
新しい美の基準を追求する国際的コンテスト「ミセスユニバースジャパン2022」に当時79歳で史上最高齢のファイナリストとして出場し、5位に入賞した高岡邦子さん(81)。同年、鍛え上げられた身体の美しさを競う「ベストボディジャパン前橋大会」60歳以上の部でもグランプリに輝いた。
現在はシニアモデルとしてCMやテレビに出演し、自身のSNSやブログで健康法や毎日の食事など、健康美を保つためのライフスタイルを積極的に発信している。
40代で子宮筋腫と重い更年期障害に
そんなバイタリティーあふれる高岡さんは、現役医師としての顔も持つ。
「多感だった中学生のときに人間は何のために生まれてきたのかと悩み、偉人の伝記を読みあさりました。生まれてきたからには人の役に立つ人生を送りたいと思い、男も女も関係なくできる医師になろうと」(高岡さん、以下同)
しかし、当時は女性の社会進出が進んでいなかった時代。両親と高校の先生は「女だてらに医者になったら、お嫁に行けなくなる」と猛反対。
両親は娘を諦めさせようと、「医学部に行くなら都内の実家から通学できる範囲の国立大学で、現役合格」という条件を課した。高岡さんはその壁を突破し、千葉大学医学部に進学。女子生徒は1割という状況の中でも、信念を持って勉強に励んだ。
「どの診療科を目指そうとなったときに、命の根源にかかわるところで働きたいと、心臓や血管を扱う循環器内科を選びました」
大学卒業と同時に高校時代から交際していた同級生と結婚。しかし、医師として成長し、仕事が面白くなるにつれ、夫とのすれ違いが増えていく。やがて少女時代から抱いていた「無医村で働きたい」という夢をかなえるために離婚を決意。結婚生活は5年で終止符を打った。
「当時30代前半だった私は、沖縄に2年間移住して離島の巡回診療を行いました。人口1500人の島から10人の島まで、医師のいない島々を船に乗って回るのですが、めったにない機会ですから、島民の方が殺到して。
一人ひとりの相談に乗っているとあっという間に夜になっている毎日。すごく頼られてやりがいがありましたが、次第に病気になる前の予防に力を入れたいと考えるようになりました」
重度の更年期障害に
食事と運動で健康な身体をつくる予防医学を極めようと東京に戻ることに。その後、病院の勤務医として朝から深夜まで休みなく働く状況が何年も続き、身体が悲鳴を上げたため退職。
少しの休職期間を挟み、42歳のときに自身のクリニックを開業した。生活習慣病の運動療法をライフワークとし、65歳まで22年間勤め上げたという。

「クリニックを後継者に譲り、海外医療支援をしようと準備していたところに東日本大震災が起きて。国際医療ボランティア組織『AMDA』の一員として被災地に6週間滞在し医療支援をしました」
現在もAMDAの顧問、企業の産業医などを務め、幅広く活躍している。
医師としての使命に燃え、激務をこなしてきた高岡さんだが、40代後半からは女性特有の病気に悩んでいた。
「子宮筋腫がどんどん大きくなってしまい……。担当医からは手術する必要はないと言われていたけど、私はがんになる可能性が少しでもあるならと、子宮の全摘出を決めました。いざ筋腫を取って検査をしたら早期がんが見つかって。手術を選んで本当によかったと思いました」
しかし、その後は重度の更年期障害に苦しむことに。
「出勤中にホットフラッシュが起きてメイクが全部落ちるくらい汗をダラダラかいたり、倦怠(けんたい)感も強くて、まるで別人になったようにいろいろなことが億劫になってしまって。サプリや漢方薬などいろいろ試しましたが、私には効果がなく。
けれど、減少している女性ホルモンを薬で投与する『ホルモン補充療法』をやってみたら、1週間で心身共に回復したんです」
自身の体験をもとに、更年期障害に悩む女性へのアドバイスも行っている。
「婦人科に行くなら、やはり更年期障害を経験した女性医師がいる病院がおすすめ。ホルモン補充療法を怖がる方は多いですが、合わないと感じたら医師に相談のうえ、いつでもやめられます。治療をする場合は、乳がん、子宮がん検診を必ず受けておくことも大切です」
人生を変えた人工股関節の手術
40代の高岡さんを襲ったのは更年期障害だけではない。股関節の軟骨がすり減り、骨同士がこすり合うことで痛みが生じる変形性股関節症も発症した。
「歩いていると腰がだるくなることが増え、痛みも出てきたので病院に行ったところ判明しました。私の場合、遺伝的な要因に加えて、若いときにスポーツをやりすぎたことも原因だったようです。50代、60代と、だんだん痛みが増して、歩き方が不自然になったり、大好きなスポーツも身体への負担が少ない水泳以外、できなくなりました」
我慢できていた痛みは70歳を過ぎて劇的に悪化。100m歩くことも苦痛で外出が困難になり、ついにはトイレに行くときも這(は)いつくばって移動していたという。
実は股関節の疾患は日本人女性の6人に1人が患っているといわれるほど身近なもの。高岡さんの知人も変形性股関節症を患い、傷んだ股関節を人工物に替える「人工股関節置換術」を受けていたが、歩き方まできれいに治ることは少なく、手術に抵抗を感じていた。
ところが、同じ病気で脚を引きずっていた友人が手術後に美しいフォームで歩いている姿を見て衝撃を受ける。

