多くの大映ドラマに出演した松村雄基。松村が今でも忘れられないセリフが『乳姉妹』にあるという。
主人公の伊藤かずえが走って逃げるのを、松村演じる暴走族がバイクで追いかける。伊藤は川へ逃げ込むが、松村も川の中まで入っていく。
しかし伊藤と松村は、まだ見ず知らずの間柄。そこまで追いかけてくるので、伊藤は思わず振り返って「あなた、何者よ!?」と叫ぶ。すると、松村は「俺は海鳴りだ!!」とだけ言って、引き返していくというシーン。
「このセリフがいまだによくわからない(笑い)。そもそも川だし、“海鳴り”ってよくわからないし、それを伝える目的も不明。でも、撮影中は実際にそういった気分になったし、スタッフもいっさい笑っていなかった」
初めて出た大映ドラマも忘れられない。やはり伊藤かずえと共演した『少女が大人になる時 その細き道』で、松村のロケ初日。場所は静岡の沼津駅前。
先に伊藤だけのシーンが撮影されていると、まだ知名度のない松村は見物客から「何やっているんですか?」と声をかけられた。「撮影です」と答えると、「誰がいるんですか?」「どんな物語ですか?」と矢継ぎ早に聞かれながら、丁寧に返答していた。
松村の登場シーンになり、監督に呼ばれた彼は「おはようございます!」。まずは元気よく挨拶をしようとしたところ、いきなり「バカヤロー!」と怒鳴られた。
「お前、女の子としゃべっているヒマあんのかー!!」と詰め寄られ、事情を説明しようにも二の句が継げず。公衆の面前で「お前なんて役者じゃない! 帰れー!!」と監督に言われたのが、松村にとって大映ドラマでの初の現場だった。
「でも、そんな怖い監督さんでも僕が台本でわからないことがあって、直接聞きに行くと丁寧に教えてくれる。しかも、監督の台本を見ると、どんな言葉にも辞書で引いた意味とか例文が小さな字でビッシリ書き込まれている。こんなに準備しているんだから、僕らがその場の気分で勝手にセリフを変えたいなんて恐れ多いと思いました」
監督、スタッフ、出演者たちと一緒に過ごす時間は長く、同じ釜のメシを食べた、血のつながらない家族のような意識があったという。
「そうじゃないと大映トリップのように、違和感を感じずに撮影はできなかったと思います。そういった連帯感が“大映カラー”になり、現場で育まれていたと思います」