定年後に訪れる“新生活”に待ち受ける3大リスク「夫・お金・仕事」の不安と悩みを解消するシニアライフ入門。第4弾は、生きがいとお小遣いどちらも手にするための「地域で活躍するシニアの働き方」。

「20歳で会社に入り60歳まで勤めた人の生涯労働時間は約10万時間。それに匹敵するのが60歳から80歳までの平均的な自由時間です」

 シニア世代がもつ時間の長さをリアルな数字で教えてくれたのは、団塊シニア世代の動向分析・調査・講座などを手がける、有限会社『アリア』代表の松本すみ子さん。

“人生二毛作時代”となり、定年後は何か次のキャリアを考えないと、お金はもちろん、気持ちの面でも生きていけないという。

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 実際に、65歳以上の共働きのシニアは増加している。総務省の労働力調査によると、’14年4~6月の共働きシニア(農林業を除く)の数は前年同期比11・9%増の66万世帯。シニア夫婦8世帯に1世帯にもなる。

「要因は働くシニア女性が増えたことです。介護、製造業、流通業、サービス業などの人手不足の業界での就労が目立つようです。専業主婦が多かった世代の人たちも時代とともに変化しているということですね」(松本さん、以下同)

■地域には行政だけでは解決できない問題が山積み

 そんな中、シニア世代の活躍に注目と期待が集まっているのは地域社会だ。

「待機児童問題や防犯・防災にかかわる空き家問題など、行政だけでは解決できない問題が山積み。予算も人手も不足しています」

 松本さんは、“何から始めればいいのかわからない”と悩む多くのシニアに地域デビューをすすめる。

「男性は特に、大きな夢を掲げて起業を夢みたりしますが、自分の身の丈に合ったことから始めたほうがいい。自分のやれることを地域の中で探し、NPOやボランティアの活動からビジネスチャンスに変えていく事例が増えています」

 地域活動をとおして自分も周りも幸せになり、お金や生きがいまで手に入るという『コミュニティービジネス』が今、新たな働き方として注目を集めている。

「まずは夫婦で地域デビューをしてください。夫はオフィス街に詳しくても、居住地区のことはほとんど知らない。妻が日常会話の中で地域の情報を教えてあげれば、夫も自然と興味を示すようになります」

 プライドが高く、妻の言葉を素直に聞けない夫には、

「書斎を用意するといいですよ。物置になっている子ども部屋を片づけて、夫の活動拠点にしてあげる。専用の電話をひいてあげるのもいいですね」

■“自己紹介用名刺”の肩書は好きなこと、やりたいこと

 公民館やシニアのセミナーなど、どこでもいいから毎日行く場所と、用事をつくるように心がけたい。その際、持ち歩きたいのがセカンドキャリア用の“自己紹介用名刺”だ。1度限りの出会いにしない工夫がシニアには必要だという。

「定年後、会社の名刺は捨てて新しくオリジナル名刺をもつ。名前と連絡先を記入したら、肩書は好きなこと、やりたいことを書いてください。決まってない人は“ただいま、模索中”と書けば、話のきっかけにもなります」

“コンサルタント”と“研究家”は資格がいらず、自称で語れる肩書。

「『〇〇土手の桜研究家』、『銀座大好き研究家』など自由に自分を表現し、堅苦しい肩書は絶対に名刺の裏に書くこと」

 名刺作成はパソコンスキルを身につけて、自分で作れるようになることが理想。

「5枚ほど作って、またコロコロ肩書を変えてもいい。現役時代はひとつのことを継続するように言われてきたかもしれないけれど、定年後は嫌だと思ったときにやめていい。自分の興味に素直になって、どんどん新しいことに目を向けることをおすすめします」

■専門家に頼むと高額なので需要がある

 実際に、どんなコミュニティービジネスがあるのか。

 妻が上手に夫を誘導した事例があるという。

「もともと尾瀬のようにきれいだった一輪草、二輪草が群生する地域がゴミ捨て場と化していたそうです。その話を聞いた奥さんが、“隣のご主人と片づけをしてみたら?”と提案したところ、6人の男性の手で、きれいな遊歩道に生まれ変わった。今も管理を続けているそうです」

 ペットのえさを販売する企業に勤めていた男性も、「知識を生かし、定年後に動物関連の事業を立ち上げて、ペット飼育に関する講演や講座をスタート。謝礼金は1万〜3万円ほど。専門家に頼めば高額なので、需要があるんです」

 評判は広まり、犬猫養成スクールや、動物が出演する映画・ドラマの監修も頼まれるようになったという。

 一方、女性が上手に活用したいのは、地域で築いてきた友人・知人関係。

「介護講座を受けた女性らが意気投合し、お弁当屋さんを始めた事例もありました。ひとり暮らしの高齢者に1個500円程度でお弁当を配布。さらに、メンバーの母親が亡くなった後、空き家を活用してデイケアサービスを始めた」

 この『サポートハウス年輪』が現在作っているお弁当は約200食。配達は、団塊世代の男性らが自転車で行っているという。

「利益主義になれば失敗します。みんなで楽しく、目的は地域貢献活動。そこにビジネスチャンスと雇用機会を生み、活躍しているシニアはたくさんいます」

〈まとめ〉シニアの地域デビュー心得5か条

1 “きょういく(今日行く)”と“きょうよう(今日の用事)”をつくる

2 地域社会を知る

3 セカンドライフ用の名刺を作る

4 IT能力を高める

5 自分に合わないと思ったらやめる