鈴木太郎こと年齢不詳の男
逮捕後の鈴木太郎(仮名)。長髪に浅黒い肌が特徴的(「ANN系ニュース」より)

「警察に逮捕されれば、指紋などから、自分が誰なのかわかるのではないかと思った」

 記憶喪失の男『仮名・鈴木太郎』は、裁判の中で、信じがたい犯行動機を口にした。

「2008年3月14日、静岡県熱海市の国道で、意識不明の状態で倒れていたところを発見され、市内の病院に救急搬送されました。その際、自分に関する記憶がなく、所持品に身分を証明するものはなかったそうです」(小田原福祉事務所・生活福祉課担当者)

 診断結果は、『全生活史健忘』。これまでの自分の生活歴を、すべて忘れてしまうという信じ難い病気だ。病院は、男を『鈴木太郎』と名づけた。仮の生年月日は1977年3月14日、仮年齢は36歳だ。

 保護された日以来、仮名で生き続けた男はやがて、生活保護費を不正受給しながら違法動画の配信に手を染めるという罪を犯した。

「動画サイト『FC2』にテレビドラマ9作品、数にして約2000本を違法配信し、2012年11月から約2年間で総額1070万円を荒稼ぎする一方、生活保護を不正受給した。著作権法違反と詐欺の罪で起訴され、今月9日に群馬・前橋地裁で懲役2年、保護観察付き執行猶予5年、罰金30万円の判決が言い渡されました。知人の協力を得て、約300万円の生活保護費を返還したことなどが考慮され、執行猶予となったようです」(全国紙社会部記者)

 当初、男が操った言葉は、片言の日本語と英単語が少し。

「生活保護を申請する際には、"戸籍が欲しい"と訴えていました。福祉事務所の職員が定期的に家庭訪問していましたが、記憶が戻る様子はなかった。家賃4万3000円のワンルームに住み、健康のためにランニングをし、自炊もきちんとしていたようです」(前出・福祉事務所担当者)

 違法アップロードで高収入を得るようになってから、悪知恵を働かせた。家庭訪問されるアパートはそのままに、静岡県沼津市に別宅を構え、スキューバダイビングを楽しみ、インストラクターの資格取得を目指したという。

「唯一の身分証明である生活保護受給者証を失うわけにはいかなかった」

 男は公判で、生活保護を不正受給し続けた理由を、そう証言した。海のそばで暮らし始めた理由は、発見時に身につけていたダイビング用の腕時計。過去の自分を思い出す重要なグッズにちがいないと考え、「海に潜れば何か思い出せる」と考えたようだ。インターネットを使い始めたのも「自分の素性を知りたい」という動機からだったという。