matsumurayuki
 大映ドラマ黄金期に欠かせない俳優のひとり、松村雄基。

「大映ドラマでいちばん印象深いのは、やっぱり『スクール☆ウォーズ』ですね。忘れられないのは、歌いながら不良たちと殴り合いのケンカをするというシーン。台本を読んだ時点で衝撃を受けました。しかも『東京流れ者』というあまり聞いたことのない歌で(笑い)」

 21歳のときに出演した『スクール☆ウォーズ』で、山下真司演じる教師の手を焼かせながらも、ラグビーに青春を捧げるケンカっ早い生徒役で人気を博した。

「実話がもとになっているし、僕は撮影現場で青春時代を過ごしたので、若いエネルギーをラグビーに向ける若者たちとどこかかぶるところがあった。設定やセリフはデフォルメされているんですけど、実際に存在していた人物がモデルなので、どんな小さなことでも決しておろそかにしてはいけないと、山下さんは常々おっしゃっていました」

 撮影現場には始発に近い電車で通い、終電間際に帰宅という毎日。しかし『スクール~』のいちばんつらい思い出は「寒さ」だったという。

「真冬の早朝に集合して、すぐ短パン姿になる。撮影だからウォーミングアップとか関係ナシ。とにかく寒かった」

 街中で不良から着ている服に「サインして」、「素肌に書いて」と言われたことも。

「ケンカしてくれと頼まれたこともありました(笑い)。コブシを交えたかったんでしょうかね。僕が車を運転中に何十台もの暴走族の車に囲まれて、握手してくれとお願いされたときもあった」

 その車は『なにわナンバー』で、都内で偶然、松村と握手できたことを「やったー!」と喜んだ少年たち。その先の検問所で警察に補導されるときも「松村さーん、立派な不良になりまーす」と、手を振っていたという。

 不良や陰のある役が多かった松村だが、別の役がやりたいという考えはなかったという。とにかく、オファーされた役を懸命にこなした。

「大映ドラマの奇怪なセリフにも異論を唱えることなく、不思議だと思わせないで聞かせるようにするのが、僕らの仕事だと思っていました」

 それには、とにかく“無”になること。先入観や疑問を持つと言えないようなセリフも多かったが、とにかく徹底的にドラマの世界に入り込んでひたすらセリフを繰り返す。

「そうすると、あるとき、これでいいという瞬間があるんです。おかしなセリフがおかしくなくなる。それを僕は個人的に“大映トリップ”と呼んでいました」

 『ポニーテールはふり向かない』でピアニストを演じたときは、役作りのために個人レッスンに通ってピアノの練習をした。『明日に向かって走れ!』では駅伝部のコーチ役で、若い役者たちと一緒に走った。『おんな風林火山』をきっかけに乗馬クラブに入り、その後もしばらく続けていた。

「乗馬クラブは結局、やめちゃいましたけど、熱しやすく冷めやすいことが、どんな役でもやれる秘訣だと自分に言い聞かせています(笑い)」