「最初に台本を渡されたときは、その薄さにビックリしました(笑い)。しかも、ストーリーが箇条書きされているだけで、心情が描かれていないんです。"あとは現場で"ということだったので、撮影初日はドキドキでしたね」
溌剌とした表情で元気よく話すのは、女優の清野菜名。場を一気に明るくするオーラがあるが、女優として見せる顔はそれだけではない。7月25日公開の映画『東京無国籍少女』では、憂うつな日々を送る主人公・藍を演じている。
「今回は表情や仕草で感情表現する場面がほとんど。セリフがないのも難しかったし、唸ったり、叫ぶシーンもあって。初めてのことばかりで戸惑うことも多かったです」
その分、新鮮さにあふれていたという本作品は、『うる星やつら』や『機動警察パトレイバー』などのアニメを手がけた押井守氏が監督・脚本を務めている。役の感情がつかみづらいこと以外に、こんな不安があったとコッソリ明かす。
「監督は顔合わせのときにはすごく穏やかだったんですが、"現場で"というあたり、撮影で豹変するタイプだったらどうしようと心配していたんです(笑い)。でも、実際も優しくて気さくな方だったので、杞憂に終わりましたが」
物語は芸術系の女子高が舞台。心身に傷を負い、不眠に悩む天才芸術家の藍は、彼女の才能を利用しようとする大人や、嫉妬を募らせる同級生に囲まれ、心休まらない環境の中にいる。やがて、彼女をとりまく日常が崩れていき……。ストーリーはこのように重苦しい場面が続くが、撮影の空気は意外にも和やかだったそう。というのも、
「監督の声が小さいことがネタになっていましたね(笑い)。聞きとれないと言うと、"やっぱり"という感じの反応をするので、そのたびに笑いが起きていました。しかもマスクをしていたから、より聞こえづらい(笑い)。でも、わからないことを聞くと、必ず近くに来て理解するまでちゃんと教えてくれるんです。熱意が伝わってきて、その気持ちに応えたいと思いましたね」
ディスカッションの結果、"強いけれど、どこか弱い部分がある"という反比例する感情と"目の表情"を意識して演じた。その眼力は、監督が"すごい殺気だ"と感嘆の声を漏らすほど。さらに監督を唸らせたのは、彼女が得意とするアクションシーン。さぞかし、のびのびと演じたのかと思いきや……。
「全然"お得意"とはいえない大変さで、知恵熱が出ました。武器を持ってのアクションは初めてだったんです。銃は重くて片手で支えられないし、マガジンチェンジという弾を変える動きは、手元を見ずにやらないといけない。銃を家に持ち帰らせてもらって、テレビを見ながら、ひたすら練習しました」
このアクションシーンは物語の謎が明らかになる重要な場面。それだけにプレッシャーが重くのしかかりそうなものだが、本番は楽しみながら臨んだという。
「銃を撃つ場面や爆発シーンはめちゃくちゃテンションが上がりましたね。銃の弾は出ないけど音が出るので、そのたびに心の中で"フーッ!"と叫んでいました(笑い)」
昔から運動神経バツグンで、体育の成績はつねにトップ! ’09年には陸上の全国大会にも出場している。
「身体を動かすことが好きなんです。バク転とバク宙はどこでもできますよ! 最近では『バタフライツイスト』という、日本の女性では5人しかできないといわれる技も習得しました(笑い)」
ケガをする恐怖心はないのかと聞くと、興味のほうが勝ると、大きな目を輝かせる。
「何にでも好奇心で動くタイプなんです。まずはやってみる。それからは、すごい負けず嫌いなので、できるまで何度もやり続けますね」
モデルから女優に転身した理由とは
もともとモデル出身。’07年にティーン誌『ピチレモン』でデビュー。’11年に雑誌を卒業すると、モデルとしてやっていくには身長が足りないから、という安易な理由で女優を目指した。しかし、現実は甘くなかった。
「高校を卒業したときに女優1本でやっていこうと決めたのに、まったく仕事がなかったんです。そのうちに東京にいる理由もわかんないし、自分は何をしたいんだろうと思うようになって。愛知の実家に帰ろうかなと、本気で悩んだ時期がありました」
転機になったのは、’14年に公開された園子温監督による映画『TOKYO TRIBE』。オーディションに1度は落ちるも、アクション審査での動きが決め手となり、ヒロイン役を獲得した。しかし、そこでは大きな決断が迫られた。それは"脱ぐ"演技─。
「実は、この役が決まる直前まで、私は絶対脱がないと思う、と女優の仲間たちに言っていたんです。だけど、状況的に考えたら、これはチャンスだと思い直して。高い壁だっただけに両親にも相談してから決意しました。それを乗り越えたことで、改めて女優としてやっていく気持ちが固まりましたね」
『東京無国籍少女』の主演も、『TOKYO TRIBE』を見ていたプロデューサーから声がかかり、押井監督と顔合わせをして決定した。近ごろはテレビドラマでの活躍も目覚ましい。特に今年に入ってからは、TBS系の『ウロボロス』で話のカギを握る重要な役や、テレビ東京の『LOVE理論』ではヒロイン役に抜擢されるなど、順調にキャリアを積み上げている。
現在の状況を本人はどう受け止めているのだろうか。
「演技を筆頭にすべてがまだまだと感じますね。緊張もするし、不安なこともいっぱいあるので。役へ踏み出す勇気がなかなか出ないのは今も同じだけど、逃げだすことなく取り組めるようになりました。以前は自分の作品を見るのが嫌だったんですね。だけど最近は演技することにも少し慣れてきて、楽しいと思えるようにもなってきました。続けてきてよかったなと思います」
ちなみに多忙なスケジュールを支える元気の源を聞くと、ズバリ"肉"という答えが。
「鶏、豚、牛、馬、全部好き! 以前は、毎日焼き肉という週がありました。レバ刺しもたまらないですね(笑い)。でも、オシャレな料理名を言えないところが、まだまだ子どもなんだよな~」
そう言って屈託なく笑う姿はあどけない。その一方で、大人の味も覚えたと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ようやく飲める年齢になったので、お酒の方面も開花しています(笑い)。特に『ウロボロス』で共演した小栗旬さんたちとは仲がよくて。今でもみんなでごはんに行くんですよ。ちょうど2日前には、吉田羊さんとふたりで飲みました。そば焼酎のソーダ割りがおいしかったです(笑い)」
映画を見ることも好きで、劇場へ行くこともしばしば。家でピザを食べながらDVDを楽しむこともあるそう。オフの日には高校生のころから始めたアコースティックギターで、大好きなジャスティン・ビーバーの曲を弾き語りする一面も。憧れの人は、映画『バイオハザード』シリーズで主役を演じている米女優のミラ・ジョヴォヴィッチ。
「彼女の影響でアクションを始めたので、いつか共演するのが夢なんです! そのためにも、留学して英語をしゃべれるようになりたいな。とはいえ、今はいろんなキャラクターに挑戦して、しっかり演技を学んでいきたいですね」
そう言って見せた笑顔は、まぶしい輝きに満ちていた―。