ドラマ『愛おしくて』(毎週火曜夜10時~・NHK総合)で主演を務める田中麗奈。
「“私は捨てられた犬です”というセリフは衝撃的でした。父親と再会したときに“バカヤロー!”と物を投げたり。すごく物静かだけど、すごく攻撃的でもある。さまざまな感情を持ち続けてきたんだなと思います」
母を亡くし、愛人をつくった父にも捨てられ、恋人に裏切られ……。愛を失った女性・小夏(田中麗奈)は岐阜県の有松絞りの工房に弟子入りする。獣医師の光太郎(吉田栄作)と惹かれ合うも、彼は師匠・怜子(秋吉久美子)の恋人。キャリアをも賭した、三角関係が繰り広げられていく。
「私だったら引くと思います。“絶対好きだから、どうしても手に入れたい”も恋愛だと思いますが、争いごとが好きではないので(笑い)」
今作の撮影では名古屋にマンションを借り、3か月半滞在したそう。東京の自宅に帰れないことはストレスじゃなかった?
「人生の中で3か月半も、違う場所で暮らす経験はなかなかないでしょうし、それを楽しもうっていう気持ちのほうが大きかったです。ただ、体調を崩したらどこの病院に行けばいいのかなど、自分のメンテナンスに対しての緊張感はありました」
アスリートの選手村のように、“役者村”があればいいのに、とユーモアたっぷりに話す。撮影の合間には、名古屋めしを食べに行ったり、料理をしたり。名古屋の美術館で開催中の『ヴェネツィア展 魅惑の都市の500年』にも足を運んだという。
「いろんな画家がヴェネツィアの街並みをきれいに描いていて。その中で、色彩が他の画家とは全然違う、すごく異色なヴェネツィアが目に飛び込んできました。すぐモネだとわかりました」
モネが表現するヴェネツィアはとても斬新で、驚きと感銘を受けた。
「今までの私は“田中麗奈を捨てて全然違う人になろう”と、作品や役に染まろうとしてきた気がします。でも、その絵を見て“すべての自分をなくさなくてもいいんだ”という考え方にもなりました。
“モネがヴェネツィアを描いたら”じゃないですけど、“『愛おしくて』を田中麗奈が演じたら”という融合ですよね。個性をもっと出していく女優になりたいと思いました。初めての価値観です。少し考え方や角度を変えて、またこれからお芝居していきたいです」
撮影/伊藤和幸