これまで女性用しかなかった尿もれ対策アイテムに、男性用が登場したのをきっかけに、妻が夫の“ちょいモレ”を気遣うケースが増えているとか――。

■尿もれが気になる中年男女の現状とは?

 40代から増え始める排尿トラブル。トイレのことが気になって外出を楽しめない、ぐっすり眠れないなど、自分の意思とは関係なく尿がもれてしまうことは、精神的にも大きなダメージを与えます。人前に出ることを避けるようになったり、自分の健康に自信が持てなくなるという人も少なくありません。

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 尿もれは女性だけでなく、男性にも起こります。衛生用品の大手、ユニ・チャームが行ったアンケート調査では、50歳以上の男性の3人に1人が尿もれを経験しています。にもかかわらず、“年のせいだから……”とあきらめてしまい、ほとんどの男性は何も対処をしていないのが現状。

 また、何らかのケアをしている男性では、奥さんの生理用ナプキンや尿もれパッドをこっそり使ったり、ティッシュやハンカチなどでの代用品で、周囲に気づかれないように対処していたことがわかりました。

「昨年、男性用の尿もれパッドを発売してから、お問い合わせ件数が3倍に増えました。とはいえ、専用のケア用品を使っている人はまだほんのひとにぎり。尿もれ対策は60代、70代から取り組むことと思っている方も多いようですが、健康寿命をのばすには食事、運動、睡眠に加えて、適切な排泄ケアを取り入れることが大切です。働き盛りの40代、50代から早めに対処して、生活の質を維持し、向上させて、健康的に過ごせる期間をのばしてほしいと願っています」(ユニ・チャーム 商品広報・渡邊仁志さん)

 使用経験がない男性にとっては使うことはもちろん、自分で買うことにも抵抗があるようです。また、外出先で捨てる場所に困るという意見も見逃せません。

 尿もれは軽めのうちからケアすることで、症状を改善したり、状態の悪化を先のばしにできる可能性があるといいます。まずは尿もれが起こる原因を知り、対策を打つことから始めましょう。

■次は「気になる尿もれの原因」

★男性の尿もれ原因は…

 尿もれは、男性と女性では起こるメカニズムが異なります。いくつかのタイプがありますが、男性に多いのは「過活動ぼうこう(切迫性尿失禁)」。ぼうこうが過剰に反応して、不安定になることが原因で起こります。強い切迫した尿意が特徴で、尿をためて我慢することが難しくなります。急に尿意を感じてトイレに行くが間に合わない、夜中に何度もトイレに行くなど、日常生活に支障をきたす度合いが強くなります。

 また、「前立腺肥大症」になると、肥大した前立腺が排尿筋などを刺激して、尿が近くなり、切迫性尿失禁が起こることも。前立腺肥大症の男性の半数に尿もれの経験があるといいます。

 男性の場合、40歳を過ぎると尿のキレの悪さを実感する人が多くなりますが、これは「排尿後滴下」といい、老化現象のひとつで医学的には病気ではありません。排尿後、しっかり振って尿道に残った尿を出し切ることしか解消するすべはありません。

※前立腺・・・・・・前立腺は男性にしかない臓器で、ぼうこうのすぐ下、尿道を囲むように存在。前立腺肥大が起こりやすくなるのは50歳以降。70代ごろには進行が止まり、大きくなり続けることはない。

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★女性の尿もれ原因は…

 女性の尿もれは、くしゃみや咳をしたときなど、お腹に力が入った瞬間にもれる「腹圧性尿失禁」が多数を占めます。閉経するころになり、女性ホルモンの分泌が少なくなると、ぼうこう・子宮・尿道などを支えている骨盤底筋や、尿道を締める筋肉の働きが弱くなってしまうことが原因にあります。

 女性は加齢とともに、過活動ぼうこうが進行した「切迫性尿失禁」が増える傾向にあり、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁をあわせもつ「混合性尿失禁」を起こしているケースも少なくありません。

 また、尿もれは「骨盤臓器脱」という病気の症状として現れることがあります。骨盤臓器脱は、骨盤底筋のゆるみから骨盤内の臓器(ぼうこう、子宮、直腸)が下垂して、その一部が体外に出てしまうこと。こうなると専門的な治療が必要です。

※骨盤底筋・・・・・・骨盤内の臓器を支えている骨盤底筋は、出産で損傷を受けやすく、加齢によって衰えて不安定に。骨盤底筋は男性にもあるが、男性は出産することがないため、ゆるみは起こりにくい。