「調べてみると、最近は手術方法が進歩していることがわかって。もちろんリハビリも必須ですが、術後もきれいに歩けるならと、気持ちが変わりました。このまま寝たきりの人生を送りたくないし、仕事中も愛用するほど好きなヒールを履けなくなるのは絶対にいやだと思い、手術に踏み切りました」
こうして76歳のときに両側の人工股関節置換術を受ける。同じ病気に悩む人の参考になればと術後の経過をブログに書き始めると、医師であり患者でもある意見は説得力があると徐々に読者が増えていった。
さらに、運動できずに太ってしまった体形を戻すため、主治医の許可が下りた術後3か月から、身体のゆがみを直すピラティスや体幹トレーニングを開始。
「運動に制限がなくなった1年後には、パーソナルジムでウエイトトレーニングを始めました。すると体重がグッと減り始め、1年3か月後には50kgあった体重が40kgになり、ウエストは23cm減って55cmになったんです」
ウォーキングレッスンも受けて、歩き方も改善。ボディメイクが成功すると、ジムの担当トレーナーからコンテストに出ないかとすすめられ、78歳のときに関西で開催された「ミズ椿」に出場し、準グランプリを受賞。翌年には、女性の社会的地位向上という大会趣旨に共感した「ミセスユニバースジャパン」へのエントリーを決めた。
「人工股関節の手術をしても、これだけ元気でいられるよと同じ病気の人たちに勇気と希望を届けたい一心でした」
参加することに意義があると思っていた高岡さんだが、医師としての経歴や内面的な魅力が高く評価され、5位入賞を果たした。
「ファイナリストは何十歳も年下の若い方ばかりでしたし、まさか入賞するとは思っていなくて、名前を呼ばれたときは本当に驚きました」
受賞を機に、多くの人に向けて発信するのが自分の務めだと思うように。
「私は手術をして人生が明るく変わったので、“新しいことを始めるにはいくつになっても遅すぎることはない”ということを伝えたいです」
心と身体を美しく保つ習慣
更年期障害と変形性股関節症を乗り越え、今では元気にひとり暮らしをしている高岡さん。心と身体を美しく保つ習慣を問うと、第一に「好奇心」だという。
「小さいころから好奇心旺盛で、スポーツでも料理でも、何でもやってみたいと思うタイプ。手術やコンテストに挑戦したのも、とにかくやってみようという気持ちが勝ったから。
年齢を重ねるにつれ“この年で新しいことを始めるなんて不安”となりがちですが、どうなるかわからない未来を心配するより、前向きにやってみることのほうが大事だと思うんです。私も手術前は、80代でドレスを着て人前に立つとは思ってもみなかったですから(笑)」
ワクワクする気持ちを持ち続けることが若さにつながる。
「一生懸命やるだけやったら結果にはこだわらない性格なのも、ストレスを寄せつけない秘訣(ひけつ)かも。失敗しても、まぁしょうがないやって(笑)」

