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年齢を重ねると起こりやすい低栄養や骨折、認知症。これらの予防に最適な食材として卵をすすめているのが、医師の鎌田實先生だ。
「厚生労働省の調査では、65歳以上の女性の2割以上が、栄養が足りていない状態であることがわかっています。中高年は、食欲の低下や買い物、調理の負担による食事のワンパターン化などで、低栄養に陥ってしまうことが多いんです。
また、身体の細胞の原料となるタンパク質の摂取量が足りていない人も多く、食生活を見直す必要も」
筋肉の維持に欠かせない卵
実際、日本人全体のタンパク質の平均摂取量は現在、1日平均70gで、1950年代と同水準まで減少しているとのこと。
「筋肉の減少を放置すれば身体の虚弱が進み、健康寿命を縮めることになりかねません。40歳を過ぎると筋肉は毎年1〜1.2%減っていくため、中高年は筋肉の材料となるタンパク質を、若い世代より十分にとる必要があるんです。
1日のタンパク質の摂取目安量は自分の体重×1.2gといわれていますが、あくまで目安。老後のためにも今のうちから多くとるように心がけましょう」
そこで、タンパク質の摂取量を増やすのにおすすめなのが卵。
「卵はタンパク質を筆頭にビタミン、ミネラルなど健康に欠かせない栄養素を、ほぼパーフェクトにとれるスーパーフード。価格も手頃で調理も楽なので、食生活に取り入れやすく、忙しい人や中高年で料理を負担に感じている人にも最適なんです」
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卵のタンパク質量は、60gの卵であれば1個に約7〜10g含まれている。今の食生活に10gのタンパク質を増やしたい場合は、卵を1個追加すればOK。
しかし、卵がスーパーフードと呼ばれるゆえんは、注目されがちなタンパク質以外にもある、と鎌田先生。
「筋肉の合成に欠かせないバリン、ロイシン、イソロイシンという3種の必須アミノ酸もそろっているのが特徴。これらの成分は筋肉を増やすのに有効で、牛肉やまぐろ、チーズなど、他の食材でもとることができます。
ただ、卵は他と比べると気軽に食べられて、タンパク質も多くとれるので、余裕がある人は多めに卵を食べてみて。僕は毎日3〜4個食べていますよ」
※腎臓病の治療をしている人は医師に相談してください。
朝に卵を食べて筋肉を効率的に増やそう
「朝にしっかりタンパク質をとると筋肉がつくられやすくなります。日本人に多いのは、忙しい朝と昼はパンやうどんなどの糖質で済ませ、夜にタンパク質を大量にとる人。タンパク質を夜にたくさんとると、肥満の原因になるため注意が必要です。
中肉中背で健康そうに見える中高年女性が、実は脂肪ばかりで筋肉が少ない虚弱状態に陥っているケースも多いんです。タンパク質の1日の理想の摂取バランスは、朝4、昼4、夜2と覚えておきましょう」
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卵の健康効果は、筋肉の維持だけではない。ビタミンやミネラルも豊富で、骨や脳を健康に保つ働きも期待できる。
「細胞の老化を防ぐ抗酸化ビタミンのビタミンA、ビタミンE、さらにカルシウムの吸収を助けるビタミンD、エネルギー代謝に欠かせないビタミンB群も豊富です。また認知症予防に効く脂質のレシチンやコリン、神経伝達物質の原料で必須アミノ酸の一つ、メチオニンも一度にとれるんです」
その一方で、卵のコレステロールが気になるという人もいるだろう。
「卵にはコレステロールが多く含まれますが、近年の研究では食品からコレステロールをとっても、血中コレステロールは上がらないことがわかっています。厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』でも2015年以降、コレステロールの摂取上限は記されていません。
それどころか近年では、コレステロール値が少し高い人のほうが低い人より寿命が長いこともわかっているので、ぜひ、卵を日々の食生活にプラスして、長生きする健康体を手に入れましょう」
生涯元気に過ごせる10種の食材「あさはきた にぎやかだ」が合言葉
あ:油
さ:魚
は:発酵食品
き:きのこ
た:たまご
に:肉
ぎ:牛乳
や:野菜
か:海藻
だ:大豆
合言葉であげた食品は全部で10品目。毎日の食事で、ご飯やパンなどの主食以外に「7品目食べる」を目標に。多く感じるかもしれないが、それほど難しくはありません。例えば納豆は発酵食品で、大豆なので、納豆を食べるだけで2品目とったことに。
即実践!カンタン卵レシピ
卵シェイク
ものの数十秒で完成! 忙しい朝でも気軽にタン活
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材料
・卵……1個
・もろみ酢……30ml
・牛乳……100ml
・みかんの搾り汁……1個分
【作り方】
フタができるドリンクボトルに材料をすべて入れ、フタをしてよく振り混ぜる。
※もろみ酢は、米酢やリンゴ酢で代用可能。みかんの搾り汁も、100%オレンジジュースでOK!
