送検中の谷内寛幸容疑者は、無表情のまま、顔を伏せることもなかった(共同通信社)

 4月14日の夜、さいたま市桜区のマンションで凄惨な殺人事件が発生した。

「被害者は高校1年生の手柄玲奈さん。自宅マンションのエントランスに到着した直後、後から入ってきた谷内寛幸容疑者にいきなり襲われ、刃物で複数回、刺されるなどしたそうです。通報を受けて駆けつけた警察官が血まみれで倒れていた手柄さんを発見。意識不明の状態で病院に搬送されましたが、のちに死亡が確認されました」(全国紙社会部記者、以下同)

 事件後、谷内容疑者は現場から約1・2km先にある交番まで歩き、通行人に110番通報を依頼したという。

 同じマンションの住人男性は言う。

「手柄さんは、両親と兄の4人家族。彼女が小学校2年生くらいのころ、このマンションに引っ越してきました。幼いころは活発で、マンション近くの駐車場で友達と集まって楽しそうに遊んでいたのを覚えています」

 事件が起きたマンションに設置された献花台には、彼女の死を悼む人が後を絶たない。手柄さんと小・中学校が同じで親しくしていたという1学年下の女の子は、いつも明るかった手柄さんをイメージして鮮やかな黄色の花を携えて弔問。彼女との思い出を振り返った。

「夏休みに一緒にバスケをしようね」

被害者の手柄玲奈さんは、4月に高校に進学したばかりだった

「バスケが好きで、体育委員で、明るい印象があったので黄色い花を選びました。先輩は青いシャーペンをいっぱい持っていて、いつも持ち歩いていたので、青い花も入れました。小学生のとき、私が校庭で転んだことがあったのですが、先輩はすぐに絆創膏を貼ってくれて“手をつないでいれば大丈夫だよ”と優しく言ってくれました。先輩が中学校を卒業するとき“私も高校で頑張るから、受験が終わったあとの夏休みに一緒にバスケをしようね”って言ってくれたんです。その約束がかなわなくて……」

手柄玲奈さんの献花台の花は、水の入ったバケツに入れられるなど配慮されていた

 制服姿や同じ年頃とみられる男女の献花も目立つ。マンションの住人は、

「女の子が献花台の前で泣きじゃくって、それがたまらないんです。本当にいい子だったから」

 いつまでも献花台から離れようとしなかったり、帰り際に、まるでそこに手柄さんがいるかのように手を振って帰っていく姿もあった。

 遺族も深い悲しみに包まれているようだ。

「事件から数日後、手柄さんのご両親とお兄さんの3人が外出するところを見かけました。お父さんは、マンションの管理人さんに会釈をして挨拶をしたりと気丈に振る舞っていましたが、お母さんは肩を落として憔悴しきった様子。歩くのもやっとのようで、お兄さんの手を握り締めて、すがるように歩いていました」(同じマンションの住人)

普通の普通の家庭に行きたい

谷内寛幸容疑者の中学時代のSNSには、家族に対する嫌悪感が綴られて

 谷内容疑者は2024年末ごろから同区内の建設会社で作業員として働き、会社の寮に住んでいたという。

「取り調べに対して黙秘を続けているようですが、手柄さんとの接点は見当たりません。彼の自室から未使用の包丁が見つかったのと、事件を起こす約1時間半前から現場周辺を徘徊していたことから、警察は以前から通り魔的な犯行を計画していた可能性があるとみて調べています」(前出・全国紙社会部記者、以下同)

 明確な動機が明かされず、いまだ謎多き事件。容疑者は中学時代、SNSに試験勉強や受験の悩みをつづる一方、

《違う家にうまれたかった》

《うまれる先を間違えたわほんとに》

《普通の普通の家庭に行きたい》

 と、家族に対する嫌悪感を吐き出し、山奥で他人と暮らしたいといった、断絶も願っていた。

犯行現場から、確保された交番までの道路には、血痕が残っていた

 少年時代を過ごした都内のマンションには、もう家族は誰もいない。かつては両親と姉、男兄弟と5人家族だったというが、父親と男兄弟、本人が出ていったという。

母親も2023年末に自室でボヤ騒ぎを起こし、居づらくなったようで、ほどなくして出ていきました。その後、亡くなったと聞いています。1人残された姉も、間もなく引っ越していきましたので、今は容疑者の家族は誰も住んでいません」(同マンションの住人)

 一家離散となり、帰る場所を失っていた容疑者。

「なるべく長く働きたい」

 勤務先だった建設会社の社長は事件に疲弊しきった様子で、こう話す。

「仕事熱心でまじめでした。将来についても、うちで“なるべく長く働きたい”と話していました。悩みを相談されたことはありませんが、家族関係について“僕は天涯孤独になるんだ”と言ったことがありました」

 事件当日、社長は仕事終わりに「酒でも飲むか?」と、誘ったという。

「外に飲みに出かけるのではなく、会社の寮の食堂で一緒に飲むかと誘ったんです。私が酒を買ってきて、アルコール度数の低い甘い酒もあるからどうだ?って。でも“今日はやめておきます”と言われて。彼は普段から飲まないというか、飲めないんです」(同・社長)

 かつては家族を疎ましく思っていた谷内容疑者。一連の凶行は孤独が生み出したものなのか、それとも─。