監督の口癖は“なんか面白いことはないかね?”
駒澤と東洋の一騎打ちと言われていた今年の箱根駅伝─。大方の予想を覆して初優勝を遂げたのは、ノーマークの青山学院だった。しかも、圧倒的な新記録というおまけつきの超サプライズ。実績のなかったチームを鍛え上げ、更地を耕し、栄光の道を切り開いたその人こそ、原晋監督(48)だ。
「選手として箱根を走った経験のない原監督の指導法が大注目されました。それが、“ワクワク大作戦─自分のチームを見ている人をワクワクさせる走りをして、笑顔でゴール”です。東洋大のスローガンは“1秒を削り出せ”なのに(笑い)」(スポーツ紙記者)
“青学はチャラい”と言われると、「最高の褒め言葉」と胸を張る。ツラい、苦しいという長距離走のイメージを覆し、楽しく走って優勝させてしまったスゴい監督なのだ。
「実家は広島の田舎で、駆けっこしか遊びがなかったんです。缶蹴り、町内1周リレーなどに明け暮れる中で、走ることが得意だと気づきました。それで自然に陸上の世界に入ったという感じです」(原監督、以下同)
遊びが原点だから、ワクワクを大切にするのは当然のこと。グラウンドでの練習時には緊張感が漂うものの、終われば別の顔を見せるらしい。
「監督の口癖は“なんか面白いことはないかね?”です(笑い)。監督が口にしたギャグは選手たちがマネして、寮内の流行語になります」(マネジャーの福島采さん)
監督は選手たちと寮で共同生活を送り、奥さんの美穂さん(47)が寮母を務める。監督夫婦と選手たちは、大家族のようなものだ。
原メソッドの中には子育てのヒントがあるに違いない! そう確信し、詰め寄る記者に監督が伝授してくれた秘策は全部で7つ。
やる気を引き出し、才能を開花させる
■1、迷いを見抜く質問でヤル気を確認し、期限を設定!
子どもがヤル気を見せた時は、まずそれが本気かどうか確かめることが大切だ。
「塾や習い事に通いたいと言われて、ポンとお金を渡すのはダメですね。ただのワガママかもしれませんから」
理由を自分の言葉で言わせてみれば、本当にヤル気があるかどうか、わかるのだ。
「“どうしてやりたいの?”と目的を聞いてあげるといいですね。答えが“友達をつくりたいから”でもいいんです。例えば、“そろばんをやりたい”と言われたら、“どうしてそろばんなの? 習字はどう?”と別の選択肢を投げかけてみるのもいいですね」
“お金を出してあげるんだから、頑張りなさいよ”“簡単に辞めちゃダメよ!”などとプレッシャーをかけるのがいちばんよくないという。
有効なのは、期限の設定。「ちゃんと1年間、頑張れる?」「3か月挑戦する?」 というように、無条件でやらせずに、目安をつくる。これが、後の踏ん張りにつながるのだ。
■2、ビッグな夢のイメージトレーニングで火をつける!
目標を持つことは大切だけど、それに追いまくられるのでは逆効果。大きな夢を目指すほうが頑張れるという。
「“偏差値〇〇以上を目指さなきゃ!”と言われても、子どもは嫌な気持ちになるだけ。モテたい、大きな家に住みたい、世界旅行に行きたいなど、将来の夢を聞き、そのためにどのくらいのレベルの学校に入る必要があるかを教えてあげたほうがいい」
実際、監督は練習の後、「もし明日が箱根駅伝なら〇区はお前」と、選手たちに話していた。練習が将来の夢に結びついていることを、わかりやすくイメージさせるわけだ。
「勉強や練習そのものが楽しくなっていくことが大事なんです。“頭がいいほうがモテるじゃない?”でもいい。輝く自分を好きになってもらうためのサポートですから」
勉強のための勉強は、プレッシャーになるだけ。将来の大きな夢を掲げることで、そのために今どんな努力が必要なのかに気づくのだ。
■3、半歩先の目標設定がモチベーション維持に効果アリ
夢は大きく持ちながら、目標は現実的に。
「箱根駅伝では、全員が1万メートル平均タイム29分を切らないと優勝は狙えないんですよ。だけど、そこにすべての選手の目標を合わせようとしたら失敗します」
チーム50番目の選手にエース基準の目標を書かせたら、ウソになる。実現可能な目標設定の更新が重要となる。
「半歩先を目標にさせてください。2歩先、3歩先より、手の届きそうな“半歩先”」
無理な目標設定ではモチベーションが保てない。
「家庭内でも、兄が東大、弟が三流大学くらいの偏差値だとします。そのとき、弟に兄と同じ目標を掲げさせてはダメ。その子の実力の半歩先を目指す癖をつけてあげるんです。目標をクリアしたらほめて、また半歩先をみる。その繰り返しで目標を達成する喜びを覚えれば、気がつくと兄と同じ東大に行けるレベルに到達しているかもしれない」
■4、挫折や停滞期の緩みには、こまやかなサポートを!
