
東京近郊に住んでいる、または通勤・通学などを行っている人は、街で『九都県市受動喫煙防止キャンペーン』を毎年開催していることをご存知だろうか。東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県と、横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市・相模原市が合同で行っているという当キャンペーン、各自治体に問い合わせてみると、その実態が見えてきた。
本記事では当キャンペーンに関してその現状を紹介し、我々の血税の”ワイズスペンディング(賢い支出)”となっているのか、自治体への取材を通して迫る。
九都市受動喫煙防止の概要と活動内容とは?
まずは前編を振り返る。街で見かけた「九都県市受動喫煙防止キャンペーン」のポスターは、いったいいつから、どのような形で行われていたのだろうか。また、行政が行っているのであれば、税金はどれくらい使われているキャンペーンなのか。キャンペーンの概要に関する質問を東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県・横浜市それぞれに聞いてみた結果、内容は以下のようなものであった。
・平成21年(2009年)から開始(相模原市は平成22年から参加)
・がん征圧月間である9月から、11月の間までに行う
・主に九都県市共通のデザインのポスターの制作・掲示、配布などを行っている
(平成30年から記事トップに掲載したポスターを使用。ポスターの細部などは自治体によりキャンペーンの趣旨を損ねない範囲でアレンジ)
・九都県市共通のロゴマークを各自治体の取り組みに使用している
・幹事(連絡係)を持ち回りで行っており、令和6年度は神奈川県が幹事である
『九都県市受動喫煙防止キャンペーン』とは、平成21年からはじまったもので、がん征圧月間である9月から、11月の間に行われている。活動は、各自治体とも共通のデザイン・ロゴマークを使用したポスターの制作・掲示・配布がメインであった。神奈川県や横浜市では動画を制作するなど、独自のキャンペーンを併せて行っており、合同でのキャンペーンとは言いながらも、その方法や規模感についてはまちまちのようである。
また、持ち回りで幹事を決めて活動しているが、幹事はあくまでも「連絡係」のようなもので、いくつもの自治体が合同で行う意義というものは今のところあまり感じられないようにも思えてしまうのが正直なところである。
キャンペーンが「九都県市」ではじまった理由とは?
平成21年(2009年)から実に15年以上も続いているというこのキャンペーン、そもそもなぜ「九都県市」なのだろうか? 各自治体にヒアリングを行う中で、そのきっかけが明らかになってきた。
「平成21年に開催された第55回八都県市首脳会議にて、当時の松沢神奈川県知事から『受動喫煙防止対策の推進について、首都圏全体で取り組みたい』旨の提案がされた
ことがきっかけです」(横浜市)
キャンペーン開始当時の平成21年当時は東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県と、横浜市・川崎市・千葉市・さいたま市の8都県市の首脳が継続して行っていた「八都県市首脳会議」において発案されたものだという。翌年から政令指定都市となった相模原市が加わり、九都県市として広域的課題に取り組んでいるという。
「九都県市では、従来から共有する膨大な地域活力を生かし、共同して広域的課題に取り組んでいます」(神奈川県)

また、このキャンペーンが始まった平成21年に、九都県市合同でより実効性のある措置を盛り込んだ法制度の充実強化を国に要望し、併せて始まったのが受動喫煙防止キャンペーンだったという。
また、このキャンペーンを行う根拠として、下記の健康増進法第25条がその根幹にあるという。
第二十五条 国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙に関する知識の普及、受動喫煙の防止に関する意識の啓発、受動喫煙の防止に必要な環境の整備その他の受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならない。
「国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう知識の普及や啓発等を推進するよう努めなければならないとされており、それに応じて各地方公共団体がその地域の状況に応じた手法にて受動喫煙対策に取り組んでいます」(横浜市)
効果測定はなし。継続する意義はーー
ここで気になるのが、キャンペーンの効果である。例えば東京都では、東京メトロの160の駅や、都営線などにポスターを掲示を依頼しているというが、この活動において認知はどれくらい高まっているか、指標などはあるのだろうか。
もっとも広範囲にポスターを配布し、予算も他の自治体と比較して大きい東京都に、当キャンペーンの効果測定について尋ねてみると「特に指標や効果の測定は行っていませんが、見てくださっている方もいらっしゃると感じています」という回答だった。
前回からの振り返りになるが、東京都においての受動喫煙防止キャンペーンの予算は100万円ほどで、今年度実際に使用したのは60万円ほどだという。他の自治体では10万円以下の予算のところもあり、それと比べると破格である。ポスターの制作、配布においては少々贅沢で、果たして有効な使われ方なのかという思いもよぎってくるーー。
「形骸化」したキャンペーンは本当に必要なのか

もちろん受動喫煙の防止や健康増進の推進自体は素晴らしいものだ。ただし、この「九都県市受動喫煙防止キャンペーン」のように、健康増進や病気予防といった啓発を目的としたキャンペーンにはそもそも効果の測定が難しいものが多い。そのため、税金の使い道として評価できるものであるかどうかは、判定しづらいところがあるのは事実だ。
2020年に施行された改正健康増進法によれば、飲食店などのお店を含む公共の屋内での喫煙はほぼ「できない」状態になっており、それに伴って受動喫煙をする機会もかなり減ってきている(改正健康増進法のポイントはこちら)。そんな中で、15年にもわたる当キャンペーンのような活動は、端的に言えば役目を終えてきており、そろそろその意義も形骸化しつつあるのではないだろうか?
続けることに意義があるという見方もあるが、今、本当に必要な政策はなにか。継続して行っていることに関してはなおさら、税金の使い道について有権者にも広く知ってもらい理解・判断をしてもらうことも必要である。
<取材・文/白石 優>