斎藤元彦兵庫県知事

 兵庫県知事・斎藤元彦氏が“パワハラ疑惑”などで内部告発された問題で、3月4日、県の百条委員会は調査結果の報告書をまとめた。

「看過できない問題があった」

 それによれば、“パワハラ”などについて「一定の事実が含まれていた」とした上で、告発文書への県の対応は「全体を通して客観性、公平性を欠いており、大きな問題があった」と指摘。百条委員会・委員長の奥谷健一県議はこう語っている。

「元県民局長作成の文書については、事実無根でも嘘八百でもなかったというのが我々の調査結果です」

 兵庫県を混乱の渦に巻き込むことになったこの『文書問題』について振り返ると、昨年3月、元県民局長・A氏が斎藤知事に関する告発文書を報道機関に送ったところ、知事は元副知事らに“告発者探し”を命じた。3月27日の会見で、知事は文書について「嘘八百」「事実無根」と主張。A氏は4月に公益通報制度を利用し通報したが認められず、5月に県から停職3か月の懲戒処分を受けたが、7月に死去した。

 一連の動きを受けて、昨年6月に県議会で百条委員会の設置が決定された。今回まとめられた報告書では、「告発文書の内容はおおむね事実だったと言える」と、斎藤氏をめぐる7つの疑惑についてパワハラなど5つを“一定の事実”と認定。そして、同氏が“妥当”と主張していた“告発者探し”やA氏の“懲戒処分”など、県の対応については「看過できない問題があった」と指摘した。

 報告書は県議会で正式に了承され、『文書問題』は片付いたように見えるが、これで一件落着となったわけではない。この問題を発端に、その後の兵庫県知事選で起こったさまざまな問題はまだ解決していない。それどころか、『文書問題』についても、また新たな騒動が起きようとしている。

すっとぼけたような態度に怒声

 報告書が県議会で正式に了承された後、3月5日の定例会見で、斎藤知事は報告書について、「一つの見解が示されたということは、しっかり受け止める必要がある」と百条委員会の調査結果をあくまでも“見解”と捉え、告発者探しやA氏の懲戒処分などの県の対応は正しかったと、従来の主張を曲げることはなかった。

 その根拠については、「告発書は誹謗中傷性が高かった」からだとし、処分理由についてA氏が公用パソコンを使って「倫理上きわめて不適切な、わいせつな文書を作成されていた」と述べた。そしてこの発言が物議をかもしている。5月に県の人事当局が懲戒処分を公表した際の説明では、単に『職務專念義務違反(勤務時間中に私的文書を多数作成)』とされていたはずだが……。

「これまでは、A氏が“公用パソコンを使って業務とは関係ない文書を作っていたから”というのが処分理由の1つでしたが、会見で急にその文書の内容について言及し、しかもそれも処分理由だと言い出したのには驚きました」(地元紙記者)

カニもおねだり(斎藤元彦兵庫県知事のインスタグラムより)

 斎藤知事が私的文書について言及し出したことに、記者からは「公益通報者と認定されたA氏に不利益を与える、傷つける発言をなぜするのか」というその意図について質問が集中した。しかし、知事はその理由については答えず、「倫理上不適切なわいせつな文書だったから」と繰り返すのみ。

 会見の後半で質問に立ったフリージャーナリストが「晒す必要などないじゃないですか! あなたは人が死んだことをなんだと思ってるんですか!」 と詰め寄ると、5秒ほどの間が空いた後、知事は「あっ、質問ですか」と一言。このすっとぼけたような態度に対し、ジャーナリストの男性からは、「あなたの人間性を問うてるんです! あなたの日本語能力に合わせましょか? 死者を冒涜するな! 職員をバカにするな!」と、怒りの声が上がった。

 橋下徹氏も、自身のXでこうポストしている。

《告発を握りつぶすのに、その告発者の悪性を立証しようとすることは絶対にやってはいけない。 今回の兵庫県政の混乱は、斎藤さんやその周囲の幹部たち、しかも告発を受けた面々が、告発者の悪性を立証しようとしたことが原因。 斎藤さんはさらに告発者の悪性を立証しようとしている。最悪。 告発者に悪性があったとしても内部告発して取り扱わなければならないのが内部告発の原理原則》

不信任は「突きつけにくい」

 斎藤知事がなぜここにきてA氏が作ったとされる私的文書の内容を晒し始めたのか、在阪テレビ局の記者によると、

「公用パソコンにあったデータについては、知事の側近だった元総務部長が県議に漏洩した疑いが濃く、百条委の報告書では“(A氏を)貶めることによって、告発文書の信頼性を毀損しようとした”と指摘されていました。立花孝志氏と同じロジックで、“そんなことをしていた人が作った告発文書は信用できない”と印象付けたいんでしょう。告発文書の大部分が事実だと認定されたにもかかわらず、この期に及んであんなことを言っているのは、万が一ですが、再び不信任案が提出され、選挙になったとき、前回同様、“自分は何も悪くない”と主張し、有権者の支持を得ようとしているのではないでしょうか

 しかし、この発言が不信任案提出の可能性を濃くした、というのは前出の地元紙記者。

再選後に感謝を述べる斎藤元彦氏(本人インスタグラムより)

「実は、報告書の素案では、元県民局長の名誉の回復と処分の撤回を求める提言が記されていました。本案で削除されましたが、それを望む県議は多い。なのに、あの発言。怒っている人は多いでしょう。

 ただ県議会としては再び不信任を案を提出することには、報告書の総括は《斎藤知事は周囲の進言や意見に真摯に耳を傾ける姿勢を持つ必要があり、(中略)兵庫県のリーダーとして共感やいたわりの姿勢を持ち、透明性のある兵庫県政の確立に努めるべきである》となっています。斎藤氏がそれこそ真摯に受け止めて、あのような発言をせず、謝罪していれば問題はなかったと思います。あの会見を見て怒りを感じた人は多いでしょう。

 とはいえ、県議会としては、不信任を突きつけにくいと考えています。斎藤氏は、公益通報者保護の問題やパワハラ疑惑が出た後に再選されてますからね。となると、法的拘束力はないものの、議会の意思表示として問責や辞職勧告を提案することになりますが、前回同様、知事は拒否するでしょう。『文書問題』を調査している第三者委員会の報告を待って態度を決めると言っている議員もいるので、結果次第では不信任案の提出もあるかもしれません

 前記に続き橋下氏は、こうポスト。

《権力者として失格。 斎藤さんが辞職しないのであれば、議会は不信任を突きつけろ! やっぱり兵庫県政の大混乱の根源は、斎藤さんの資質によるな。権力を乱用する権力者の典型だ》

 3月11日の定例会見でも発言の撤回はなく、兵庫県が再び混乱に陥ることは避けられないようだ。