親離れ、子離れ─。いつの時代も議論されるこの問題だが、最近の親子の関係性は、より緊密なものになっているように感じる。親のあり方、子のあり方。はたして、どちらがどう変わってきたのか? いったいなぜ変わってきたのか? 現代のリアルな親子関係を緊急レポート! 最後は、互いに自立するための「親子関係改善」のためのレッスン、「子の立場から」。

■情や感謝に流されず、イヤなら意思表示を

 「親が世話を焼くのは、何歳になってもあること。それを周りがどう思うかではないんです。本人が幸せならそれが普通でいいと思います。でも、本人がツラいと思えば、それは周りがどう思おうが“イヤだ!”と意思表示していいんです

 こう語るのはライター、マンガ家として活躍する田房永子さん。彼女自身の親子関係をつづったコミックエッセー『母がしんどい』(中経出版)は、母から感じた支配から逃げては失敗し、逃げては失敗し……を繰り返して、両親との関わりを断つまでのエピソードが記されている。

 田房さんは自身の経験をもとに、こう語る。

「“親離れ・子離れ”という言葉をよく使いますが、実際の親子関係に悩む子どもたちは、もっと深刻なケースも珍しくありません。私の本を読んでくれた方たちと会う機会がありましたが、考えていることが私とまったく同じでした。それは、母には好きな部分もあったけれど、悩む面のほうが大きいということ。結果的にパニック障害や、うつ病を発症するくらい、ストレスを感じているんです。“親ハラ”や“虐待”と言っても過言ではないくらい悩んでいる子どもたちがいるということを、誰もが知っておくべきです」

 自分の母親や、似た境遇の読者の体験談を踏まえて、田房さんは“干渉したがる母親”の気持ちをこう分析する。

「子ども自身や、子どもの立つステージで承認欲求を満たそうとするんです。“私があなたをお世話するのは当然のこと。だって母親だもの”と母親の権利を振りかざす。今、20代~40代の子を持つ母親たちは、ほぼ強制的に社会から育児と家事を押しつけられてきた世代。そういった背景もあって、不安な気持ちが強い母自身が、子どもたちを不安の渦に巻き込んでしまうのではないかと思います

■親の気持ちより大事なのは自分

 しかし、親子関係に悩む子どもたちの多くは、親の過干渉に対して自覚を持てずにいる。“私は変だと思うけど、世間ではこれが当たり前なのかもしれない”というように、違和感にフタをしてしまう。また、同様に“今まで育ててもらった親を疎ましく思うなんて、私は悪いことをしているのでは……”と、自分の感情を押し殺してしまったりするという。

「子どもがイヤがることを平気でやって、それにこちらが応えなければ執拗(しつよう)に自分の意思を押しつけてくる。話し合いをしようとしても“あなたをここまで育てたのは私よ!” “学費や食費だって払ったのに……”と、子どもにはどうにもできないことを盾に責めてきます。まともな方法で戦ったところで、とてもじゃないけど、勝てるはずがありません」

 子どもを追いつめるほどの干渉をする親は「ストーカーだと思っていい」と田房さんは警鐘を鳴らす。

「私も以前、母とケンカになった際、鬼のように電話が鳴り、無視をし続けた結果、自宅のアパートのベランダに押しかけてきたことがありました。自分の情報は絶対にペラペラ伝えないことをオススメします。お給料の金額、よく行くお店、仲よしの友達……。その情報ひとつひとつが、人質ならぬ“事柄質”になるのです」

 そんな親と戦うために、1度考えてほしいのは、自分の気持ち─それは、表面上の関係を考えるのではなくて、自分の魂に対して正直になること。

「親のすべてが憎いワケではありませんし、恩義がゼロというわけではないと思います。でも、焦点を当てるのは親ではなくて、あくまで自分。表層的な親子関係なんて考えなくていいんです。親への情なんかよりも、自分の心と身体を大事にしてあげて。イヤなことはイヤという、屈しない気持ちを持ってください

 どれだけ親が干渉してこようが、自分の人生の主役は、あくまで自分。人生のいたるところに侵入を試みる親に対して遠慮することなどない。毅然とした態度で接することが、自立への第一歩となるのだ。

田房永子さん●ライター、マンガ家。主に女性向けWEB媒体で連載中。近著の『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イーストプレス)が好評を博している
田房永子さん●ライター、マンガ家。主に女性向けWEB媒体で連載中。近著の『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イーストプレス)が好評を博している