西原理恵子さん(左)、岩井志麻子さん

 常識にとらわれない発言で人気の小説家・岩井志麻子さんと、数々の名作で知られる漫画家の西原理恵子さん。同い年の親友同士が、初の共著となる『サイバラ志麻子 悪友交換日記』(双葉社)を刊行!
 それを記念して、女の友情を軸に、思う存分語っていただきました。
 友情、老い、気遣い、自分の機嫌の取り方……。爆笑しながらも、ためになるエピソードが満載ですよ!

西原 もともと私はゆかりちゃん(中瀬ゆかりさん、新潮社の名物社員)から、よく志麻子ちゃんの話を聞いていたので、気が合うんじゃないかなって予感がしていて、「おもしろい人だな。友達になりたいな」と思っていたから、他の人と仲良くなっているのを見ると憎たらしかったくらい(笑)。

岩井 私もよく理恵子ちゃんの漫画や本を読んでいたから、同じことを思っていたんよー。

西原 そんなときに志麻子ちゃんが体調を崩して倒れたって話を聞いて、連載していた『週刊大衆』の誌面上からエールを送ったらお返事が来て。

岩井 そこからお友達になって、だいたい30年くらいか。理恵子ちゃんのほうが、先に活躍していたけど、漫画家と小説家で職種が違うから嫉妬の対象にならんかったのよね。同じ小説家だったら、きっとバチバチしていたと思うけど、職種が違うからこそ素直な関係を築けたと思うな。

「朝まで下品な話ができるなんて最高!」

西原 志麻子ちゃんは、初めて会ったころから「理恵子ちゃん」って呼んでくれて、それがうれしくて。結婚して子どもを産むと、〇〇ちゃんのママ・お母さんと呼ばれることが珍しくない。それが何となく嫌だったから。

岩井 最初からエロ話ばっかりしてたけどね(笑)。

西原 案の定、気が合った(笑)。エロ話やバカ話が一緒にできる人なんて誰もいなかったから、「こんなに朝まで下品な話ができるなんて最高!」って思ったよね。

西原理恵子さん(左)、岩井志麻子さん

岩井 私は同じ年の女友達がいないことがコンプレックスでもあったのよ。地元の岡山県に、Mちゃんって子が一人おるだけ。同い年の友達がいないって嘆いていたんだけど、上京してから、理恵子ちゃんとゆかりちゃんというお友達に恵まれたんですよ。

西原 3人とも同い年で、バツイチで、下ネタが大好き。類は友を呼ぶっていうか。

岩井 私たち、学生時代だったら仲良くなっていないと思うのよ。ゆかりちゃんは優等生で、理恵子ちゃんはヤンキー。私は成績がいいわけでもない文学少女だった。出会う時期によって、友達になれる・なれないが、絶対あると思うんよな。

西原 さんざん嫌なことも経験してきて、お腹に脂肪のチャンピオンベルトを巻き始めたくらいで出会うほうがいいこともあるよね。

「いろんな出会いが長い付き合いに」

岩井 明るい花園で出会うのと、酸いも甘いも噛み分けて、荒波にもみくちゃにされている中で出会うのとでは違う。そういうときに出会えたからこそ、長い付き合いになったのかも。

西原 友達ってそう簡単にできるものじゃない。私は、自分の仕事で志麻子ちゃんという友達を獲得したって思ってる。自分が頑張ったから、素晴らしい友達に恵まれたんだって。私たちお互い子どもがいて、離婚もしているからさ、子どもや年老いた両親の話なんかもするもんね。それこそ、「西原理恵子と岩井志麻子。どっちが姑(しゅうとめ)だったら嫌だろう」とかね。

岩井 それは、どちらも嫌でしょう(笑)。

西原理恵子さん(左)、岩井志麻子さん

西原 志麻子ちゃんには、誰にも言えない家庭の話もできる。あと、男の趣味がまったくかぶってないから、友情が長続きしているのかも。

岩井 それは大きい! “男性自身”は大きいほうがいいけれど(笑)、友情にはバランスが必要。私は悩みがあるときは、理恵子ちゃんとゆかりちゃん、双方に聞くの。ゆかりちゃんは、「世間一般はこう考えている」的な社会人としての意見を提示してくれる。理恵子ちゃんは、「それは思いつかんかった!」っていう、“神の目”からの助言をくれる。そのバランスがありがたいんですよ。

──お酒が進み、ここでは載せられない“お下品な話”に脱線することもしばしば……。でも、ところ構わず、いつものように話せる関係性が、二人の仲を表しているよう。西原さんは、自らを「岩井志麻子の追っかけ」と話す。

ボケとツッコミのバランス

西原 志麻子ちゃんは、とにかくサービス精神がすごいからね。この間も、「岩井志麻子と行くファンツアー」に参加してきた!

岩井 理恵子ちゃんなんて特別ゲストレベルなのに、毎回自費で普通に参加してくれている(笑)。

西原 私は志麻子ちゃんの追っかけだから(笑)。たくさん参加者がいるから、志麻子ちゃんは大変なはずなんだけど、志麻子ちゃんはずっとしゃべってる。帰りの新幹線なんかクタクタなはずなのに、隣にいる私を気遣ってフルスロットルで話す。気遣いの人でもあるんですよ。

岩井 実は私は根が小心者なんで、気を使ってないと落ち着かないんよ……。

西原 あと、志麻子ちゃんがボケで、私がツッコミというバランスもあるね。

岩井 ボケ同士だと話が進まないもんな。以前、「もし私が何かやらかして刑務所に入ったら、何もできないと思う」って話したら、理恵子ちゃんは、「志麻子ちゃんは刑務所の中でも生きる道を見つけるはず」って言うのよ。

西原 文芸サークルとかを開いて、受刑者にアドバイスとかしてそうじゃん。「ここの“ひどい目に遭った”というくだり、もうちょっと具体的に旦那の何がひどかったか書いたほうがいいですよ」とか教えてくれそうだもん。

西原理恵子さん(左)、岩井志麻子さん

岩井 理恵子ちゃんから、「刑務所の中でも絶対にうまいことやっていける」って言われて、それ以来、刑務所に入っても絶対に大丈夫だって思えるようになったんよな。

西原 いやいや、本当に入らなくていいから(笑)。

──水魚の交わりとはこのこと。一方で、良い友人に恵まれるとは限らない。自分を疲弊させる存在とはどのように付き合うべきか。二人の縁の切り方とは?

