「こんなスタントは誰もやりたがらないだろうし、スタッフは全員、緊張していた。でも、僕はワクワクしたよ!」
今作いちばんの見どころともいえるアクションシーンの撮影を、トムは誇らしげに振り返った。
「ただ実際にやってみたら、機体の側面にスーツ姿でいるのはものすごく寒かったよ(笑い)。気候が変わりやすいイギリスでの撮影だったし、1000フィート(約300メートル)ごとに気温が急激に下がるんだから……」
今作の監督は、『アウトロー』(’13年)でもトムとタッグを組んだクリストファー・マッカリー。彼に求められたのは、前作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』で超高層ビル、ブルジュ・ハリファの外壁をトムがよじ登るシーンを凌駕(りょうが)する演出だった。
「たしかに前作を超えるレベルの高いものを誰もが期待しているはずだし、スタントを取り入れたアクションが必要なのはわかっていた。それをふまえてロケハンを続けた結果、残念ながらブルジュ・ハリファを超える高層ビルは存在しないことがわかり、ビルでのアクションはあきらめることにしたんだ。
そこで、ふと思いついたのが飛行機。軍用輸送機エアバスA400Mの上に乗ってみるというのはどうだろう? と提案したらトムはこう言ったんだ。“そうだね、それならできるよ”と。半分、冗談のつもりだったんだけど(笑い)」(マッカリー監督)
ファンや観客の期待に応える、いや、それを上回るものを創りたい思いはトム自身も同じだ。
「飛行機の座席から窓の外を見て、“あの翼の上に立ったらどんな感じなんだろう?”とよく考えていたんだ。それに僕は普段からクラシックの戦闘機やアクロバット用の飛行機を操縦しているから、このスタントはものすごくアドレナリンも上がったね(笑い)」
離陸中の飛行機に宙吊りでぶら下がるという状況は、常人には考えもつかないが、撮影中に想定外のハプニングはなかったのだろうか?
「スタッフが心配していたのは、滑走路上の物体や鳥にぶつからないかということ。そのために何日もかけて滑走路を掃除し、操縦士は宙を舞う物体が僕に当たらないよう、細心の注意を払ってくれた。
それから、あの状態でカメラが回っているときに目を開けていられるのかどうか。そこで出てきたのが、眼球全体をカバーするレンズを装着するというアイデア。それなら、目を開けても瞳孔や網膜を守ることができるから」(トム)
マッカリー監督も、起こりうるすべての可能性を考えたうえで撮影に臨んだという。
「もし鳥がトムにあのスピードでぶつかっていたら、命にかかわっていたかもしれない。ブルジュ・ハリファでの撮影も危険を伴うものだったけど、今回は高度に加えてハイスピードでの撮影。’70年代に同じようなスタントに挑戦した男性がいて、そのスタントのネーミングは“ヒューマン・フライ(人間飛行)”だったかな。その撮影時に雨が降って、雨の衝撃で彼の皮膚は切れてしまったんだとか。本当にハードだと思ったけど、そんなスタントをスーツ姿でこなせる俳優はトムしかいないよ」
まさに肉体の限界に挑戦する、壮絶なアクション。
「僕が撮影中にパニックに陥っているように見えたら…」
「機体の側面にポジションをとったら、もうやるしかない。エンジンが回り始めてから停止するまで、ずっと機体に張りついていたんだ。上昇、地上走行、滑走路での助走、離陸、撮影、引き返して着陸する。これを8回、ようやく理想のショットを撮影することができたよ。身体が機体の壁に何度も叩きつけられたっけ。“ちょっと、待って! なんてクレージーな撮影なんだ”って」(トム)
「例のごとく、トムは“僕が撮影中にパニックに陥っているように見えたら、それは演技をしているんだ。だから、やめろというサインを出すまで撮影をやめないでくれ”と言った。演技なのか、トム自身の反応なのか……時折、わからなくなるよ」(マッカリー監督)
「飛行機にはコントロール不能ないろいろな要素が存在している。だから、こうやって撮影に成功したときには、“もう2度とやるもんか”って思うね(笑い)」(トム)
ほかにもバイクを猛スピードでぶっ飛ばす、車が宙を舞う、水中で長時間、息を止めるといったアクションが続き、トムが身体を休める時間は皆無だった。
「かなり疲れたけど、『ミッション:インポッシブル』シリーズでは常にやるべきことがあるから。いつだって、1日何時間あっても足りないんだ」
’96年のシリーズ開始から、約20年。シリーズを重ねるごとに肉体も進化していくトムには脱帽! 新たなる伝説のシーンが見られるのはもうすぐだ。