201602nodasan15
現在、会長をつとめる事務所内でインタビューに応じた野田義治氏(撮影:竹内摩耶)

「よく考えれば、僕がついたタレントさんはみんな胸が大きかったな。

 夏木マリさんは歌とグラビアの仕事がメイン、いしだあゆみさんは歌とドラマがメイン、朝丘雪路さんは歌もお芝居もバラエティも舞台もジャズダンスも人並み以上にできるマルチタレントだったんですよ。タレントさんごとに、それぞれの分野の人脈を築かせてもらったんですよね」

 そう語るのは、サンズエンタテインメントの会長・野田義治氏。高校卒業後に役者を志して上京し、劇団に所属しながらディスコでバンドのブッキングにも携わる。そんななか、夏木マリのマネジャーとして芸能界でのキャリアをスタートさせる。

 その後は渡辺プロダクション系「サンズ」の紹介でいしだあゆみ、津川雅彦の紹介で朝丘雪路の専属マネジャーに。そして黒澤久雄とともにイエローキャブを設立。堀江しのぶに始まり、細川ふみえ、かとうれいこ、雛形あきこ、山田まりや、MEGUMIなどの人気タレントを育ててきたことは知っている読者も多いことだろう。

 今回の『エンタメヒットの仕掛け人』では、そんな野田氏にマネジャーとヒットタレントのあり方について聞いた。

−—メディアはアナログからデジタルに移行しつつありますが、そのなかで芸能事務所としての舵取りは変わりましたか?

「メディアの潮流がアナログからデジタルになっただけで、芸能事務所の本質的なビジネスは昔と何も変わっていないと思う。人を育ててプロデュースするという我々の商流はこれからも変わらない。

 一般の企業と大きく違うのは、感情のない製品を作っているのではなく、人間という複雑な感情で動く生き物と仕事をしていることにあると思うよ」

——そんな人間を売れるタレントにする確実な方法ってあるんですか?

「もちろんそこに正解はないし、ヒットの方程式なんてないと思う。タレントを売り出すのに方程式があるんなら、こっちもすごく楽なんだけど、そういうわけにもいかない。エンタテインメントの世界でヒットを出すノウハウは、マネジャーにもないし、タレント本人にだってない。

 そして、番組をつくっている人たちにもないと思うんですよ。世間を相手に、情報発信していくということはそれだけ難しいことなんだろうね」

——たしかに、紙の媒体は売れなくなり、テレビの視聴率も低下。世間の情報への接し方はめまぐるしく変わっています。

「いまはネットの影響もあるのか、タレントが消費されてしまうのがとても早い。グラビアアイドルでも、昔は1年くらい人気がもった子でも最近じゃ厳しいよ。

 3か月、あるいは1か月で飽きられちゃうんだよね。昔のような“ヒット”がそう簡単に成り立たない時代なのかもしれない」

——となると、売り込み方も変わってきそうですね。

「そうですね。最近メディアの方々によく言われるのは“データはありますか?”っていう話。タレントが、これまでどれくらい売れてきたのかっていうデータを求めてくるんだよ。

 でもさ、何事も仕事はやってみなくちゃ分からないし、そのデータがヒットを生み出すとは限らないんじゃないかな」

——芸能事務所にとっても厳しい時代だとは思いますが、できるマネジャーの条件って何でしょうか?

「“のめり込めるバカであれ”ということ。タレントがどうやって売れるのかだけを忍耐強く考え続けられる人はこの仕事に向いているね。

 たとえばあるタレントの担当になったら、そのタレントの言うことを聞いているだけではなくて、この人(タレント)はどんな人なんだろうと考え続けて、新しい提案ができる人はできるマネジャーだと思うよ」

——タレントさんのことを知る努力が必要なんですね。

「“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という言葉があるだろ? まずタレントを知らないとテレビ局や雑誌社に営業に行けない。局のディレクターやプロデューサーたちだって、マネジャーがタレントの良さを説明してくれないと良し悪しをちゃんと判断できないわけだからね。

 同じような番組や雑誌でも、求めているタレントの色は違っていて、たとえば『ヤングジャンプ』と『ヤングマガジン』のグラビアはどれも同じように見えるけど、実は使われている女の子のタイプはまったく違う。そういう小さな違いを理解したうえでタレントのプロフィールを持ち込むことが大切だね」

