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 平成23年の厚生労働省の調査で、65歳以上の患者数は約28万人。うつ病患者全体の29%である高齢者うつ。身体の不調に隠れたり、認知症と判別が難しいため見逃されやすいため、発見はひと苦労。

 めまいや発汗、耳鳴り、胃痛、頭痛、しびれなど、身体の不調かと思われることが、『高齢者うつ』の入り口だったりするからだ。順天堂越谷病院メンタルクリニック・馬場准教授が、『仮面うつ病』という言葉を解説する。

「気分が悪いのも身体の不調のせいだと考え、お腹が痛ければ内科、頭痛が気になれば脳外科を受診し、最初から精神科に来る人はほとんどいません。身体の病気という仮面をかぶったうつ病を『仮面うつ病』といいます。1か月以内に多様な症状が出現し、自覚症状の強さのわりに検査結果で異状がなかった場合、『仮面うつ病』を疑いましょう」

 一見、認知症のように見えるうつ病もあるという。馬場准教授が『うつ病性仮性認知症』と指摘する症状。

「うつ病になると頭の回転が遅くなったり集中力、判断力が極端に落ちたりするため、本当の認知症との区別は医師でも難しい。うつ病の人はそもそも認知症になりやすいので、うつ症状が認知症に合併する人が2~3割います」

 高齢者はほぼ、老化により脳機能が低下する。『高齢者うつ』の発症原因は、まさに脳細胞そのものにあるという。再び馬場准教授の話。

「特に重要な要因が脳の血管障害です。脳細胞が壊れ機能が低下し、脳がストレスに弱くなっているところに、近しい人との死別、社会的地位や役割の喪失、耳が遠くなるなど身体機能の衰弱といった『喪失体験』を短期間で味わうと、発症しやすくなります」

 脳機能の低下は男女ともに表れるが、女性に多い原因として馬場准教授は、『空の巣症候群』『荷下ろしうつ病』『引っ越しうつ病』を指摘する。

「子どもが自立して家の中は空っぽになり、『母親』という役割を喪失したような虚無感が招く『空の巣症候群』。介護していた親が亡くなり、悲しみとある種の解放感を味わい終えた後に心にぽっかり穴があいてしまうのが『荷下ろし症候群』。住環境が変わるストレスが原因で発症するのが『引っ越しうつ病』です。離れていた子どもの家に同居したが地域になじめない場合や、退職した夫が1日中、家にいることなどもストレスになり、発病します」