◎教えてくれたのは、野村昌良先生

 亀田メディカルセンター・ウロギネコロジーセンター長。日本でも数少ないウロギネコロジー(骨盤臓器脱、尿失禁)専門医。ウロギネコロジーは泌尿器科(urology)と婦人科(gynecology)を合わせた造語。泌尿器科と婦人科の境界領域にある病気に関する専門診療科で、ウロギネ外来として知られる。

■次は「尿もれを改善する方法」

 生活に支障がない程度の尿もれで病院に行くのはためらいがちですが、放っておくと進行しないとも限りません。

「昼間2時間以内にトイレに行きたくなる、週2~3回失禁する、夜中に2回以上トイレに起きるなどの症状があれば、泌尿器科やウロギネ科といった、専門的に診療してくれる医療機関の受診をおすすめします」(野村先生)

 過活動ぼうこう、切迫性尿失禁、前立腺肥大症による尿もれに対しては、内服薬での治療が中心。薬が効かない場合は、美容領域のシワ対策で使われるボトックスを、ぼうこうに直接注射する方法もあります。欧米ではよく行われていますが、日本では保険適用外で自費治療になります。ボトックスの効果は8~10か月ほどなので、繰り返し治療が必要です。

 多くの女性を悩ませる、骨盤底筋のゆるみ・不安定化が原因の尿もれは、適切なトレーニングを行うことで症状を改善させることが可能です。くしゃみをするともれる、トイレが近くて困る、ときどき膣にピンポン玉のようなものが触れる……という人は、まずは骨盤底筋トレーニングから試してみましょう。

※参考:亀田京橋クリニックでは専門の理学療法士による指導を行っています。女性のための骨盤底リハビリ外来(第1・3・5土曜日、1回30分、料金3240円。医師の診察が必要)では、骨盤底筋トレーニングをより手軽にした「ナック」という方法の指導も。

 早く確実に治療して、積極的に外出したりおしゃれを楽しみたい女性は、手術を選択するケースも多いといいます。尿もれの手術はポリプロピレン製のテープでゆるんだ尿道を支えます。通常6か月くらい経過を見て、必要な場合に行います。骨盤臓器脱を併発している場合は、ポリプロピレンメッシュを用いて治療します。手術時間が短く、身体への負担が少ないうえ、メッシュは半永久的に骨盤内の臓器をサポートします。

■次は「自分で予防できるケア」

★骨盤底筋を鍛える

骨盤底筋は自分で鍛えることができる筋肉で、トレーニングは毎日続けることが大事。肛門や膣、尿道をギュッと締めて、ゆるめる。この動作を繰り返します。イスに浅く座るか、あお向けになり、両ひざを軽く曲げて足を肩幅に開いた状態で行います。

★肥満に気をつける

男女とも肥満の人ほど頻尿の傾向にあります。脂肪がぼうこうを圧迫するため、腹圧性尿失禁はやせることで確実に減ります。インナーマッスルを鍛える運動をしたり、食事の見直しなどで、適正な体重とBMIをキープしましょう。BMIは肥満の程度を知るための指数で、体重(kg)÷[身長(m)×身長(m)]が18.5以上25未満が標準。

★姿勢をよくする

姿勢の悪さは骨盤底筋のゆるみにつながります。しっかり骨盤を立てて、ふだんから背筋がまっすぐのびた姿勢をキープしましょう。シャキッとした姿勢を保っていると、腹筋や背筋も自然に鍛えられます。

★吸水ケア用品を使う

下着を濡らす心配がなくなり、精神的にも安心できます。生理用ナプキンを使っている人も多いようですが、経血を吸収するものと尿を吸収するものではまったく違います。不快なだけでなく、かぶれやぼうこう炎の原因にもなりかねないので、尿もれには吸水ケア用品を使いましょう。

★早め早めのトイレはダメ!

ふだんから早め早めにトイレに行く習慣をつけてしまうと、少量の尿しかためられないぼうこうになってしまいます。特に過活動ぼうこうでは、ぼうこうを鍛えることも大事。トイレに行きたくなったら、初めは5分、慣れたら10分~15分ぐらい我慢してみて。排尿を自分でコントロールできるように練習しましょう。

(取材・文/collone イラスト/上田惣子)

※週刊女性の記事を再構成して掲載しています。