大映ドラマの制作陣には、映画で名を馳せた名監督たちが名前を連ねている。山口和彦監督もそのひとりだ。’70 年代の東映映画、千葉真一、梶芽衣子、志穂美悦子らが主演したアクション映画を数多く手がけていた。
人気刑事ドラマ『Gメン’75 』(TBS系)の監督としても知られているが、当時、彼は大映テレビのプロデューサーにアプローチし続けていたという。
「大映ドラマを撮りたいというよりも、山口百恵ちゃんと仕事がしたくてね。ずっとお願いしていたんだ」
山口百恵主演の“赤いシリーズ”が高視聴率をたたき出していたころだった。しかし、念願がかないそうになったときに別の映画の仕事が入ってしまい、百恵との仕事は実現しなかったという。
それから後、プロデューサーから声がかかり、『スクール☆ウォーズ』が初仕事となった。
「それまで映画もドラマも何本か撮っていたけど、大映ドラマには面食らったね。ほかのドラマとは明らかに違っていたから」
監督を戸惑わせたのは、やはり、あの独特のセリフまわしだった。
「そんな話し方は絶対しないなとか、平安時代や戦国時代の言葉がセリフになっているんだよ。これには驚いたね。でも、それにはちゃんと理由があったんだよ」
当時、テレビはまだ一家に1台の時代。お茶の間に置かれたテレビのチャンネル争いは熾烈なものだった。家族で楽しめる番組が人気だったのは、お茶の間の平和を保つためだったのかもしれない。
「大映ドラマは親子や家族全員で見ることができるドラマだったから、難しい言葉、意味不明の言葉が出てくると、子どもは親に聞くんだね。親もそれに対して説明できないときは辞書で調べたりして、そこで親子のコミュニケーションがとれたんだ。それで、さらに興味もわいてきて視聴率も上がるってわけだ」
これはすべて大映テレビのプロデューサー・春日千春の戦略だった。しかしプロデューサーが考えていたのは、これだけではなかったという。
『スクール☆ウォーズ』に途中、“イソップ”と呼ばれる生徒が出てくる。イソップは脆弱な身体つきをしていながらもラグビーに対する情熱は人一倍強い。しかしラグビー部が全国優勝を果たす前に、脳腫瘍で亡くなるという設定だった。
「役者の名前も忘れてしまったけど、このイソップはどうしようもないほど演技が下手でね。一生懸命にやっているんだけど、話し方も変だし、どうにもならないんだ」
そのため、アテレコ(吹き替え)も考えたが、時間がなかったので、そのまま放送することに。
「不思議なことにその下手さに存在感と切なさがあって、かえっていいとなっちゃったんだね。それでイソップを主演にした“イソップ編”を4話か5話作っちゃった。今でいうスピンオフだ」
これもプロデューサーの戦略だった。初めに大まかな脚本は作るが、撮影しながらどんどん変わっていったという。
「アイツ、いいな」と思う個性が光る役者が出てくると、その役者に焦点を当て、脚本が変わっていった。大映ドラマは、視聴者にとっても記憶に残る役者が多かった。
「新人ばかりだから、それぞれの個性を生かすようにして役者を育てていったのが、ドラマの成功にもつながったんだと思うよ」
山口監督にとっても大映ドラマの魅力は語り尽くせないようだが、実は、成功の裏には絶対に欠かすことがないあるテーマが潜んでいた。
「不良がいっぱい出てくるし、やたらケンカしているし、殺人は起こるし。でも、必ず“家族愛”というのが基本にあったね。親子とかきょうだいとか。それがあのドラマのいいところだった。われわれも作りがいがあったね」