
この記事では、3月28日から3日間にわたって掲載した【大都市の分煙事情】<前編>(札幌・仙台・東京編)<中編>(名古屋・大阪・京都編)<後編>(広島・高松・那覇編)に続く特別編として、地方自治体のユニークな受動喫煙防止、分煙の取り組みについて紹介する。
2020年4月に改正健康増進法が全面施行され、学校や病院などは屋内、敷地内が禁煙に、事務所やホテル、飲食店なども原則屋内禁煙となった。あれから約5年、街の中からは灰皿が相次いで撤去され、それが歩きたばこやポイ捨てなど、迷惑行為を増やす一因にもなっている。
東京都武蔵野市が導入したトレーラー型の喫煙所

そんな中、2024年10月に総務省自治税務局市町村税課は、各都道府県の税務及び市区町村の担当課にあて、「分煙施設に係る整備方針の策定及び整備状況等に関する調査結果及び参考事例集の送付について」と題した文書を送付、さらなる分煙対策強化を促した。望まない受動喫煙や環境悪化の防止に有効な手段として、ますます重要視されている分煙施設設置の各自治体の取り組みにはどんなものがあるのか、総務省の事例集などを参考に、ユニークな取り組みを探した。
この事例集に紹介されている分煙施設の整備事例で目を引いたもののひとつが、東京・武蔵野市で3か所の駅前に設置された「喫煙トレーラー」。屋外の喫煙所と言えば、パーテーションで囲ったタイプやプレハブで建てられたものを想像しがちだが、武蔵野市が導入したのは車両に喫煙室が付いたトレーラー型。
従来の屋外喫煙所は、屋内の喫煙所ほどしっかり仕切られていないことが多く、風向きなどにより副流煙の被害を出す可能性があると言われてきたが、こうした従来の屋外の喫煙所に比べ、トレーラー型にはどんな特長があるのだろう。武蔵野市環境部ごみ総合対策課に聞いた。

武蔵野市は2004年に吉祥寺駅周辺、2005年に三鷹、武蔵境駅周辺を路上禁煙地区に指定、開放型喫煙所『マナーポイント』を設置したが、市民から受動喫煙に対する苦情が寄せられたこともあり、2013年度末までに『マナーポイント』を廃止。さらに改正健康増進法施行により街中の喫煙場所が減った影響などで、路上喫煙やそれによる受動喫煙の増加が懸念されたことから、閉所型喫煙所(喫煙トレーラー)を設置した。
「現在、三鷹駅前(2020年7月~)と吉祥寺駅前、武蔵境駅前(2021年4月~)の3台が稼働しています。喫煙トレーラーは閉鎖型喫煙所であることに加え、脱臭機(プラズマダッシュΣ)が搭載されていて内部の煙を脱臭し排出するため、煙が直接外に拡散せず、においの漏れや受動喫煙を防止できます」(担当者)
さらにトレーラー型の喫煙所は車両であるため、建築確認申請が不要で比較的短期間に設置できること、イベント等で活用する場合や、設置場所の変更が必要になった場合など、設置後の状況の変化に臨機応変に対応できることなどの特長がある。車検に出す費用や車検期間中に代替え喫煙所を設けなくてはならないことなどを考慮しても、そのメリットは大きいようだ。
「静岡市プラモデル計画」と連携した「灰皿プラモニュメント」

その他、事例集の中でユニークだったのは、「分煙以外の機能を付加した整備事例」。まずは静岡市の例を見てみよう。全国のプラモデル製造品出荷額の約8割を占める静岡市では、「静岡市プラモデル計画」と名付けたシティープロモーションの一環として、市内各所に「プラモニュメント」を建てているが、そのうちのひとつに吸い殻入れの機能も果たす「灰皿プラモニュメント」を設置した分煙施設がある。
プラモニュメントとは、公衆電話やポストなど、街の中のさまざまな公共物を、プラモデルの組み立て前のパーツに分解したモニュメントのことで、灰皿プラモニュメントは10基目。非喫煙者には縁遠い喫煙所に特産品のPR機能を持たせるナイスなアイデアだ。

