中国・四川省にあるパンダの繁殖研究基地にて多臓器不全で息を引き取った永明(アドベンチャーワールド提供)

 和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドで人気だったジャイアントパンダの永明(えいめい)が1月25日に中国・四川省で亡くなったことが、2月14日に発表された。

 永明の訃報を知ったときの気持ちを、担当飼育員だったアドベンチャーワールドの中谷(なかや)有伽さんが語ってくれた。

「寂しくない、悲しくないと言えば嘘になります。ただ、感謝の気持ちのほうが大きかったです。私は6年ぐらい永明の飼育員をして、自分ができたことはあったかなど振り返る機会になりました」

“グルメ”で有名だった永明

 永明は飼育員から見て、どんなパンダだったのだろうか。

「性格は本当に穏やかで優しいパンダでした。怒ったり、音に反応してびっくりすることもあまりなく、のんびり過ごしていました」(中谷さん、以下同)

 グルメだといわれていた永明、竹には強いこだわりを持っていたという。

「竹選びの時だけは性格が変わり、気に入らない竹には手もつけないことが多かったです。永明がアドベンチャーワールドに来た当初は竹の種類は1種類だったのですが、味の好みに応えるために種類がどんどん増えていき、今では大阪、京都、静岡から取り寄せ、年間8~10種類の竹を使い分けています。永明の子どもたちも舌が肥えています(笑)」

 ちなみに、今最もグルメな子どもは彩浜(さいひん)だそうだ。

 飼育員だけが知る永明のすごさを表すエピソードを教えてくれた。

「永明は繁殖のときになると、飼育員よりも反応が早くて。おしりを擦りつけてにおいをつけるマーキングの回数やホルモンを測ったりして、飼育員は数字を根拠にメスの発情に気づくことが多いです。発情が近くなるとあえてオスとメスの運動場を交換してお互いのにおいを感じられるようにします。末っ子の楓浜(ふうひん)が生まれる交配前のとき、永明はメスの良浜(らうひん)のにおいを気にして運動場から帰ってこなかったんです。永明は良浜の発情を誰よりも早くに察知しましたね」

長寿の秘訣は

 永明はアドベンチャーワールドで梅梅(めいめい)との間に6頭、良浜との間に10頭もの子どもをなし、「パンダ界のレジェンド」「グレートファーザー」とも呼ばれた。ジャイアントパンダの繁殖はメスの発情期が短く、オスとメスの相性とタイミングを測るのが、特に難しいとされている。永明はどうしてここまで繁殖に成功できたのだろうか。

「みんな口をそろえて言うのが、永明の優しくて穏やかな性格と先述のメスの発情に気づく能力に長けているところが大きいと思います」

アドベンチャーワールドで開催されているパンダのツアー・アトラクション(公式サイトより)

 永明は2020年に28歳で楓浜のお父さんになり、「現在の飼育下で自然交配し、繁殖した世界最高齢のジャイアントパンダ」という世界記録を持つ。通常、パンダの繁殖年齢は20歳までとされており、永明がいかに高齢で繁殖に成功したかがわかる。

「永明は健康で常にベストな状態を保てていたことで、高齢になっても繁殖ができたのでは。永明を飼育してきた先人の方たちが積み重ねてできたものだと思います。永明は、もともとはお腹が痛くなり、体調を崩しやすいパンダだったんです」

 永明が丈夫でいられるよう尽力してくれた飼育員たちのおかげだ。

 永明は32歳まで生き、人間でいうと90代後半だった。

「食欲旺盛で1日15キロ~20キロ、美味しい竹をたくさん食べていたことが長寿の秘訣かなと思います」

 '23年2月に永明が娘の桜浜(おうひん)、 桃浜(とうひん)とともに中国に返還されるとき、中谷さんはどう思ったのだろうか。

「まだまだ一緒にいたかったという思いはありました。パンダの飼育員として勤務して8年になるのですが、竹の選び方や健康管理など飼育員として育ててくれたのも永明だと思います。感謝の気持ちを持って送り出しましたね。中国の高齢のパンダに対する飼育技術が整った場所に旅立ちましたので、不安は全然なかったです」

永明を偲べる場所

 永明の突然の訃報にSNS上ではファンたちが悲しみにくれた。

《突然の知らせに言葉が出ず、涙があふれて止まりません》

《永明さん、浜家の大黒柱としてたくさんの可愛い子供達を残してくれてどうもありがとう。まだ信じられませんが、紳士で優しくてグルメな永明さんの事忘れないからね》

《手足が長くてダンディな永明さん、かっこよかったです。たくさんの笑顔をありがとう。永明さんからつながるたくさんの可愛く尊い命と、良浜さんを見守ってくださいね》

アドベンチャーワールドで提供されていたパンダのスペシャルメニュー(公式サイトより)

 そんなファンに向けて中谷さんからコメントを寄せてもらった。

「永明を温かく見守ってくださり、ありがとうございました。アドベンチャーワールドにも献花台を設置していて、永明を偲べる場所を設けています。お手紙やSNSでの投稿で追悼する内容を目にすることが多くて、永明が愛されていたことを改めて実感しました。永明が残してくれた大切な命を未来につないでいくために、日々尽力しますので引き続き見守っていただければと思います」

 献花台の設置期間については、決まり次第、アドベンチャーワールド公式ホームページで発表される。

 長寿を全うし、たくさんの命を紡いでくれた偉大なる父・永明。永明が大勢の人に癒しと笑顔を届けてくれたことは私たちの心に残っている。