脳脊髄液減少症の症状
 頭痛や身体のダルさ、目のかすみ。「この程度なら病院に行かなくていいか……」「放っておけば治るだろう」なんて甘く見ていると、その陰には恐ろしい病気が隠されている可能性も。

 ちょっとした外傷や事故が原因で脳と脊髄を覆っている“髄液”が漏れ、さまざまな症状を引き起こす『脳脊髄液減少症』の恐怖。国内での発生率は、少なく見積もっても年間1万人ほどだが、医師の間でもまだまだ認知度が低く門前払いされる例もあるという。

 そんな脳脊髄液減少症になった場合の治療法としては安静と水分補給、点滴といった保存療法によって軽快する症例が少なくない。特に発症からそれほど期間がたっていない場合は、半数以上が軽快するそうだ。

「保存療法で効果がない場合『ブラッドパッチ療法』が有効。硬膜の外側に患者自身の血液を注入し、穴を修復するフタを作る治療です。こちらの治療でなんらかの症状の改善が見られる場合は、およそ75%。15歳未満であれば90%に効果が認められます」(山王病院脳神経外科・高橋浩一副部長)

 11年前に車の運転中に衝突事故に遭い、脳脊髄液減少症になってしまった静岡県に住む小澤明美さん。ブラッドパッチによって穴はふさがったが、症状は残り、現在も治療中。

「保険がきかないので、入院費などを含めブラッドパッチは30万円。いまやっている人工髄液を注入する治療は1回7万円かかります。私の場合は、主人の収入があるので治療できていますが、金銭面で治療ができていない方がたくさんいると聞いています」(小澤さん)

 厚生労働省は、’12 年5月にブラッドパッチを、保険診療との併用を認める『先進医療』として承認したが、研究班による画像判定基準を満たした“明らかな漏れ”が見つからない限り適用されない。

「脳脊髄液減少症の一部に合併する『慢性硬膜下血腫』による死亡例が国内外から報告されています。命にかかわる病気なのにブラッドパッチが保険適用されていないことは大きな問題です」(高橋医師)

 さらには重篤な症状に悩み、自ら死を選ぶ人もいるという。小澤さんは現在、脳脊髄液減少症の患者団体の副代表を務めているが、団体を立ち上げたのは、同じ病に倒れた友の死がきっかけだった。

「時間があるときでいい。この病気があることを知ってほしい。少しでも認知度を上げてほしい」(小澤さん)

 友人は、最後にそう言い残し、自ら命を絶ったという。小澤さんのもとには電話やメールなどで脳脊髄液減少症に悩む人の声が寄せられる。小澤さんが知り合った、脳脊髄液減少症となった妻を看病する夫が、妻の叫びを記録した日記を最後に紹介する。

《お父さん、ごめんなさい、こんな病気なって。お父さん、ごめんなさい、長いこと会社を休んでもらって。お父さん、ごめんなさい、お父さんの人生めちゃくちゃにして。お父さん、ごめんなさい、もう死にたい。お父さん、ごめんなさい、私を責めんといてね、この病気を責めてね》(原文ママ)

 小澤さんには彼女からよく「死に方を教えて」と電話があるという。