他にも和歌山県和歌山市は、喫煙所に外国人観光客向けの多言語案内板や市の取組などをPRする掲示板を設置した分煙施設(民間事業者からの寄贈)を、大阪府八尾市では、市が配信する生活応援アプリや地元の名産品「河内木綿」の文様をPRしつつ、防災備品を格納できるコンテナを備えた分煙施設を設置している。
全国各地で、その土地の特徴をアピールしたものや住民サービスと一体化したものなど、工夫を凝らした分煙施設が誕生している。
喫煙所の設置と改善を積極的に進める千代田区
地方自治体における禁煙対策の先駆者といえば、2002年に全国に先駆けて条例を定め、路上喫煙に罰則(過料2000円)を設けたことで知られる東京都千代田区だが、同区でも率先して喫煙所の設置を進めている。先に武蔵野市の例で取り上げた「喫煙トレーラー」も2019年に導入済で、今もコワーキングスペースなどを備えた区の施設『ちよだプラットフォームスクエア』(東京都千代田区神田錦町3-21)で稼働中だ。
「トレーラー型を採用したのは、2年に1度、周辺地区で開催される『神田祭り』で神酒所を設置するため、公衆喫煙所を移動する必要があるからです。トレーラー型は状況に応じて移動できるのが大きな特徴だと思います」(担当者)
なお、現在は撤去されているが、「このちよだプラットフォームスクエアの『喫煙トレーラー』に二者択一の設問を記載し、選んだ設問箇所に吸い殻を捨てられる灰皿を試行的に設置」(担当者)したこともあり、利用者が少しでも楽しく喫煙所を利用できるようにと、さまざまな工夫を凝らした取り組みを行っているようだ。
しかし、同区によれば、2022年まで概ね順調に減らしてきた喫煙違反者への過料件数は2023年に反転、増加に転じたという。これは外国人観光客などの来街者の増加と『加熱たばこ』の路上喫煙も罰則対象にしたことが要因で、時代の変化とともに、さらに喫煙対策の必要性が増しているのは間違いない。
千代田区には現在、『千代田区公衆喫煙所設置助成制度』を活用して設置された78か所の他、都営喫煙所が1か所、区営喫煙所が5か所の計84か所の喫煙所がある(2024年12月末時点)。
この制度は新規の喫煙所設置経費については700万円を上限に、5年経過後の更新経費として300万円を上限に助成金を出すだけでなく、賃料または賃料相当額の10割と諸経費の8割を合わせて年間264万円を上限に補助するという、全国でも踏み込んだもの。これにより、民間の店舗などを改修し、喫煙所にする例も増えてきているのだ。
設置後、空気環境測定を実施し、改善が必要な喫煙所には脱臭機や無水灰皿の設置などの改善指導も行うなど、喫煙所の質の担保にも注力している。
千葉県船橋市では喫煙者の9割が「喫煙所があれば利用」とアンケートで回答
ここまで各地の喫煙対策の取り組みを見てきたが、喫煙者と非喫煙者の共存を図り、路上喫煙やポイ捨てを防止するうえで、分煙施設の設置はどれほど有効な手段なのか。実証実験を行った千葉県船橋市環境部クリーン推進課のデータを見てみる。
市議会で「歩きたばこのない町・船橋を目指す決議」を採択している船橋市では、2004年に「船橋市路上喫煙及びポイ捨て防止条例」を改正し、違反者に過料(2000円)を科すなど、喫煙対策に力を入れてきた。そんな船橋市では、清潔、安全及び快適な生活環境の確保に向けた取り組みの強化を図るため、JR船橋駅北口に指定喫煙所を設置し、2021年10月25日から2023年10月31日までの約2年間「路上喫煙」、「ポイ捨て」、「路上喫煙の減少による受動喫煙の防止」を目的に実証実験を行い、JRの船橋駅、西船橋駅、津田沼駅周辺でアンケート調査を実施した。

アンケート結果でまず注目すべきは、船橋駅周辺で「指定喫煙所があることで公共の場所での喫煙やポイ捨ては減ると考えるか」を聞いた設問への答え。2023年7月のアンケートでは、実に93%の人が減ると答えている。このアンケートに答えたのは設置された指定喫煙所の利用者。つまり喫煙者の9割以上が、喫煙所があれば積極的に利用すると答えているのだ。
とはいえ、煙草を吸わない人にとって喫煙所は、利用しない施設。喫煙所を設置することをどう考えているのか。2023年5月に船橋駅周辺における駅利用者等に聞いた「喫煙所の設置について」では、「良い」と答えた人が79.3%(うち非喫煙者は76.5%)、「清掃費用や電気代などの費用負担をしても喫煙所の設置を継続するべきか」を聞いた結果は、「するべき」が80.7%(うち非喫煙者は78.2%)と、非喫煙者も喫煙所を設けることに理解を示していることがわかる。
また実証実験におけるその他の検証項目(船橋駅周辺地区)を見ると、指定喫煙所開設前12か月と開設後18か月との比較で、違反件数が月平均で67.7%減、散乱ごみ数(吸殻のみ)は22.8%減、また路上喫煙率も83.3ポイント減と、指定喫煙所の設置が公共の場所での喫煙やポイ捨て防止に一定の効果をもたらしていることが見て取れる。
船橋市のデータからも分かるように、分煙施設の整備は、いまや喫煙者と非喫煙者の共存を図るうえで重要な施策。先述の総務省の文書を見ると、2018年から2024年の7年間で全市区町村の5割に近い798団体が分煙施設を整備。市区だけを取り出してみても全815市区の52.9%、431団体が分煙施設を整備している。
2023年の厚生労働省の国民健康・栄養調査によれば、2023年時点で20歳以上の男性の喫煙習慣者の割合は、男性が25.6%、女性が6.9%。ピーク時(1966年)に比べると3分の1程度にまで減っているとはいえ、単純計算で今でも1500万人前後の愛煙家がいることになる。喫煙が健康に影響を与えることは確かだが、ストレス解消やリラックス効果を求めて紫煙をくゆらす喫煙者と非喫煙者は、実社会の中で共存関係にあることもまた現実。それぞれが幸せに暮らしていくために、分煙対策のさらなる取り組みが必要だ。