土俵でも私生活でもまさに“金星”を挙げた琴奨菊。そんな彼が生まれ育ったのが、福岡県柳川市だ。市内には、今も琴奨菊の生家がある。彼のエピソードを聞こうと実家を訪れると、両親が喜んで迎え入れてくれた。
ライバルの豊ノ島と対戦。とったりで敗れる。これが、場所で唯一の黒星になった。
13日目に星を落としたが、続く2番を勝ち優勝した琴奨菊。花道で真っ先に駆け寄ったのが、豊ノ島だった。
「優勝して支度部屋に行ったときに大樹が来てくれて、“おじちゃん、悔しいけどうれしい”って本当に喜んでくれた。そうしたら大樹のご両親も泣いて喜んでくれて、“お互いに残るものがあるんじゃないか。思い出の一番になるんじゃないかな”ってね。
やっぱりふたりは切っても切れん縁なんやろうね。大樹がおったから一弘がいたし、一弘がいたから大樹がおったんやろうね」(一典さん)
その優勝をいちばんそばで支えたのが、新妻である祐未夫人だ。『アスリートフードマイスター』の資格も習得し、食事やマッサージで快進撃を支えたという。
「一昨年の九州場所で初めて紹介してもらったんです。付き合っているよって。目立たないように後援会の娘さんっていうことにして、一緒に座ってもらって相撲を見たんです。あの祐未さんの笑顔を見たら、癒されるでしょ。
これは結婚するなって思いましたよ。でも、一弘は前に1度、婚約を破談にしているでしょ。お互いにズレがあったけど、やっぱりショックを受けていたんです。それでも、“真剣に行ったほうがいいよ”って一弘に言ったら、“考えている”って。だから、本当によかったですよ」(一典さん)
“嫁姑”問題も気になるところだが、美恵子さんは“100点満点”と一笑に付す。
「前にひとりで眠れないときがあるって聞いたことがあったんです。だから、お嫁さんはいてほしいって思っていましたよ。それで“彼女(祐未さん)はどう思う?”って聞かれたとき、“お母さんは心を癒してくれる人だと思う”って言ったんですよ。今でもそう思いますよ」
琴奨菊が勝てば、祐未夫人から真っ先に美恵子さんへ電話がかかってくる。兄嫁にも気に入られて、菊次家に溶け込んでいるようだ。
「本当に好きで結婚したから、はたから見ていても恥ずかしいくらいデレデレしているでしょ。でも、祐未さんに聞くと“私のほうこそ待っていたんですよ”って言ってくれるんですけど、真相は(どちらから告白したか)わからんのですよ。そのへんはちょっと、一弘に取材しておきますよ(笑い)」(一典さん)
来場所は綱取りがかかる。若乃花以来となる日本人横綱誕生となるのだろうか。
「死んだじいちゃんは“一弘が大関、横綱にならんかったら誰がなる”っていうのが口ぐせだった。私は横綱になってほしい。たった1場所でもいいんです。これはあの子の夢だもん。でも、今場所の相撲なら夢じゃないと思っています。
小さいころから相撲取りになりたいって思い続けて、親元を離れて明徳に行って、迷わずずっと進み続けて……。この優勝は相撲の神様のご褒美じゃないかなって。そうじゃないと、こんなドラマみたいなこと、考えられないもんね」(一典さん)