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 イスラム国は昨年6月、イラク北部を武力制圧すると、イラク、シリア両国内で一方的に建国宣言。凶暴さに逃げ出した住民の土地・家屋・家財をぶん取って支配下地域を広げるなど、歯止めがきかなくなっている。非道ぶりはそれにとどまらない。

「身代金は領地拡大の軍資金に充てるほか、世界各国から集められた〝傭兵〟に給料として支払われる。また少数派教徒の女性や子どもを拉致。女性は性奴隷として、子どもは奴隷として兵士たちに分け与えているという。好き勝手されるがままの住民の中には、生活に困窮し、イスラム国の人質になるような外国人の身柄や居場所情報などを売り渡す者も出てきているようだ」(中東取材経験のあるジャーナリスト)

 今回、ついにイスラム国が日本に狂気の刃を向けた。しかし、我々日本人はこれまで中東の人たちに親近感を持たれているはずではなかったか─。軍事評論家の前田哲男氏は、「日本人に対する特別意識は急速に失われつつある」と指摘する。

「中東は西欧諸国の植民地でした。日本は先進国でありながら関与せず、第2次大戦後も軍隊を中東に派遣することなく、兵器も輸出しなかった。これは中東の人には驚きで、一方でホンダがあり、ソニーがあり、キラキラ輝いてみえた。非西欧という共通点もあり親近感を持っていたんです。しかし、’01 年9・11の米同時多発テロ後、日本は変わり始めた」(前田氏)

 当時の小泉首相は、テロ対策特別措置法を成立させ、非戦闘地域で米軍の報復攻撃を後方支援。イラク戦争後はイラク特措法に基づいて同国サマワに自衛隊を派遣するなど米国追従が目立つようになった。日本も欧米と同じじゃないか、という見方が出てきたという。

 さらに安倍首相は「積極的平和主義」を掲げ、テロと戦う欧米に歩調を合わせる。同一視されてもおかしくない。

「中東の一般の人たちはそれほど日本人に対する見方が変わったわけではない。しかし、政治的意識の高い人にとってはフツーの国になった。反発もフツーの国並みに返ってくるということ。海外勤務や旅行先でテロの標的になる可能性もある。イスラム国は日本の情報を収集・分析してよく知っている。ここ10数年、テロリズムは国境をまたいだグローバルで無差別なものになっているのでどこで巻き込まれるかわからない」(前田氏)

 つまり、私たちにとっても人質事件は他人事ではすまないということ。軍事評論家の熊谷直氏は、「日本は地続きの国境がない島国なので緊迫感に欠けるところがある。過激派グループやテロリストはイスラム国に限らないし、その多くは話が通じる相手ではない」と警告する。