
人気の橋本環奈をヒロインに迎え、鳴り物入りでスタートした朝ドラ『おむすび』。しかしふたを開ければ視聴率は右肩下がり、ついにワースト記録も視野に入るまでに。
朝ドラ、誰の脚本で見てみたい?
「橋本環奈さんがギャルで“アゲ〜”なんて言っても全然似合わない。彼女はもっと男前な感じがして、ギャル設定がまずキツかった」と言うのは、漫画家でテレビウォッチャーのカトリーヌあやこさん。
『おむすび』の脚本は根本ノンジのオリジナル。『正直不動産』シリーズなど、ヒット作は多いものの……。
「朝ドラってヒロインが何かを成し遂げるために努力する部分がキモになる。なのに突然“それから4年後”なんて、肝心なところを飛ばしちゃう。だから盛り上がりがないまま淡々と進んでしまう。オリジナル脚本の朝ドラはどうかすると迷走しがち。毎回、虚無な気持ちで見ています」(カトリーヌさん)
では、誰の脚本なら見てみたい? 30代~60代男女500人に、「朝ドラを書いてほしい脚本家」をアンケート。カトリーヌさんと共に、トップ5の結果を発表しよう。
伝説的な家族ドラマを書いた大御所

5位は倉本聰。アンケートには、「心温まる作品が多いから」(神奈川県・59歳・男性)、「素朴で重厚な作品が多い」(香川県・53歳・男性)、「後から考えさせられるような大作になりそう」(京都府・41歳・男性)とのコメントが集まった。
言わずと知れた大御所で、すでに朝ドラを書いていても不思議ではないが。
「倉本さんは1974年に大河ドラマ『勝海舟』を書いていますが、そのときNHKともめて途中降板した経緯があって。打ちひしがれた倉本さんが北海道に渡り、後に生まれたのが『北の国から』(フジテレビ系)でした」とカトリーヌさん。
『北の国から』のスタートは'81年で、20年強をかけて純と螢の成長を追いかけた。
「世界観の深さがすごい。ただ倉本さんも90歳で、そろそろ朝ドラを書いてほしいところ。主人公の半生を丁寧に追った壮大な物語が生まれそうですね」

4位は野木亜紀子。「今の時代に合ったものを書いてくれそう」(兵庫県・42歳・女性)、「逃げ恥ファンだったから」(東京都・53歳・女性)、「新しい視点の作品を手がけているので」(埼玉県・55歳・女性)と女性の評価が高い。
「『アンナチュラル』の石原さとみさんをはじめ、芯の強い主人公を描くのがうまい。社会問題を取り入れた切れ味のいい作品が多く、いいドラマをたくさん書いています」とカトリーヌさんも高評価。
代表作は、『逃げるは恥だが役に立つ』『MIU404』『海に眠るダイヤモンド』など。売れっ子ながら、朝ドラは未経験だ。
「『海に眠るダイヤモンド』は1950〜'60年代が舞台。主人公の神木隆之介さんと食堂の娘を演じた杉咲花さんの恋が芽生える様子や、昭和の離島での暮らしなど、朝ドラ的な要素を感じました。野木さんならではの朝ドラをぜひ見てみたい」
朝ドラでは珍しいオリジナル脚本が大ヒット

3位は宮藤官九郎。「『あまちゃん』で初めてクドカンの作品に接した。実に面白かった」(東京都・59歳・男性)、「コミカルなので、気楽に見られそう」(福島県・69歳・男性)、「クドカンの作品はみな面白くて巧みで深い」(東京都・59歳・男性)とのコメントが集まった。
クドカンといえば、2013年の朝ドラ『あまちゃん』が大ヒット。昨年は『不適切にもほどがある!』が話題を呼び、流行語大賞を受賞。
「朝ドラはヒロインとその家族、幼なじみが出てきたりと、群像劇になっている。クドカンさんもそうですが、群像劇が上手な人の朝ドラは面白い」とカトリーヌさん。
とはいえクドカン作品が必ずヒットするとは限らない。
'19年の大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』は、大河史上ワースト視聴率を記録している。
「最初に物語に入れないと、なかなか入り込めないのがクドカン作品の“あるある”。でも朝ドラは15分刻みなのでまだ入りやすいはず。『いだてん』も朝ドラだったら良かったかも」

2位はバカリズム。「バカリズムにハズレなし。朝も爽やかに笑いを取れそう」(広島県・58歳・女性)、「ストーリーに勢いがあって続けて見たくなる」(千葉県・58歳・男性)、「独特の脚本で、先の読めない起承転結が素晴らしい」(埼玉県・40歳・男性)とのコメントが集まった。
「バカリズムさんというと、あるあるネタ、そうだよねって小ネタで共感しがち。それでいて思いもよらない展開になったりする。例えば『生田家の朝』では、一家の小さい息子が、公園で会ったおじさんを押し入れで飼っていたり。愛があって謎すぎる(笑)」
'23年のヒット作『ブラッシュアップライフ』に続き、今期の冬ドラマ『ホットスポット』が話題に。独特の世界観が特徴で、なかでもカトリーヌさんがお気に入りというのが『架空OL日記』。バカリズムがOLに扮し、数年間にわたり書いたブログをドラマ化した異色作だ。
「誰にも内緒でOLになりきってブログを書き続けるなんて、もう狂気を感じますよね。本当に普通のOLのブログで、何も起こらない。そこに小さなドラマ性を感じるとご自身も発言していて。そんな朝ドラを見てみたい。
歌手や弁護士など、朝ドラのヒロインはいつも何かを目指してる。でも普通のOLの日常のドラマがあってもいいかもしれない。何かを目指すでもなく、ただ生きている。そんな画期的なヒロインが生まれるのでは」
1位は大河が大好評の超人気脚本家

1位は三谷幸喜。「朝からクスッと笑えると1日元気が出そう」(東京都・47歳・女性)、「コミカルで面白いストーリーをつくってくれそう」(兵庫県・53歳・男性)、「大河ドラマでの手腕を朝ドラでも見てみたい」(長崎県・48歳・男性)とのコメントが集まった。
「三谷さんの朝ドラ、すごく見てみたいですよね。でも三谷さんご自身、朝ドラは書きたくないと言っていて。ドラマで画面に時刻が表示されるのは朝ドラだけ。みんなが時刻を見ながら、あと5分だ、そろそろ盛り上がるのかな、と思われるのが嫌だそう」とカトリーヌさん。
大河ドラマでは常連で、『新選組!』('04年)、『真田丸』('16年)、『鎌倉殿の13人』('22年)の3作をこれまで手がけている。
「三谷さんは歴史オタクというくらい歴史に詳しくて、だから3作も大河を書いた。なので'15年の朝ドラ『あさが来た』のように、幕末から明治にかけての時代ものというのもいいかもしれない。
『新選組!』に土方歳三役で出ていた山本耕史さんが、『あさが来た』にやはり土方役で出演した、なんてこともありました。三谷さんなら、ちょっと今までにない朝ドラができるんじゃないかなって思います」
『おむすび』の放送もあとわずか。3月31日から始まる新ドラマ『あんぱん』の脚本は『花子とアン』の中園ミホ。今回のランキングでは12位に入った。
「『花子とアン』も評価が高かった。『あんぱん』はやなせたかしさんの奥さんがモデル。朝ドラって著名人の奥さんがモデルになることが結構あって、『まんぷく』や『ゲゲゲの女房』もそう。いずれも面白く、今度は期待できるかも」とカトリーヌさん。
さて、『おむすび』の結末は? 『あんぱん』は迷走を回避できるのか─。
<取材・文/小野寺悦子>