現場の"ことなかれ主義"に喝! 馴れ合いよりも本気のぶつかり合い

——洞察力が求められますね。

201602nodasan12
"現場至上主義"はいまも昔も変わらない「スタンス」

「そう。たとえば、ちょっと会って話をしたら仕事をくれる人かくれない人かくらいは分かるでしょ!?(笑い) あとはタレントさんの顔を見て、今日は調子悪そうだなぁとか、先回りして気がつく人は向いていますね。

 タレントさんが楽屋に入ってきたときに、“この人はいつもとりあえずコーヒー飲むよな〜”とか、そういったことを把握しておいて言われる前に準備できていたり、担当しているタレントさんにとってベストなコミュニケーションをとれる人がいいよね」

——タレントとマネジャーの適切な“距離感”もまた独特なものがあります。

「タレントさんっていつも真剣勝負で、常に清水の舞台から飛び降りるギリギリの精神状態で仕事をしているんだよね。僕たちマネジャーは、そこからちょっと離れた安全な所で見ていることしかできないんですよ。

 僕はなかなかタレントさんからマネジャーとして認めてもらえなかったんだけど、芸能界で三本の指に入るくらい怖いと言われていたいしだあゆみさんについて回って4年目のときに、やっと“私のマネジャーです”と紹介されたときは認めてもらえたと実感できて、すごく嬉しかった。

 でも、最近は現場の制作サイドもタレントだけでなく、マネジャーのことも持ち上げてくるみたいだね。それはなぜかというと、そうやっていると気持ちよく終われるじゃない。“ことなかれ主義”になっているのは、物づくりの現場としてそれでいいのかと疑問を感じてしまう。“いい作品”をつくるためには、馴れ合いよりも、本気でぶつかり合うことだって必要なんじゃないのか」

——"泥臭さ"のようなものが求められているのかもしれませんね。

「タレントを使ってもらうために何度も営業先に行って、相手が辟易するくらい説得することもまた必要。でも、最近のマネジャーはその前に自分のなかで終わらせてしまう。なかったことにするんだよね。営業先に“分かった、とりあえず一回使ってやる”って言わせるようなしつこさがないとね」

——野田さんはこれまで多くの人との繋がりを生かして仕事をしてきたと思うんですが、どうやって人間関係を築き上げてきたんですか?

「酒を飲む必要は必ずしもないんじゃないのかな。話をするだけでいいんだよ。酒を飲んだらかえって人間関係は希薄になるよ。

 俺は酒飲めないからそもそもそんなお付き合いはしないし、お酒を飲んでいるときに仕事の話をしたって誰も聞いてくれないと思っているよ。お酒の席は遊びの場だからね」

——では、実際の現場ではどういった人間関係の築き方が求められていると思いますか?

「スタッフの顔と名前をすぐに覚えることが、マネジャーには求められていると思う。二度目に人と会ったときに“え〜っと、なんて言ったかなあの人”ってなるよりは“〇〇さん、こんにちは!”と挨拶するだけで印象は違うし、覚えてもらえる」

201602nodakaicho
野田義治(のだ・よしはる)●1946年富山県生まれ。1980年にイエローキャブを設立。堀江しのぶ、細川ふみえ、かとうれいこ、雛形あきこ、山田まりや、MEGUMIなどの人気タレントを育てた。'04年11月、イエローキャブを離れ、サンズエンタテインメントの会長に就任。

——覚えていてもらえると嬉しくて相手のことを覚えますしね。

「だから、僕はキャバクラとかクラブなんかの水商売で指名を多く勝ち取る子のなかには、優秀な人が多いと思うんだよ。だって、いきなり来た初対面の客に対して上手に“距離”を詰めていくんだよ。

 それで、相手との関係を続けるために細かく電話やらメールで連絡をとったりする。クラブNo.1のホステスさんは天下の美女ではないことが多いんだよ。じゃあ何が違うのか? それは気遣いやお付き合いだし、アフターとかをしていくなかで最後まで行かないようにするテクニックとかね。こういった技術からは学びが多いと思う」

——最後に、マネジャーのやりがいについて教えて下さい。

「タレントに仕事がある状況を作り続けるなかで、周りの人たちから担当しているタレントについて“いいじゃん! 売れてきたね!”って言われたときはやっぱり嬉しい。タレントが一段ずつ階段を駆け上っていく所を横で見ているときは、本当に快感だよ。

 でもこれって、なんでも同じだと思うんだよね。たとえば今までそんなに売れていなかった雑誌を何十万部も売ったら快感じゃない? 自分では仕事をしているときは必死で気づかないけれども、人様が言ってくれたときにはもの凄く気持ちいいんだよ」