認知症の患者は、予備軍と言われる人を含めると860万人にのぼると推計されています。これは高齢者の4人に1人という数字。いまや認知症は誰にも起こりうる、ごく日常的な病気です。

 でも最近では、認知症を早期に発見し、早期の段階で予防に努めれば認知症の発症を食い止めたり遅らせることができることがわかってきました。

 もしも認知症が疑われたらどうすればよいか、最低限知っておくべき基礎知識をご紹介します。

■MCI(軽度認知障害)の段階で発見できたらチャンス!

 まだ認知症とはいえないけれど認知機能の低下がみられる状態を、MCI(軽度認知障害)といいます。軽い記憶障害はあるものの、時間や自分の居場所は認識でき、日常生活に支障をきたすほどではありません。料理や掃除といった家事も普通にできます。

 MCIと診断された人のうち、年間10〜15パーセントが、アルツハイマー型の認知症に進行するといわれます。しかし、MCIの段階で生活習慣の改善をしたり、頭や身体を使うなどの適切な対策をとれば、MCIの段階を維持したままで、認知症への進行を食い止めることができると考えられています。

 自分では自覚していないのにMCIと診断されると、「そんなはずはない」と抵抗感を持つ人もいますが、むしろ認知症予防のチャンスだと、ぜひ前向きにとらえてください。

■手遅れになる前に専門医のいる病院へ

「もしかしたら認知症?」と思っても、この程度で病院に行くのは恥ずかしいとか、逆に認知症と診断されたくないとの思いから、医療機関を敬遠する人もいます。

 でも、認知症を悪化させないためには、早めに専門の医療機関で検査や治療を受けるのが得策です。認知症は1にも2にも、早期診断、早期治療が大切なのです。

 どこを受診していいかわからない場合は、「神経内科(脳神経内科)」「精神科」「脳外科(脳神経外科)」などで、認知症の専門医がいるかを尋ねてから受診するのがよいでしょう。「もの忘れ外来」や「認知症外来」などの科をもうけている医療機関を利用するのもおすすめです。

 ほかには、認知症を含め高齢者の総合的な支援を行うために各自治体に設置されている「地域包括支援センター」に相談する方法もあります。

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■必ず起こる症状は「記憶障害」「見当識障害」など

 認知症にはさまざまな症状が起こりますが、必ず起こる症状を中核症状といい、その代表的なものは「記憶障害」と「見当識障害」です。

「記憶障害」とは、記憶をためておく機能に障害が起こり、さっき聞いたことでさえ思い出せなくなってしまうような症状をいいます。

「見当識障害」は、日付や曜日、時間、場所、物や周囲の状況を正しく認識できなくなるものです。季節感を失ったり、場所を認識できず迷子になったり……。自分の年齢や人の生死がわからなくなったりします。

 ほかにも、理解力や判断力の低下、言葉が出てこない(失語)、これまでの正しい動作がとれない(失行)、身近な物や人がわからない(失認)などの症状が起こります。

■認知症と間違いやすい病気もある

 認知症かと思って調べてみたら、別の病気だったということがあります。その代表的なものが「うつ」「せん妄」です。

 「うつ」は、気分が落ち込んで何もやりたくないなどの症状に加え、判断力や思考力といった認知機能の低下がみられることがあります。

 「せん妄」は、夜間に起きだして今から仕事に行くと言いだすなどの行動が現れます。原因は服用している薬や、急激な環境変化によるストレスなどが考えられます。発症が突発的で昼間と夜間の症状の差が大きい点で認知症と異なります。ほかにも、脳や甲状腺の病気で認知症に似た症状が現れることもありますが、原因となる病気が治れば症状もおさまります。

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(イラスト/フジサワミカ)