薬をのまなくても血圧を下げる方法がある(写真はイメージです)

「ほとんどの人にとって高血圧は自然な老化現象。ただ、心肺機能を鍛えて、肺活量を上げることで、血圧を下げる効果を見込めます」

 そう話すのは、薬剤師で薬学研究者の加藤雅俊さんだ。2017年の厚生労働省の調査によると、継続的な治療を受ける高血圧症の患者は約993万人。一説には国内の高血圧症有病者を推計4300万人とするデータもあり、高血圧は国民病のひとつ。

「1960年代には上の血圧が年齢プラス90以内の数値であれば正常としていたので、基準が厳格化したことから患者が増えているともいえます。昔の基準で正常値、かつ加齢に伴い血圧が上昇した人、運動不足の人、血圧以外に自覚症状がなければそれほど恐れることはありません。ただし、最高血圧が年齢プラス90以上で血圧が最近急に上昇した、ろれつが回らない、手足のしびれや顔面まひ、息苦しさなどがある場合はすぐに医療機関を受診してください」(加藤さん、以下同)

9割は筋肉や血管、心肺機能の衰えが原因

 高血圧患者の9割は、加齢や運動不足からくる筋肉や血管、心肺機能の衰えが引き金になっている。そのため生活習慣を改善するだけで、簡単に血圧を下げられるという。

「私はこれまで高血圧に悩む方々に、薬に頼らず血圧を下げる方法をアドバイスしてきました。1週間で最高血圧が50以上下がった人、1か月で降圧剤を中止でき、2か月で5キロの減量を達成した人、一度は糖尿病と診断されながらも、血圧・血糖値ともに正常値に戻った方もいらっしゃいました。

 そのノウハウを誰でも続けやすい形にまとめたのが加藤式降圧プログラムです。合谷のツボ押し、加藤式降圧ストレッチ、加藤式呼吸法、タンパク質を毎食とることを1週間実践し、血圧を下げる身体づくりを目指しましょう」

合谷のツボを押す

「ツボ押しは東洋医学ですが、西洋医学の視点では神経が集中する場所がツボといえます。そこを押すことで脳への神経回路の通りがスムーズになると考えられるでしょう。手の甲にある降圧のツボ・合谷を押すと脳の視床下部に指令が届き、血圧や体温を正常な状態へ戻します。

 ストレスや頭痛にも効く万能のツボなので自律神経が整い、血圧も安定するのです。押した瞬間ツーンという感覚が走れば、場所は合っています。イタ気持ちいい程度の力で息を吐きながら5秒かけて押し、息を吸いながら5秒かけてゆっくり力を抜きましょう」

 いつでもどこでも左右1回ずつ押すだけの手軽なケア。ツボを押す力加減も自分で調整できるので、日によって痛みの感じ方の違いを確認することで、健康のバロメーターとしても参考になるだろう。

加藤式降圧ストレッチ

 高血圧の主な原因は、筋肉や血管の硬化が招く血流悪化と、心肺機能の衰えによる酸素不足。肺は自分でふくらむことができず、まわりの胸郭や横隔膜の動きに助けられているので、ここを鍛えることが重要だ。

「胸郭をストレッチすると肺が広がり、一度の呼吸で多くの酸素を取り込めるようになります。すると心臓が過剰に心拍数を上げて、血中の酸素不足を補う必要がなくなり、血圧が安定していきます。1日2回行うだけで肺活量アップや猫背が改善するばかりか、血管を柔らかくする一酸化窒素も分泌しやすくなり、血流改善や血圧低下につながります」

