『ヤヌスの鏡』の放送情報(東京MX公式サイトより)

 飲酒・喫煙・不純異性交遊の3コンボを決める女子高生の内田有紀や、カツラと口紅だけを身に着けた女装姿で次々と人を殺める三上博史(とそれをドン引きして見つめる小泉今日子)が出てくるドラマを令和の時代に放映しているテレビ局、それがTOKYO MXだ。

 TOKYO MX月曜〜金曜の5:10から6:00までの50分間は、局の垣根を超えたさまざまなドラマが再放送される枠なのだが、セレクションがかなり独特であることが一部で注目されてきた。

 冒頭の自由奔放な内田有紀は、売り出し中の彼女が出ていた『半熟卵』、多重人格者の演技が周囲と段違いすぎて浮いてしまう三上博史が堪能できる『あなただけ見えない』をはじめ『もう涙は見せない』『もう誰も愛さない』の“ジェットコースター三部作”もこの枠ですべて放送された。

 また『週末婚』をはじめとするドロドロのドラマを描かせたらピカイチな内館牧子脚本の『汚れた舌』、『年下の男』などもこの枠で放送され、往年のドラマファン注目の枠となっているのだ。

 昭和・平成初期のドラマを見ていると、未成年の飲酒・喫煙・不純異性交遊は当たり前で、お色気あり・バイオレンスありで「こんなことゴールデンタイムのドラマでやってたの!?」と思わず言いたくなる、まさに“不適切にもほどがある”状態。それらに令和の時代に堪能できるのは幸運なことである。

早朝から「大映ドラマ」でお腹いっぱい

プロゴルファー祈子の放送情報(東京MX公式サイトより)。主人公(演:安永亜衣)の目力が強すぎる…

  この早朝ドラマ再放送枠、ここ半年ほどはいわゆる「大映ドラマ」の再放送が続いている。大映ドラマとは、大映テレビが制作してきた一連のドラマで、とにかくやりすぎの演出・くさすぎるセリフ・時代のトレンドをふんだんに取り入れているのが特徴だ。

 2024年10月ごろに始まった『スタア誕生』を皮切りに、『花嫁衣裳は誰が着る』『ヤヌスの鏡』『このこ誰の子?』と続き、現在は『プロゴルファー祈子』が放送中である(以下多少のネタバレを含みます)。

近づくと火傷するよ?

 とりわけ有名な『ヤヌスの鏡』は、パンチの効いたセリフが有名だ。躾の厳しい祖母に育てられた優等生裕美(演:杉浦幸)が、その折檻を連想させるショックを受けると、凶悪な大沼ユミという別人格に豹変してしまうという設定。

 祖母はたびたび裕美を「お前には淫蕩な血が流れておる」と罵倒するが、人格豹変後のユミは祖母に「ババアが泣けば足元からウジがわくっていうじゃないか!」と反撃。また、ユミが友達以上、恋人未満の達郎(演:風見しんご)に放った「たっちん、今日のアタシはギンギンに燃えてるんだ。近づくと火傷するよ?」というセリフはかなり有名だ。

『ヤヌスの鏡』の放送情報(東京MX公式サイトより)

 現在放送中の『プロゴルファー祈子(れいこ)』はDVD化されていなかったがカルト的人気を誇る作品である。

 良家のお嬢さんだった主人公・祈子が、胸にゴルフボールが直撃する事故をきっかけに兄が失踪。さらに父が殺人容疑で失踪ののち遺体で発見され、家族は崩壊。胸にゴルフボール型の痣を持った少女・祈子は非行に走って暴走族のヘッドとなり、5番アイアンで敵をぶんなぐったり、火の着いたゴルフボールを打ち込んだりして大暴れしていたが、父の魂を受け継いで自身もプロゴルファーを目指す……とあらすじだけでお腹いっぱいだろう。

 そんな『プロゴルファー祈子』も3月18日に最終回を控え、後釜に『青い瞳の聖ライフ』と、これまたDVD化されていないレアな大映ドラマが放送予定だ。

 願わくばこの流れが続き、いずれは雛形あきこがストーカー女性を熱演する出世作『ストーカー・誘う女』や、宮沢りえ連ドラ初出演作の『スワンの涙』(いずれも未DVD化)なども放映してくれることを期待したい。

 ドラマファンや昭和レトロ好き垂涎のこの再放送枠だが、TVerなどでの配信はもちろんないため、TOKYO MXが映る地域の方は帯での録画予約を推奨する。朝起きたら、とんでもない映像があなたのテレビのハードディスクドライブに保存されているかもしれないのだから。

<取材・文/白石優>