物事は新しくしないと忘れられない

西原 昔付き合っていた彼氏が、私がやっとの思いで買った4万円もした高級鍋を派手に焦がしたことがあったのね。でも、「わりぃ。ごめんな」しか言わなくて。まだ使えるから、その後もずっと使っていたんだけど、使うたびにずっとそのクソ男の顔が目に浮かんでいたのよ。同時に、そいつと別れられなかった自分にも腹が立って。

 ある日、やっと捨てて鍋を新調したら、彼のことをすっかり忘れることができた。そのときから、物事は新しくしないと忘れられないとわかったんだよね。

岩井 理恵子ちゃんは、あまりに昔の恨みを忘れないから、(西原さんのパートナーである高須クリニックの)高須克弥院長から指摘されたことがあるんだもんね。

高須クリニック・高須克弥院長

西原 「遺伝子に恨みが刻まれてる」って言われた(笑)。高須先生は科学の人なので、日夜新しい技術を覚えて、新しいもので刷新する。

 そんな先生が言っていたんだけど、古い傷があったら、いつまでもその傷とつけた人や環境を覚えているって。ところが、その傷をきれいにすると、すべてなかったことに思えると。

岩井 人間の脳って、都合良くできてるなー。

西原 だからね、古いものや汚いものをいつまでも取っておくと、そのループから抜け出せなくなる。友達、男、家族に悩まされているなら、新しくするしかない!

岩井 そう! 昔の嫌な記憶がよみがえってくるときって、私もめちゃめちゃ体調が落ちてるときなんだよな。私の場合、今の夫の前に付き合っていた韓国男ね。そいつのことを思い出したときは、体調が悪い(笑)。

西原 憎かったりつらかったりする映像を、自分の中で反すうしている人が多い。つらい目に遭わされた故人のことを憎み続けるよりは、そこらへんのヤギにでも生まれ変わってると思うようにする! 

 生きているなら、なるべく思い出さない。思い出すと、負のループに陥るだけ。そもそも、人と人のつながり合いってそんなに大事かなって思う。

岩井 どんなに仲が良くても、数奇なことで別れることだってある。生涯の友だと思った女友達がいたけど、縁が途切れて今は全然会っていない。連絡したほうがいいかなって考えることもあるけど、「今さら何? 放っておいて」って言われたらと思うとなぁ……だから、考えないのがいいんだろうな。

西原 人は誰かに愛されたいし、誰かを愛してあげたいと思うけど、そんな人っていつもいるわけじゃない。まず自分を愛する。自分の機嫌を取ってあげようよ。

岩井 私、シンガポールに一人で行くのが好きなのよ。なぜなら、知り合いがいないから。知り合いがいると、「お土産を持っていかないと」とか「約束して会わないと」とか、いろんなしがらみが生まれる。

 だけど、シンガポールにはそれが一切ない。しかも一人だから、同行者に気を使わなくていい。それが自由で楽しくてね。

「人間の器は無理に大きくしなくていい」

西原 知らない他者のことを気にしたり、振り回される嫌な人のことを考えるよりまず、自分の機嫌の直し方に目を向けるべきだと思う。私は嫌な予兆を感じたときは筋トレをしたり、ちょっといいワインを飲んだりする。お医者様に相談して、処方してもらった薬をあらかじめ飲んだりね。

岩井 岡山にいたとき、いつも「何にもいいことのない人生だった」ってずっと言ってる肉親がいた。それを聞くと、その当時もげんなりしたけど、今でも腹立つもんなぁ、思い出すと。

西原 人間の器ってすごく小さくて、実際はおちょこぐらい(笑)。無理に大きくしなくていいんだと思う。志麻子ちゃんは気遣いの人だけど、自分の機嫌の取り方を知っているから、結構いつもご機嫌だよね。

岩井 今日は特に理恵子ちゃんと会えたからだよ! これからも仲良くしてね!

西原理恵子さん(左)、岩井志麻子さん

岩井志麻子(いわい・しまこ)●1964年、岡山県生まれ。’86年にジュニア小説家としてデビュー後、’99年、『ぼっけえ、きょうてえ』で第6回日本ホラー小説大賞を、2001年には同作で第13回山本周五郎賞受賞。エッセイを含め、著書多数。コメンテーター、女優としても活躍。

西原理恵子(さいばら・りえこ)●1964年、高知県生まれ。武蔵野美術大学在学中にデビュー。’97年、『ぼくんち』で文藝春秋漫画賞、2004年、『毎日かあさん カニ母編』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、’11年、『毎日かあさん』で日本漫画家協会賞参議院議長賞を受賞。著書多数。

対談した2人の書籍

サイバラ志麻子 悪友交換日記』(双葉社 税込み1760円)

毒舌ホラー作家・岩井志麻子×暴走漫画家・西原理恵子、初の共著! 身のまわりで起きるエロ事件をつづった赤裸々エッセイに、1コマ漫画で答える、“下品で下品を洗う!!”(by西原氏)女友達の交換日記的エッセイ。

 

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取材・構成/我妻弘崇 撮影/山田智絵