2つ目は「食事」。多忙なころは毎日コンビニ弁当だったというが、65歳でクリニックをリタイアしてから、食生活がガラリと変わった。
「コンビニ弁当をやめたら、2か月くらいで肌と髪の質がすごくよくなって。それから添加物の多い食品はなるべく避けて、家で自炊するようになりました。今は友達との約束以外、自分から進んで外食することはないですね」
食事は炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミンやミネラルといった栄養素をバランスよく取り入れているが、中でも重要なのはタンパク質だという。
「タンパク質は筋肉や骨、髪、肌などあらゆる組織をつくる栄養素です。特に女性は閉経後に女性ホルモンが低下して筋肉量が減り、骨ももろくなる傾向があるので、積極的に摂取するのが良いかと思います。私は、肉か魚の主菜に卵や納豆などの副菜をプラスして、タンパク質を毎食3品はとるようにしています」
ストレッチで老い知らずの身体に
物価高の影響もあり、手が出しにくい魚料理には、缶詰や干物を活用することも。
「サバ缶や、アジやサケの干物を常にストックしています。本当は新鮮な生のお魚がいちばんですが、食べないよりは加工品を活用するのも大事かなと」
間食は甘いお菓子を避けるのもポイント。
「余分な糖は体内でタンパク質や脂質と結びついて“糖化”が進み、シミやしわなど肌の老化として現れますから、とりすぎは禁物。どうしても食べたいときは小皿に少量を取り分けて“これしか食べない”と決めて食べるのがおすすめ。
私は小腹がすいたときは、炒り豆やゆで卵、チーズなど低カロリーでタンパク質がとれるものを食べるようにしています。特に炒り豆は安くてお気に入り。最初は味けなく感じるかもしれませんが、よく噛んで食べると甘みを感じられ、腹持ちもいいですよ」

3つ目は「ストレッチ」。高岡さんはコンテストを意識して、パーソナルジムを週2回、ピラティスを週1回、ウォーキングレッスンを週1回、そのほか単発のレッスンを含めて週5日トレーニングを行っている。80代とは思えない運動量だが、身体づくりの基本になっているのは自宅でのストレッチだという。
「股関節を柔軟にする『カエル体操』は特に大事です。私はこれを怠ると股関節が硬くなって膝の曲がった歩き方になってしまうので、毎日欠かせません」
運動不足や長時間座りっぱなしでいることで股関節が硬くなると、姿勢が悪くなったり、腰痛を起こしやすくなる。
逆に、股関節の柔軟性が高まると股関節痛や腰痛、ケガのリスクが減るだけでなく、骨盤が正しい位置に戻ってぽっこりお腹が改善したり、血流がよくなって冷えやむくみが緩和するなど、多くのうれしい効果が期待できると高岡さん。
「『カエル体操』は特別な道具は必要なく、5分あればできるので、ぜひ気軽にやってみてください。ただ、股関節が硬い方は無理をすると痛みが出るので、できる範囲で少しずつ取り組むのがいいと思います。毎日続けると、股関節がやわらかくなって全身の血流がよくなったなど変化を感じられますよ」
最後に、週女世代の50代~60代女性に向けて、アドバイスを聞くと……。
「この世代は子育てや親の介護が重なる人もいて、人生で一番忙しい時期。私も仕事をしながら両親の介護をしていて、われを忘れるくらい頑張っていました。
でも70歳を過ぎて解放されたときには股関節の痛みがピークに達していて、そこでようやく自分の身体に向き合えた。なので、大きな不調につながる前に、時には手を休めて自分の心と身体に寄り添う時間をとってくださいね」
また、これからもいろいろなことに挑戦して、“シニア女性”のイメージを変えていきたいと微笑(ほほえ)む。
「古希や喜寿も経験したけれど、全然年をとった気がしないし、やりたいこともまだまだたくさん。90歳になってもハイヒールを履いて、元気なシニア女性代表を目指します」
1日5分「カエル体操」
股関節をやわらかくして 全身のむくみ、ぽっこりお腹を撃退
(1)四つんばいになり“カエル”ポーズをとる

四つんばいになり、両ひじを床につけながら、痛みが生じない程度まで両ひざを外側に広げる。かかとの内側を床につけて、腕とひざ下は身体と平行になるようにする。
(2)カエルポーズのまま背中を10回、前後に動かす

背中を真っすぐにして、広背筋を伸ばすイメージで前後にゆっくりと10往復動かす。
(3)骨盤を左右に10回動かす

股関節が動いているのを意識しながら、骨盤を左右に10往復動かす。滑らかに動かしすぎないで、右、左から中央に戻ったら一度止まるイメージでゆっくり行う。
(4)骨盤をぐるぐると回す

ひじに体重をかけながら、骨盤を中心に下半身全体を回すイメージで、骨盤をぐるぐる回す。右回し、左回し、各10回ずつ行う。
《POINT》1~4を1セットとして3セット行う。慣れてきたら、10回動かすところを15回など、回数を増やしていく。毎日継続することで、股関節の柔軟性がアップ!

高岡邦子さん●1943年生まれ、東京都出身。内科医師。元高岡クリニック院長。人工股関節の手術を経験後、79歳で「ミセスユニバースジャパン2022」に出場し、5位入賞。現在はシニアモデルとしてCMやテレビに出演。
取材・文/小新井知子