代さんに話を聞いた。
「電通の『LGBTQ+調査2023』によると、性的マイノリティーの割合は9.7%。約10人に1人の割合で、日本における左利きの人の割合とほぼ同じ数値なんですよ」
左利きはぱっと見でわかる。だが、LGBTQ+の人々は隣にいてもわからない。日本は長い歴史上、人を“男”“女”という2つの性別に分けてきた。そこから逸脱した性的指向の人たちは、時には偏見の目で見られ、時には面白おかしく揶揄(やゆ)される対象になってきた。
ショーパブで働くトランスジェンダー女性の光と影
「私は京都在住ですが、還暦を過ぎたママが経営する、トランスジェンダーの女性が働くショーパブが祇園にあるんです。そこのママと親しくさせていただいていて……」(松村さん)
あるとき、ママが松村さんに言った。
「ここで働く子たちって、若いうちはチヤホヤされるんだけれど、年をとると踊れなくなるの。そうするとここを卒業して、掃除のおばちゃんか警備員になる。老いぼれて動けなくなったら、寂しく孤独死していく子が多いのよ。去年も3人孤独死したわ」
この話を聞いて松村さんは、目の前に広がるきらびやかな光景とのギャップに胸を痛めたという。すでに男女を結びつける結婚相談所を開業して11年がたっていた。
「そのとき、LGBTQ+の人たちの生涯レベルのご縁結びもできないかと考えたのです。そこでLGBTサポート協会を立ち上げました。4年前のことです」
所属している結婚相談所連盟(株)BIUの浅井正輝社長に相談し、今では全国160か所の相談所を構える組織に成長した。
こちらの協会で出会い、パートナーシップを結んだトランスジェンダーのカップル、さとるくん(仮名・34歳・トランス男性)、しずかさん(仮名・38歳・トランス女性)に話を聞いた。
さとるくんは言う。
「実は2年前、とあるコミュニティーが主催するノンオペ(身体を手術していない人たち)のトランスジェンダーのZoom交流会があって、そこでしずかさんを見つけたのです。一目惚れでした。でも、勇気が出なくて主催者さんに、『あの子、誰?』とは聞けなかった」
母親からは「どんなあなたでもいい」の言葉が
そのまま会えずじまいだったが、LGBTサポート協会のオンライン交流会に参加したときに再会を果たした。
「“あ、しずかさんがいる!”と、うれしくなった(笑)。交流会の後、仲人さんに、お見合いできないか聞いてもらいました」(さとるくん)
「私はノンオペの交流会では、さとるくんに対して“参加者の一人”という印象しかなかったので、“お見合い”の話をいただいたときは、びっくりしました」(しずかさん)
遠距離だった2人は、まずはZoomでお見合い。じっくり話をしてみると、物の見方や考え方、価値観が似ていた。そこから交際を始め、リアルに会って一緒の時間を過ごしてみるとますます惹かれ合うようになった。
そして、出会って2か月目、観覧車のある公園でさとるくんがしずかさんにプロポーズをした。
わが子に、「自分はトランスジェンダーだ」と告白されたら、古い風習で育ってきた親は、それを理解し、受け入れられるのか?
「31歳のとき、母親にカミングアウトしました。かなり戸惑っていましたが、最終的には受け入れてくれて、そこから父親にも話しました」(しずかさん)
「僕は、家族との折り合いが悪く23歳のときに家出同然に実家を飛び出しました。カミングアウトの必要に迫られ『こんな僕が嫌だったら、もう二度と家には戻りません』と、外から母に告げたところ、『どんなあなたでもいいから、帰ってきて』と。半ば強制的に認めさせた感じです(笑)」(さとるくん)
今では、お互いの両親ともに、わが子の性自認を認め、ふたりのことを祝福してくれている。
物心ついたころに生まれ持った性別と自認する性の違いを感じ、「悩み、病んだ時期もあった」というが、今は唯一無二の理解者を得て、心穏やかで幸せな日々を送っている。
「法的には入籍できるのですが、今後、性別変更をするかもしれないから『入籍はおいおい考えていこうね』と、ふたりで話しています」(さとるくん)
普通に結婚したと親は思っている
じゅんさん(仮名・39歳)は、男性という生まれ持った性を自認しているのだが、恋愛感情や性的指向が他者に対して向かないアセクシュアルだ。
じゅんさんの職業は医師。見た目も素敵なじゅんさんは、学生時代も医師になってからも、女性に言い寄られることがあった。しかし、友達としては好きになっても、恋愛感情がまったく抱けなかった。
「なので、最初自分はゲイだと思ったんです」
そこで、ゲイが集まるような場所に出入りしてみた。
「ところが、触れられたり、身体の関係を求められたりすると、こちらも違和感を感じる。いったい自分はどうなっているんだ、と」
松村さんは言う。
「私のところに初めて訪ねてきたときに、『僕はゲイなんです』と言い張っていた。でも、よくよく話を聞いてみて、『ゲイではない、アセクシュアルではないの?』と、私は言ったんです」
自分の性的指向を自認したじゅんさんだが、一人で生きていくのではなく、パートナーのいる人生のほうが豊かだと日頃から思っていた。そこで、LGBTサポート協会を通じてアセクシュアルの女性、ゆみさん(仮名・29歳)とお見合いをし、交際を経て、結婚を決めた。
こちらのカップルは、ふたりとも戸籍の性と自認している性が一致しているので、結婚することに問題はない。
しかし、アセクシュアルなので、一緒に住んで一緒に食事をしたり出かけたりはするのだが、部屋は別々でセックスをすることはない。友情婚だ。
この内情を、互いの両親は知っているのか?
「彼女の両親は、僕らのすべてを理解したうえで、結婚を祝福してくれています。でも、僕の親は何も知らない。『これまで女っ気がなかった息子が、やっと結婚してくれる』と思っているんじゃないかな(笑)。
この先も、僕の性的指向は親には言いません」
多様化の時代だ。どんな組み合わせのカップルがいても、そのふたりが信頼するパートナーシップを築いていれば、それが幸せのカタチなのではないか。
取材・文/鎌田れい