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国立大学の学長が新入生にスマホ依存症から脱するよう求めたことをめぐり、賛否両論が渦巻いている。学長発言は正論か、暴論か。そもそもスマホ依存症とは何か。発言の背景にある最新スマホ事情の功罪を追うと――。


《スマホやめますか、それとも信大生やめますか》

 信州大学(長野県松本市)の山沢清人学長は4日の入学式のあいさつで新入生にそう訴えた。驚いた学生も多かっただろう。スマートフォン(スマホ)はもはや、日常生活に欠かせない道具になっている。やめなければ、大学生活が送れないのか。

 山沢学長のあいさつは冒頭の言葉の後にこう続いた。

《スイッチを切って、本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう。自分の持つ知識を総動員して、物事を根本から考え、全力で行動することが、独創性豊かな信大生を育てます》

 たしかに、大学生ともなれば、物事を根本から考えることは重要だ。しかし、スマホのスイッチを切ることと一体どんな関係があるのか、という批判的な声は大きい。

 ネットでは「信州大学はスマホ禁止なの?」「スマホなかったら、就活なんてできないよ」「スマホを捨てることと独創性は関係ないんじゃないか」などと書き込みがあった。

 現代の若者にとっては、スマホはあって当たり前。家族や友達と連絡をとるにも、ちょっとした調べものも、ニュースや漫画を読むにも必要なアイテムになっている。

 誤解のないように説明すると、山沢学長のあいさつは、全体を通じて「知識の量を主とするのではなく、知識の質、すなわち自ら探究的に考える能力を育てることが大切だ」という趣旨だった。

 信州大では松本市出身でジャーナリストの池上彰氏が特任教授(現代史)をしている。卒業生には、三鷹の森ジブリ美術館の設立に関わったアニメーション演出家の宮崎吾朗氏、前東京都知事で作家の猪瀬直樹氏、かつてベストセラーとなった『生協の白石さん』の著者、白石昌則氏もいる。

 山沢学長は、独創性ある大学生活を送ってほしい……との思いが強いのだろう。あいさつでは、上場企業433社の人事担当者から見た「大学のイメージランキング」という日本経済新聞の調査記事にも触れた。総合では京都大が1位だが、信州大は「独創性」の項目で京都大を抑えてトップだった。「個性がある」でも京都大を上回っている。

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 その独創性を身につける方法のひとつとして、山沢学長は"スマホ断ち"を挙げた。賛否両論ある山沢学長のあいさつについて千葉大学の藤川大祐教授(教育方法学)は、

「ほかの部分でいいことも言っていますが、(スマホ依存症の部分については)私などはネットでコミュニケーションをしながら、創造的な何かをしようとしているので違和感を覚える。同じ大学教員でも世代も、普段の情報環境も違うんじゃないか。スマホを仮想敵にして、そこから得られるものまで否定するのは行きすぎだ」

と指摘する。山沢学長はこうも話した。

《残念なことですが、昨今、この信州でもモノやサービスが溢れ始めました。その代表例は、携帯電話です。アニメやゲームなどいくらでも無為に時間を潰せる機会が増えています》

 言っていることは間違ってはいない。しかし、携帯電話、アニメ、ゲームをひとまとまりにして、それらに接しなければ独創性が身につくといった発想は、前時代的で現在の学生には受け入れられないのではないか。

「スマホはいらないのかな? 私は、アニメやゲームに創造性の種があると思っているので、むしろアニメやゲームにのめり込む人たちに期待している」(藤川教授)

 にもかかわらず、山沢学長のあいさつは、「スマホ依存症は毒以外の何ものでもない」と一面的に断じている。

《スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの見慣れた世界にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間が速く過ぎ去ってしまいます》

 本当だろうか? 関西学院大学の鈴木謙介准教授(理論社会学)は、「スマホの話の部分が主ではない」としながらも、

「個人の感想ならいいが、『スマホ依存症』という、研究の例があったり、場合によっては病気と認定されるようなことを引き合いに出すのは話が違う。そういう言葉を使って、学生たちに注意喚起するのはいかがなものか」

と疑問を呈する。


ジャーナリスト/渋井哲也(しぶい・てつや) ● 1969年生まれ。長野日報の新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションやネット犯罪を取材。著書に『実録 闇サイト事件簿』(幻冬舎新書)や『学校裏サイト』(晋遊舎)、『気をつけよう!携帯中毒』(汐文社)など。