「小さいころによく読んでいたのは図鑑。ビジュアルやステータスなどのデータが一覧で整理されているのが好きでした。必要な項目を一気に読めるのがうれしかったのだと思います。特に宇宙や魚類に関するものが好きで集めていました」
と語るのは社会学者の古市憲寿さん。今の住まいは壁一面が本棚。蔵書は2000冊にものぼるという。
「今は好きで読むというより、仕事のうえで必要に迫られて読むことが多い。主に学術書やノンフィクション作品を資料として読んでいます。インターネットで検索するような感覚で、情報を見つけるために読んでいますね。
小説はあまり読まなくなりました。読み飛ばすと内容が把握できなくなってしまうので、海外に行く飛行機の中など、時間が取れるときに読んでいます」
小説はSF作品を好んで読むそう。
「SF小説は、僕たちが当たり前だと思っている常識を壊してくれる。ただその本の中での“当たり前”が現実でも当たり前になれば、その小説と同じ状態になりうる。常識を疑うという意味でSFは社会学に通じていると思います」
今月22日に文庫化される著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)は、格差社会を生きる若者たちの生活満足度が意外と高く、“幸福”と感じていることを指摘。従来の若者論の“当たり前”をひっくり返し、大きな反響を呼んだ。そんな古市さんがオススメする“最近の若者の気持ちがわかる本”とは?
「SEALDsと高橋源一郎さんが対談した『民主主義ってなんだ?』という本です。今までデモが頻繁には起こらなかった日本で、毎週のように安保法案の反対デモを行っていた彼らがどのようなことを考えていたのか、若者が動き出すまでに至った経緯や背景がわかります。この国に住む現代の若者の“青春物語”と言ってもいい1冊です」
また、若者の価値観で昔と顕著に異なるのが結婚観。山田昌弘さんの著書『「家族」難民』は若者が結婚しない理由に言及している。
「これからは、4人のうち1人しか結婚しない時代が訪れます。自由恋愛が広がり、非婚化が進んでいった背景についてわかりやすく記されています。むしろ結婚が当たり前だった時代のほうが異様だったのでは? という事態に気がついてもらえると思います」
“子どもたちだけの世界”を垣間見ることができる本も紹介してもらった。
「鈴木翔さんが書いた『教室内カースト』は、今まで唱えられてきた学校でのヒエラルキーの存在を、調査データをもとに提唱したもの。親世代以上の人が理解しにくい若者の行動形態が理解できると思います」
いつの時代も“最近の若いやつは”と言いたがる大人は後を絶たない。
「仮に15歳から29歳を“若者”とした場合、その数は日本だけで約1872万人。だけど当然、住んでいる場所や経済力、家族環境によって彼らの特徴はさまざまでしょう。“ゆとり”や“さとり”もそうですが、世代論は本来、あまりにも乱暴な議論なんです」
“若者”でくくった集団の中には、各々の個性を持った人間がいることを忘れてはいけない。