【好評連載・エンタメヒットの仕掛人】ダンディ坂野に始まり、カンニング竹山からヒロシ、小島よしお、スギちゃんまで多くの人気芸人を世に送り出しているサンミュージック・プロジェクトGET。今年は『メイプル超合金』が「M-1」ファイナリストに残った。この"プロジェクトGET"と呼ばれるサンミュージックのお笑い班はどうやって人気芸人を発掘し、育成し、プロデュースしているのだろうか。その"仕掛け"について、プロジェクトGETを統括する岡博之さん(ブッチャーブラザーズのリッキーさん)と、部長をつとめる小林雄司さんを独占インタビュー。全4回にわたるインタビュー記事第3弾では、”一発屋”と呼ばれる芸人たちが、意外にも長生きしている理由に迫ります!

ブレイクするお笑い芸人の特徴とは?

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岡博之(おか・ひろゆき)●1958年生まれ。京都府出身。森田健作の現場マネージャーとして上京。テレビ番組「笑ってる場合ですよ」「君こそスターだ」でチャンピオンになり、サンミュージック所属のお笑いタレント第一号「ブッチャーブラザーズ」としてデビュー。ダンディ坂野、カンニング竹山、ヒロシを世に送り出すプロデューサーとしても活躍。現(株)サンミュージックプロダクション取締役。

——お笑いライブや養成所などで若手を指導するなかで、この子はヒットする、売れると感じるのはどんな部分でしょうか?

リッキー「技術よりも瞬発力です」

——具体的にはどういうことでしょう。

リッキー「たとえば、ここに一個のリンゴがあったとします。“これをリンゴと言ってごらん”と言うと、ただ“リンゴ”と言う子よりも、何かしなければいけないなと思い、何かをする子。ただ“リンゴーーー!!”と叫べばいいというわけではなく、与えられたお題に対してパっと、多面的にモノを見ていろんな表現ができる子は魅力的ですよね」

——多面的にモノを見る、ですか。

小林「それは大事だと思いますね〜。舞台とテレビでは観客や視聴者からの見られ方も違いますし、頭が柔らかいというか、その場その場で多面的に考えられることは大事なのではないでしょうか。

 たとえば、テレビであれば、収録用のカメラをどうやって活かすかを考えたり、劇場だったら客席に座っている方々にどのように表現しようかとか、席の端の人から見ても表現が分かるにはどうすればいいかとか。それが考えられる人と、そうじゃない人ではまったく違いますよね」

リッキー「ひとつ、とても基礎的な技術のお話をすると、声の大きさの使い分けができることが挙げられますね。それができるようになると、あえて近くにいるのに大きな声を出したりすることもレパートリーに加わります。逆にダメなのは、表現するときに声が小さいことです。これは滑舌が悪いことよりもよくないことかもしれませんね。

 そういえば、ヒロシがうちに来たときは、カタチができあがっていて面白いと思ったんですけど、さすがに唯一アドバイスしたのが“もうちょっと声を張りましょう”だった(笑い)。もともと声が小さかったの。それが本人のスタイルであることは分かるんだけど“お客さんに聞こえなかったらウケないよ!”と。“それはそうですね”となりましたね」

——サンミュージックGETには、俗にいうところの“一発屋”のタレントが多いと思うのですが、それはつくろうとしてそうなったのでしょうか?

リッキー「僕らはしっかりとした芸をつくっているつもりです。そのなかで、ただ瞬発力がある芸人たちが目立っていますよね。例えば小島よしおの“そんなの関係ねぇ”はもともと、全体を通して7分くらいのネタでした。ただ、テレビの作り手は“そんなの関係ねぇ”だけをオンエアしてもウケることが分かったから、そこだけで完結させてしまうんですよね。

 こちらとしては、前段があってフリをやって、失敗して“ヘタこいた〜”というような一連の流れがあって完成される芸でしたが、テレビで使われるのはあのフレーズがメインなんですよね(笑い)」

