
韓国を中心に世界で活動する日本人7人組ガールズグループのXG。インスタグラムフォロワーは291万人、2025年のアメリカの音楽祭『コーチェラ・フェスティバル』では、日本人アーティストとして、初めてセカンド・ヘッドライナーに選出されるなど非常に勢いあるグループだ。
そんな彼女たちが3月7日にリリースした、デジタルシングル『IS THIS LOVE』のMV(ミュージックビデオ)のティーザー映像が物議を醸している。
配信に先駆けて各SNSで発表された10数秒ほどのティーザー映像では、メンバーのJURINとHINATAが向かい合わせで座り、目を閉じてお互いに唇を近付け、ほとんどキスをしているような映像が含まれていた。この「ほぼキスシーン」を見たファンを中心に「クィアベイティング」ではないかとSNS上でのコメントが相次いだのだ。
「クィアベイティング」とは?
「クィアベイティング」とは、性的マイノリティの総称であるクィア(Queer)と釣りなどに使うエサを意味するベイト(bait)を組み合わせた言葉。同性愛者ではないのにあたかも同性愛者であるように見せかけるなど「性的指向の曖昧さ」をほのめかし、LGBTQ+の当事者や、世間の注目を集めようとするマーケティング手法で、海外では「卑怯なやり方」としてしばしば批判されてきた。
この言葉の起源は'00年代にさかのぼる。2005年からの海外ドラマ『スーパーナチュラル』や2010年の『シャーロック』における登場人物の関係性が、まるで友情や師弟関係以上のものだったものの、セクシュアリティに関する明確な描写がなかったことから議論になり、そこから生まれた言葉だ。
今回は、キスシーンに参加しているメンバー、JURINとHINATAのセクシュアリティが明言されていないのに、レズビアンであることを匂わせる描写があったことが問題視されている。
事実と違うのであればクィアベイティングであるし、明言していないのに事実であることを匂わせたらアウティング(好きになる相手の性別「性的指向」や、自分の認識する性別「性自認」を本人の了解なく第三者に暴露する行為。共同通信ニュース用語解説より)ととられかねないのだ。
絶賛、苦言……XGファンの間でも反応はさまざま

この「キスシーン」映像が公開されるとファンの間では驚きとともに絶賛の声も上がったが、同じく異を唱えたのもファンであった。
《XGの作品大好きだけど、今回のクィアベイティングは残念》
《賞賛するコメントが多いけど、それこそがクィア、特にレズビアンの性的消費じゃないのか》
《セクシュアリティの明言なしにこうした演出はNG》
《百合営業!?っていう言葉もあるけど、そういったセンシティブなものを売り物にするのはいかがなもの?》
このような意見に対し、目くじらを立てすぎだとする声や、このような意見がファンの中から出る「自浄作用」があることを誇りに思うというもあった。また、XGはLGBTQ+当事者のファンも多いが、当事者からは「MVが出るまで待とう」など、静観する意見も出ている。
問題なのは、メンバーではなく「プロデュース」
XGはそもそもルックスや楽曲など、メンバーの多様性や自主性を最大限に活かした魅力を持つグループである。しかしメンバーのセクシュアリティが明言されているわけではない。
そして、以前より楽曲『TGIF』などクィアな世界観を取り入れているという指摘もされてきていることから、こうした方向性がメンバー主導であるとは考えづらいことで、これは「プロデューサーであるSIMON氏の責任だ」とする声もある。
問題のMVの全編が公開予定されていたのは3月7日の18時。全編を見たら印象が変わるのではという声と、ティーザーでこの「ほぼキスシーン」を出したこと自体が問題だとする声が入り混じっており、公開が待たれていたが、予定の時間にオフィシャルアカウントより発表されたのはMVの公開延期であった。
「このたび、より完成度の高い作品をお届けするため、誠に遺憾ではございますが、公開スケジュールを変更させていただくこととなりました。楽しみにお待ちいただいている皆さまには、深くお詫び申し上げます。まずは楽曲をお楽しみいただき、後日、さらに磨きをかけたミュージックビデオをお届けできるよう、現在鋭意制作を進めております」(XG Xオフィシャルアカウントより)
公開延期は今回のクィアベイティング騒動が原因なのか、それとも……。ちなみに公開日時時点では、まだティーザー映像を観ることは可能である。
今年5月14日に、東京ドーム公演も決まったXG。グローバルに活躍するアーティストなだけに、注目度の高いトピックになっている。
<取材・文/美女川満子>