血圧ストレッチ1 両手を合わせ、手を頭の上に伸ばしてから息を吸い込む。

両手を合わせ、手を頭の上に伸ばしてから息を吸い込む。

血圧ストレッチ2 腕を横に下ろして曲げ、胸を広げながらさらに息を吸い込む。

腕を横に下ろして曲げ、胸を広げながらさらに息を吸い込む。

血圧ストレッチ3 腕を顔の前に持ってきて最大限まで息を吸い込んだら息を止める。

腕を顔の前に持ってきて最大限まで息を吸い込んだら息を止める。

血圧ストレッチ4 息を止めたまま身体を前に倒す。そのまま3秒ほど姿勢を保持し、息を一気に吐く。

息を止めたまま身体を前に倒す。そのまま3秒ほど姿勢を保持し、息を一気に吐く。

呼吸や食事にも降圧効果が

加藤式呼吸法

 緊張やストレスにより交感神経のスイッチが入りっぱなしになると、心拍数を上げるアドレナリンや血管を収縮させるノルアドレナリンといったホルモンの分泌が高まり、血圧が上がりやすくなってしまう。

 しかしこのようなメンタルに起因する高血圧は、自律神経を整えることで改善していく。

「気力の回復や体力の増進、自律神経の調整や消化機能の改善に効果のある関元のツボを押しながら深呼吸をすれば、副交感神経が優位になり、自律神経が整って血圧が安定します。1日1回、椅子に座った状態で行いましょう。

 エネルギーが集まる場所として知られる関元のツボは、へその中心から指4本分下がったところにありますよ。血液の循環が良くなりますし、ストレスや不安にも効果が期待できます。深呼吸は吸うよりも吐くことに意識を集中することがポイントです」

 椅子に座ったら両手を重ねた中指が「関元」のツボに当たるようにおき、おなかをふくらませながら鼻からイキを10秒かけて吸う。

 そのあと、身体を前に倒しながらツボを押し、おなかをへこませながら20秒かけて口から息を吐けばOK。肩の力を抜き、つねにツボを意識しながら行いたい。

タンパク質を毎食とる

 タンパク質は筋肉や臓器、血管や血液、ホルモンや神経伝達物質にいたるまで、あらゆる人体組織の主成分だ。特に筋肉は8割がタンパク質で、柔軟な骨格筋と血管を維持して血圧を安定させるためにも欠かせない。

 さらに血管を柔らかくする一酸化窒素の生成を促す物質もタンパク質からつくられるので、高血圧改善に必須な栄養素といえる。なかでも20種類のアミノ酸をバランスよく豊富に含んだ、良質な食材を選ぶことが重要だ。

「健康のために野菜中心の食事をするのはかえって危険。目安としては体重1キロあたり1グラムのタンパク質を毎日とりましょう。具体的には卵、豚肉、牛乳を1日3食のメニューに必ず取り入れてください。

 タンパク質は身体にためておけないのでまとめて食べるのではなく、毎食食べるのも大切。1食の中で卵なら2個、豚肉なら100グラム、牛乳なら200ミリリットル以上とっていきましょう。できれば1食に1品だけでなく、卵と豚肉、豚肉と牛乳などと組み合わせるのがベストです」

 卵は必須アミノ酸を摂取するには非常に優れている。豚肉も高タンパク・高栄養で特に疲労回復機能のあるビタミンB群が豊富。

 赤身には鉄分やミネラルも多く含まれ、血管の健康維持や全身の老化防止も期待できる。そして牛乳は手軽に良質なタンパク質がとれるだけでなく、腸に届くまでわずか1~2分と、吸収の速さも大きなメリット。

「タンパク質がアミノ酸に分解されるには時間がかかるため、運動をする3~4時間前にとるのが良い。補助的にホエイプロテインを活用するのもいいですよ」

教えてくれたのは…加藤雅俊さん●薬剤師、薬学研究者。ミッツ・エンタープライズ株式会社代表取締役社長。JHT日本ホリスティックセラピー協会会長。薬に頼らず、食事や運動、東洋医学などから症状にアプローチするホリスティックの考えを日本に広めた第一人者。『1週間で勝手に血圧が下がっていく体になるすごい方法』など著書も多数執筆。

※血圧が高い人はかかりつけ医に相談のうえ実践してください。

取材・文/植田沙羅