——ほかの芸人さんも似た部分がありますよね。

リッキー「たしかに、“一発屋”と言われる皆がだいたいそうですよね。ダンディ坂野にしても、彼なりに考えたアメリカンジョーク風の前段があって、“ゲッツ!”とやるわけだから、その前段なしに“ゲッツ!”だけではどうなのかなと思ったのですが、動きがあって“ゲッツ!”とやるだけで面白いんですね~。あと不細工な顔っていうのもいいですよね。ダンディ坂野が二枚目風に“ゲッツ!”とやるギャップが面白いんですよ」

小林「ダンディにしても、竹山にしても、ヒロシも小島も、この人がやるから面白いというところはあると思います。たとえば小島なんかは、早稲田大学を卒業している秀才なのに裸になって“オッパッピー”と言っているから面白い、というのはあるんじゃないでしょうか。誰がやっても面白くなる芸ではないかもしれませんね」

一発屋のギャグは、カラオケで歌われ続ける名曲のようなもの

リッキー「そう、それから、ギャグとしてそんなに難しいことはやってないんですよ、みんなね。それが何かって言うと、分かりやすいってことですね。一発でその芸を覚えられたり、フレーズを口ずさめます。ただ、変な話ですが、ダンディ坂野に関して言えば、誰がやってもダンディよりカッコいいですよね。

 やっぱり本人が面白いんですよ。その人がやるのが一番面白い。やっぱり全力ですよね、ギャグもね。その意味では、“一発屋”というよりもオンリーワンの芸なのかもね」

小林「それを見つけられたというのが、彼らが成功した理由でしょう。そして、彼らのオンリーワンの芸と、時代背景やいろいろな要素がバシッと合った時に爆発するんですよ。お笑いライブなんかを見ていると、徐々にムーブメントがつくられていっているのがわかるんですよね」

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小林雄司(こばやし・ゆうじ)●1967年生まれ。東京都出身。サンミュージック入社後、立ち上げ間もないお笑い部門プロジェクトGETに配属。小島よしお、鳥居みゆき、スギちゃんなど人気芸人をメディアに送り出してきた。現(株)サンミュージックプロダクション プロジェクトGET部長。

リッキー「たしかに裏方は、ムーブメントが来ているのがわかるんですよ。スギちゃんがブレイクするのも何となく分かっていて、以前から僕らが企画しているお笑いライブにスギちゃんが参加していて、注目していました。

 サンミュージックに所属しそうなころに小林から“実はワイルドというネタがあるんですよ”と聞いて『レッドカーペット』や『ガキ使(ダウンタウンのガキの使いやあらへんで)』の『山1グランプリ』で引っかかるな~、と話していました」

小林「芸人に面白くない人は“いない”と思います。少なくともみんな、自分は面白いと思ってやっているわけで。ただ、やっぱり食べていくためには大勢の人が面白いと思わなければいけない。それはいろいろな要素が絡まってこないといけません。

 でも、ブレイクしている期間っていうのは長くは続かないので、どこかでみんな魔法が覚める。“ゲッツ!”や“そんなの関係ねぇ”だけでは食べていけません。どうしても時代は変わっていってしまいますからね。そのときに竹山はテレビ番組の構成上、必要なキャラとしてうまくシフトチェンジできました」

リッキー「別に何かのギャグを竹山がやるわけではなくてね」

小林「ギャグだけでは絶対にどこかで飽きられちゃう。でも思うのは、また“時代”は来るということ。やり続けていれば、またみんなが面白いと思うときが絶対にまた来る。だから“一発屋”と言われていても長生きしている芸人さんが多いんです」

——確かにサンミュージックの芸人さんは“一発屋”とは言われながらも、“一発”で終わらずに、長期的にテレビに出演されている方が圧倒的に多いですね。

リッキー「僕は一発屋のギャグというのは、カラオケで歌われ続ける名曲だと思います。名曲と呼ばれる作品って、一回飽きても“最後はやっぱりこの曲だよね”みたいな感じでまた歌い継がれていきますよね」

小林「やっぱりヒットしたというのはそれなりにちゃんとしたものをつくっている。理にかなった面白いものをつくっているんです。また、ふと思い出したときに“あれは面白いじゃん!”ってなるんだと思いますね」

*今回の連載【エンタメヒットの仕掛人】で行われたインタビューは全4部構成。本編はその第3部になります。最終回は年明け1月2日に公開予定です。