
映画『ベルサイユのばら』が好調だ。公開30日間で観客動員数30万人、興行収入4・3億円突破とヒット。原作はフランス革命を舞台にした池田理代子の名作漫画で、連載スタートは今から50年以上前のこと。
「池田先生もそうですが、当時は作家たちが自ら少女漫画の新しいジャンルを切り開いていった。あのころのエネルギーはすごかったようですね」と言うのは、女子漫画研究家の小田真琴さん。振り返れば、名作・傑作漫画が次々誕生し、少女たちの心をつかんだ昭和の時代。そこで、昭和に少女時代を過ごした40代~70代の女性500人にアンケート。あのころ一番夢中で読んだ、昭和の少女漫画を教えてください!
夢中で読んだ昭和の少女漫画ランキングTOP5

5位『アタックNo.1』(浦野千賀子)。
1968年から'70年まで『週刊マーガレット』(集英社)で連載され、アニメやドラマも人気に。
アンケートには「必殺技に夢中になった」(広島県・64歳)、「大げさな描写が面白かった」(兵庫県・72歳)、「スポ根漫画全盛期だった」(東京都・60歳)との声が集まり、33票獲得。
「'64年に東京オリンピックで日本の女子バレーが金メダルを取った。その流れの中で描かれた漫画で、大きな人気を集めました」と小田さん。スポ根漫画の金字塔で、バレーボールブームを生み出した。
「読者層は今の60代〜70代と昭和でも上の世代。荒唐無稽な特訓の様子などは今読むと思わず笑ってしまいますが、それを含めて十分に楽しめる作品です」(小田さん、以下同)
4位は『ベルサイユのばら』(池田理代子)。

'72年から'73年まで『週刊マーガレット』で連載され、今年1月に劇場版アニメが公開された。
「少女漫画なのに歴史ものという珍しい漫画だった」(千葉県・55歳)、「男装の麗人オスカルなど登場人物が魅力的。フランスが舞台だったり、美しいドレスなど、憧れる要素がたくさんありました」(京都府・65歳)、「マリー・アントワネットという実在するフランス王妃の一生が描かれ歴史の勉強にもなった」(兵庫県・66歳)と、51票獲得。
「当時、歴史ものは人気が出ないと編集部に嫌がられたけれど、池田先生はそこを押し切って大ヒットにつなげた。オスカル宛てのファンレターがものすごかったと聞いています」と小田さん。アンケートのコメントも、オスカル推しの声が圧倒的。フランス革命を背景にした独特の世界観を挙げる声も多くみられた。
「池田先生は革命を描かせたら日本一の漫画家です。でも連載当時フランスに行ったことがなく、想像で描いていたそうです。それがみんなの心に刻まれたのはすごい。男社会の中で女性が働くお話でもあって、そこが女性の社会進出の波とうまく重なったところもあった」
大接戦となったTOP3

3位『ガラスの仮面』(美内すずえ)。
'75年12月に『花とゆめ』(白泉社)で連載がスタートし、累計発行部数は5000万部を突破。
「演劇をテーマにしていたのが斬新だった」(東京都・46歳)、「北島マヤと姫川亜弓のライバル関係から目が離せない」(兵庫県・53歳)、「演劇の世界のすさまじさが見ごたえがあった」(兵庫県・49歳)と54票獲得。
「圧倒的なエンタメ性があり、スポ根要素も強いから男性も楽しめる。マヤと亜弓のライバル関係は今のシスターフッドそのものですし、どう読んでも面白く、だから根強い人気がある」と、小田さんも大絶賛。天才少女のマヤと有名映画監督の父と大女優の母を持ち、美貌・才能・家柄に恵まれた亜弓、どちらが幻の作『紅天女』を演じるか─。既刊は49巻で、連載開始から50年がたつ今、なお未完となっている。
「この50年で時代も変わり、42巻で携帯電話が出てきたときは、ファンがざわめきました(笑)。美内先生いわく、終わり方はすでに決めているそうですが、読者が3世代にわたってきていて、そろそろ結末が見たいところだけど……」

2位『ときめきトゥナイト』(池野恋)。
「真壁君に一目惚れして」(青森県・54歳)、「ファンタジーな内容と真壁君のツンデレ具合と蘭世の一途さが大好きで夢中で読んでいた。絵もとても上手でまねして描いていた」(宮崎県・45歳)、「真壁君がカッコよく、蘭世との恋のゆくえがとても素敵だった」(神奈川県・48歳)、「つれない少年・真壁俊と、魔界の少女・江藤蘭世とのラブリー恋心に小学生だった私はキュンキュンしてました!」(長野県・54歳)と、56票獲得。
'82年から'94年まで『りぼん』(集英社)で連載され、累計3000万部を突破。
「メディアミックスがうまくいった作品でした。ちょうど『りぼん』の全盛期とかぶっていて、それもあって印象に残っている人が多いのでは。このころの『りぼん』の王道中の王道。やっぱり深く心に刺さるのは王道なんだなと感じます」と小田さん。アンケートには、真壁君のツンデレにやられた、との声が多く寄せられた。
「イケメン、ツンデレはこのころの少女漫画に多いキャラ。ツンデレは今もみんな大好きで、これも一つの王道といえるでしょう」
今読むなら古本を探すしかないNo.1

1位『キャンディキャンディ』(水木杏子/いがらしゆみこ)。
'75年から'79年まで『なかよし』(講談社)で連載。単行本は全9巻で、累計発行部数は1200万部突破を記録している。
「キャンディが明るくパワフルで魅力的。ストーリーもドラマチックで引き込まれた」(神奈川県・40歳)、「キャンディの純粋さとアンソニーのカッコよさに憧れてた」(静岡県・57歳)、「ニールやイライザに意地悪されるキャンディを応援したくなった」(千葉県・56歳)と、66票獲得。
「キャンディのようなおてんばじゃじゃ馬キャラは'70年代の少女漫画に数多く登場します。そして女の子が自分の力で夢を叶え、そんな彼女を見守ってくれる男性がいる。これは『あしながおじさん』の時代から続く、ある種の憧れの形ですね」
と小田さん。
アニメもヒットし、人気に大きく拍車をかけた。しかし作者同士の関係がこじれ、現在では刊行はなし。
「白馬の王子様系であり、話としてはオーソドックスではあるけれど、世界観の作り込みがよくできていて、多くの少女たちのハートをつかみました。作品としてのクオリティーは高いと思います。
ただ、もう流通していないから、新しい読者はついていないはず。今読むなら古本を探すしかない。それでも1位になるということは、それだけ読者の印象に強く残っているということ」
ちなみに、6位以下には、6位『有閑倶楽部』(一条ゆかり)30票、7位『南くんの恋人』(内田春菊)27票、8位『はいからさんが通る』(大和和紀)23票、9位『エースをねらえ!』(山本鈴美香)14票、10位『王家の紋章』(細川智栄子あんど芙~みん)13票がランクイン。票が偏ることなく僅差のランキングとなった。
小田さんが分析する。
「子どものころに読んだ漫画の記憶って、純粋な作品の面白さもありつつ、自分の体験や読んだシチュエーションなどの思い出とセットになって記憶されていたりしますよね。みんなそれぞれ思い入れがあるだろうし、各自のベストがあるはず。自分のベストを大切にしてもらえたらと思います」
夢中で読んだ少女漫画の数々。今再び読み返し、あのときめきを思い出してみたい。
<取材・文/小野寺悦子>