おやつ卵
小腹がすいたときに大活躍
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材料
・卵……4個
・煮汁〔ウーロン茶のティーバッグ……2包、だし汁(和風)……大さじ2、水……300ml〕
・五香粉…小さじ1
【作り方】
(1)ゆで卵を作り、冷水にとる。冷めたらスプーンの背でゆで卵を軽くたたき、殻全体にひびを入れる。
(2)鍋に煮汁の材料を入れて中火でひと煮立ちさせ、(1)を加えて弱めの中火で約20分煮る。
(3)五香粉を加えて混ぜ合わせ、火を止めてそのまま冷ます。
卵イワシどんぶり
タンパク質×糖質の最強タッグを手抜きで実現
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材料
・卵……1個
・イワシのかば焼き缶詰……1/2缶
・ニラ……1/2束
・パックご飯……1パック
・油小さじ……1/2
【作り方】
(1)イワシの缶詰を適当な大きさにほぐし、ニラは3cm幅にキッチンバサミで切っておく。パックご飯はレンジで加熱しておく。
(2)フライパンに油を入れて、ニラがしんなりするまで中火で炒める。
(3)イワシの缶詰を汁ごと入れて軽くかき混ぜる。
(4)溶いた卵を流し入れて、箸でかき混ぜる。卵が半熟状態に固まったら火を止め、器によそったパックご飯の上に盛りつけて完成。
卵レシピその2
天津麺
相性抜群のラーメンで身体も温まる
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材料
・卵……1個
・お好みの即席麺……1袋
・えのき……半袋
・カニカマ……4本
・小ねぎ……適量
・ごま油……小さじ1
・水……200ml
・片栗粉……大さじ1
・付属の粉末スープ……半袋〜1袋
【作り方】
(1)即席麺を湯がき、お湯をきってお皿に盛りつける。使った鍋は軽く水ですすいでおく。
(2)水と片栗粉、付属の粉末スープを混ぜる。カニカマは手で裂いておき、小ねぎはキッチンバサミで切っておく。
(3)キッチンバサミで1cm幅に切ったえのきを(1)で使った鍋に入れ、ごま油を加えて炒める。溶き卵、カニカマを加えて、軽く混ぜ、半熟に固まったら火を止めて麺の上にのせる。
(4)鍋に(2)のスープと小ねぎを入れてとろみがついたら麺にかけ完成。
たまサラ
いつもの食事にプラス一皿で糖質過多を防ぐ
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材料
・卵……4個
・マヨネーズ……適量
・タンパク質の具材……適宜(ツナ缶、サケ缶、ハム、カリカリベーコン、カニカマ、ちくわ、魚肉ソーセージ、ボイルウインナーなど)
・野菜の具材……適宜(冷蔵庫に残っている野菜、冷凍野菜、コーン、ミックスベジタブルなど)
・調味料……適宜(塩・こしょう、お好みの調味料)
【作り方】
(1)ゆで卵の殻をむいてジッパーバッグに入れ、マヨネーズをかけて、適当な大きさにつぶすようにもむ。
(2)冷蔵庫に残っている野菜を適当な大きさにカット。冷凍野菜は電子レンジにかけ、軽く熱を通して冷ます。
(3)(1)に(2)と適当な大きさにカットしたタンパク質の具材2品にお好みの調味料を入れ、もむようにしてあえる。
おすすめの卵の食べ方は?
卵は火を通したほうが消化によく、食中毒のリスクも半減。生卵は保存状態が悪いと黄色ブドウ球菌などの細菌に感染するおそれがあるため、食べる際は鮮度のよいものを選ぶようにしよう。保存の際は尖ったほうを下にすると感染を予防できる。
他のタンパク質食品である、魚や肉、大豆食品、乳製品と組み合わせて食べるのもおすすめだ。鎌田先生はハムやブロッコリーを入れたオムレツや卵イワシどんぶりをよく食べているそうで、運動後は牛乳と卵で作る卵シェイクも効果的とすすめている。
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教えてくれたのは……鎌田實先生●東京医科歯科大学医学部卒、諏訪中央病院名誉院長。地域一体型の医療のパイオニアとして、食生活の改善や健康増進の意識改革の普及に貢献。長野県をはじめ近年は佐賀県でも健康長寿を実現する「鎌田塾」を開催している。著書に『長生きたまご』(サンマーク出版)など多数。
取材・文/井上真規子