日本最大の摂食障害回復施設『なのはなファミリー』(岡山県勝田郡)。入所する女性が地獄の日々を語ってくれた。
栃木県出身の水野梨奈さん(仮名=21)は、中学2年の夏に始まった出来事を、今も忘れられない。
「バレーボール部の顧問から、部長に推薦された後、一部部員が“なんであんなやつが……”と陰口をたたいたり、ボールをぶつけてくるようになった」
いじめ。心配かけまいと親にも先生にも言わず、ひとり受け止め、平然を装った……。
「気づいたらごはんがのどを通らず、50キロあった体重が、4~5か月で18キロ前後まで減ったんです。鏡を見たときには、もう骨と皮だけ。生きる意味も見失っていて……」
医師の診断結果は摂食障害。チェックされるのは体重の推移や食事量ばかりで、前出の小野瀬さんが指摘する「心に負った痛みを理解してもらえないつらさ」がつきまとった。
「体重が減ると、無理に食べるか鼻から栄養を入れて体重を増やして退院し、また減ってくると入院して……を4回ぐらい繰り返しました」
希望の光は、父親が購入した小野瀬さんの著書だった。
「すごく共感して、HPで施設のことを調べ見学に行きました。両親が“自分たちのもとに置いておいても死なせてしまうから”って、置き去りにされる形で入所しました」
いじめ以来、抱えていた疎外感を隠し当初は「表面的な笑顔を作っている自分がいました」という水野さん。みんなにかけてもらった言葉で、心が解けていくのがわかった。
「受け入れてもらえている、と感じたんです。医師やカウンセラーには頭ごなしに見下されている感じがした。“お父さん”や仲間たちは、同じ目線で考えてくれます。自分を強く見せたり、偽らなくていいんだと思えるようになりました。不安や怖さ、苦しみをありのままに伝えられたのは初めて。安心しました」
自分の役割があるため、食べ物のことばかり考えている時間がなくなった。頭と身体で汗を流し仕事に集中できる。
「体力も気力も中学の現役時代よりもある気がしています。入所1年目のころは身体が細くて、疲れていましたが、今はフルマラソンもできる。日々の活動の中ではチームで協力して達成感を得たり、誰かに“感動した”と言ってもらえたりすると、自分がよい方向に変わっていけると確信が持てるんです。“生きにくい世の中を変えていく”という目標もできました」
入所4年の水野さんは“誰かのために頑張りたい”とスタッフ見習いとして奮闘中だ。