中学時代にトップクラスの成績でも、高校に入るとついていけなくなることもある。そこでうまく道を指し示すのが親の役割だ。
「“なんで成績が落ちるんだ!”と責めてしまうと、ますます落ち込んでしまいます。必ず外的要因があるんですよ。友人関係、恋愛関係など、いい出会いも、悪い出会いもある。結果だけを怒るのではなく、その子が傷ついたポイント、挫折したポイントを見つけてあげてください」
気が緩んでいるとわかったら、さり気なく活を入れる。大事なのは、自主性と自由をはき違えないこと。
「いつまでもテレビを見ている子どもに“いいかげんに勉強しなさい!”と突然、電源を切ったら逆効果。そんなときは“何分後から勉強する?”と期限を設けさせる。もし“2時間後”なんて言い返してきたら、さすがに叱ってもいいですよ(笑い)」
■5、伸びるタイミングを見逃さずに、集中持ち上げ!
子どものヤル気スイッチが入ったら、ここぞとばかりに自信で塗り固めてあげる。
「“俺は東大に行くんだ”と言い出した子に“それは無理じゃない?”なんて冗談でも言ったらダメ。“じゃあ勉強頑張らないとね。行けるわよ!”と、その気にさせてあげてください。そうすれば、勝手に実力を伸ばします」
伸ばすためには、厳しくすることも大切。もちろん、叱り方にもコツがある。
「叱ってもいいのは、何度も同じ過ちを繰り返すとき。“自分が悪かった”と気づかせる叱り方をするべきです。頭ごなしじゃなく、“小さなミスの積み重ねは大きなミスにつながるよ”という言い方」
■6、勝負の日は、笑っちゃうくらいの雰囲気づくり!
試合や受験などの当日は、ジタバタしても無駄。
「本番では、積み重ねてきたことの成果以上のものは出ません。子どもをリラックスさせることに努めてください」
リラックスが必要なのは、気負いすぎると心のバランスが崩れるから。闘争本能に関わる交感神経と、リラックスに関わる副交感神経の働きの差が大きくなるのを避けなければならないという。
「スポーツ選手は、試合が近づくと自然に闘争本能が強まるんですよ。だから、箱根駅伝の直前に『ワクワク大作戦』を提示してリラックスさせたことは、理論的に正しかった! これは、後になって知ったことなんだけどね(笑い)」
■7、母も『子育て目標管理』で、遊びながら楽しむ♪
何より大切なのは、親が一緒に目標に向かうこと。
「お母さんも日記スタイルの目標管理をしてみるといいと思います。子どもをどうしつけるかという目標を掲げ、点数をつけながら、遊び心を入れてやればいい。子どもが目標を達成したときの喜びを、自分の喜びに変えていくことが大事だと思います」
自分も目標を持てば、子どもの気持ちがよくわかるはず。
「子どものやることなすことに口を出してしまうお母さんは、今まで1週間に10回口出ししていたところ、5回に抑えるという目標を立てる。“叱る前に少しの間をおく”という目標でもいい」