
ぽかぽか陽気が続き、花粉シーズン真っ只中。発表されている全国の花粉飛散傾向によると、今年は各地で例年を上回る飛散量となる見通し。
今年の花粉は過去最凶レベル、免疫バランスの強化がカギに
中でも西日本は過去10年で最多の予想で、昨年比でも近畿は3.8倍、四国に至っては8.4倍の量になるとか。テレビや雑誌でも、いつも以上に花粉症が話題にのぼっている印象も。

花粉症患者にとってはとにかく憂鬱なシーズンとなるが、期間が長いだけになるべく薬や病院に頼りたくないという人もいるだろう。そこで注目したいのが“腸内環境”だ。
「花粉症で“腸?”と思われるかもしれませんが、腸には免疫細胞の半分以上が集中しているんです。免疫細胞は、腸でいろいろな教育を受けてから全身に移動して外からの病原体や異物の侵入から身体を守ってくれます。花粉に対しても、通常は“花粉に反応しすぎたらあかんよ”と教育を受けてから鼻に移動していくんです」
そう教えてくれたのは、今までに1万5000人の腸を見てきた“腸と免疫”の第一人者である國澤純先生。
「免疫には、ウイルスや細菌など自分ではない異物に反応して排除するという仕組みがあります。食べ物なども異物ですが身体に必要なのでとり入れないといけないため、それらにはあまり反応しないようにできています。
本来は花粉にも反応しすぎないようになっているのですが、免疫のバランスが崩れることで花粉に過剰反応して症状が悪化します」(國澤先生、以下同)
免疫力は、上がりすぎると暴走して誤作動を起こし花粉症を招くが、逆に下がりすぎても感染症にかかりやすくなってしまう。そのため、アクセル役の免疫細胞とブレーキ役の免疫細胞のバランスをうまく保つことが大事になってくるという。
「いまは花粉症になっていないから大丈夫という方も、来年はどうなっているかわかりません。よく花粉症は、コップの水があふれるように、体内に蓄積される花粉の量がある一定を超えると発症するという説がありますが、それだと田舎の人のほうが圧倒的に多いはずです。
花粉にさらされている量が違いますから。でも、実際のところは都会の人も結構な割合で花粉症になっています。そこからも、花粉にどれだけ暴露されているかという量だけではなく、自分自身の免疫バランスの状態が大きく影響していることがわかります」

生きた菌のいる発酵食品が腸の健康を高めるカギに
腸内の免疫バランスを整えるためには“腸活”で腸内環境を整えることが必須。腸活には運動やマッサージなどもあるが、オススメはやはり腸にいい食事をすること。
「食生活は変えやすいですし、食事はすべての基本になるからです。腸のためにはリンゴやバナナなどの果物やごぼうなどに含まれる食物繊維や、発酵食品、あとはオメガ3脂肪酸のEPAやDHA、亜麻仁油などの油を積極的にとり入れるのが有効です」
腸活といえば食物繊維が有名だが、それだけでは不十分で、さらにヨーグルトや納豆などの発酵食品をプラスすることが大きな意味を持つという。
「食物繊維は腸のエネルギーになったり、便のカサを増やしたりする以外に、“短鎖脂肪酸”という免疫を整える成分を作り出す大事な働きがあることがわかってきました。短鎖脂肪酸を作るには3つのステップがあるのですが、まず、体内に取り込んだ食物繊維やオリゴ糖は納豆の納豆菌や糖化菌と呼ばれる菌によって“糖”に変わります。
次にヨーグルトや腸内にいる乳酸菌やビフィズス菌によって糖から“乳酸”や“酢酸”に変化します。そしてそれらは、複数の腸内細菌によって最終的に酪酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸に変わります。
ヨーグルトをはじめとする発酵食品がなぜ大切なのかというと、このように食物繊維から短鎖脂肪酸を作るにあたって大事なサポート的な役割を果たしているからなんです」

2番目のステップで、乳酸菌やビフィズス菌などが足りなければ糖から次のステップに変化することができずに、そのまま体内に吸収されるため太る原因にもなってしまうかもしれません。では、乳酸菌やビフィズス菌を含む食品としてオススメなものはなんだろう。
「ひとつは生きた菌が入っているヨーグルトですね。ほかにも乳酸菌は漬物やキムチ、味噌なんかにも入っているものが多いです。特にキムチや漬物で、時間が経つと酸っぱくなるものがありますが、それは菌が生きている証拠なので、そういった生きた菌が入っているものを選ぶのがオススメです」

とり方にもポイントがあるという。
「乳酸菌は体内に数日しか留まらないといわれるので、ヨーグルトなら1日に1カップ(約200g)を食べることを目安にするといいでしょう。また、他にもいろいろな発酵食品を食べてほしいですね。
例えば、冷めたご飯は食物繊維と同じような働きをするので、コンビニで納豆巻きを買って、デザートにヨーグルトを食べるだけでも簡単に腸活になります。腸活は長く続けることが大事なので、ちょっと意識はしつつも頑張りすぎないのがポイントだと思います」
身体に良いからといって同じものばかり食べ続けるのもよくない。
「腸の中もダイバーシティが大事なんです。先ほどの3つのステップを成立させるためにも、偏らずにいろいろな食材をとって多様な腸内細菌を育てることが望ましいです」
お通じの改善はだいたい数日から1週間程度で体感し始めることが多いそう。では腸内環境が整うと、免疫機能はどれくらいで整っていくのだろうか。
「個人差はありますが、免疫の向上にはそれなりに時間がかかります。元のバランスが崩れている人であればなおさらです。薬ではないので、腸活でいきなり花粉症が改善するとか、今年の花粉症対策に間に合う、とまでは言いきれません。
ですが腸活は一生もののことです。今年間に合わなくても来シーズンやこれからの将来に備えて、花粉症に限らず、さまざまな病気になりにくくするためにも腸を元気にして免疫のバランスを整えることは欠かせません。皆さんも、ぜひ今日から腸活を始めてほしいです」

お話を伺ったのは……國澤 純先生●国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 副所長。ヘルス・メディカル微生物研究センター センター長。ワクチンマテリアルプロジェクト/腸内環境システムプロジェクト プロジェクトリーダー。東京大学や大阪大学、神戸大学などの客員教授や招へい教授なども務める。著書に『腸のすごい世界』(日経BP)、『「善玉酵素」で腸内革命』(主婦と生活社)など
取材・文/荒木睦美