20150317 kaawasaki (8)
遺棄現場にあったバスケットボールには「大好きだから!」「めっちゃ仲よかったよね」などと寄せ書きが


真っ暗闇の河川敷で"処刑"は始まった。つい、このあいだまでランドセルを背負っていた少年は、年上の不良グループに後ろ手に縛られ、ひざまずかされ、刃物で首を切られて絶命した。あまりにもむごすぎる今回の事件。少年の微弱なSOSを拾い上げることはできなかったのだろうか――


「カミソンはほんと、かわいいヤツっす。会うといつも、あいさつしてくれるし、みんなに愛されるモテキャラ。すっごい素直だし。俺、あいつに警告したんですよ。高校生と会うのはやめろって。7~8人でラウワン(娯楽施設『ROUND1』)とか大師公園で騒いでいるみたいだったから。でも1度、グループでいるあいつ見た時、笑顔だったんで、大丈夫なのかなって思っちゃったんですけど……」

 同じ中学に通う3年生は、川崎市川崎区の市立中学1年生、上村遼太くん(13)を救えなかった苦渋を、伏し目がちに打ち明ける。"カミソン"というあだ名で親しまれ、誰にでも好かれる後輩だったという。

 2月20日午前6時15分、通行中の70歳の女性の110番通報で事件は明るみに出た。

「10歳代くらいの若い男性が死んでいる」

 川崎市川崎区の多摩川河川敷の現場に駆けつけた捜査員が目にしたものは、人間の仕業とは思えないほど残虐性が見て取れる少年の遺体だった。

「カッターや刃物で3、4か所、刺されている。遺体はかなりひどい状態。首を切断しようとした痕があり、"イスラム国をまねたのか?"と憤りの声が出た」と捜査関係者。

 遺体を司法解剖したところ、死因は頸部刺切創に基づく出血性ショック。死亡推定時刻は、20日午前2時ごろ。県警はすぐさま川崎署に、捜査本部を設置。94人体制で捜査を進めた結果、2月27日午前、18歳の少年ら3人を殺人容疑で逮捕した。

 初動捜査に張りついた全国紙社会部記者は、

「放置された遺体は全裸。近くで、上村くんを縛ったとみられる結束バンドが見つかっている。顔や腕のほか、ひざにも擦ったような傷があり、後ろ手に縛られて、立てひざの状態のまま暴行された疑いが強い。イスラム国の処刑動画のようで、あまりにもむごい」

 そう話し、唇を噛む。死亡推定時刻の1時間後には、遺棄現場から約700メートル離れた公園の女子トイレで、ボヤが発生。遼太くんの衣服や靴が燃やされていた。証拠隠滅のつもりか。携帯電話も見つかっていない。遺棄現場には今も献花が途切れることはない。お菓子、清涼飲料、手紙、上村くんが大好きだったバスケットのボールにはメッセージが書かれ、「みんなに愛されるモテキャラ」(冒頭の中学生の言葉)だった人柄がしのばれる。

川崎事件
遺棄現場には多くの人が訪れて静かに手を合わせていた

 2年前の夏、上村くんは島根県隠岐諸島の西ノ島から母親の実家がある神奈川・川崎へ引っ越して来た。高校生の兄、小学生の妹が2人、保育園児の弟の5人きょうだい。一家が島を離れた日の様子を、西ノ島小学校の教頭は、鮮明に記憶している。

「フェリーを見送る港に、同級生と教員、上級生や下級生が見送りに集まりました。誰からも好かれる人気者です」

 島ではバスケットボール人気が高く、上村くんは小学校の課外バスケチームと、島の少年バスケ団『西ノ島カウボーイ』の両方で活躍していた。

「小学校のチームを地区大会優勝に導いた立役者です。ポジションは、司令塔役のポイントガード。ゲーム運びを分析し、分析結果に基づいてチームを機能させる頭のいい子です」(関係者)

 自然の中で、地域に育まれた上村くんの様子が思い浮かぶ。そこではごく当たり前だった人間関係─「島では上級生も下級生もなく、一緒に遊びます。素朴な子ばかりという生活環境で育っている」(前出関係者)─が、川崎に引っ越した上村くんに、上級生に対する警戒心を抱かせなかったのかもしれない。

 環境が変われば、山陰地方ののどかな島で暮らしていた時の純朴さが、あだになることもある。いつの間にか上村くんは、高校生に絡め取られ、島から離れたわずか1年半後に、命を奪われることになる。

 なぜ、上村くんは殺されなければならなかったのか? 誰ひとりとして、彼を守れなかったのだろうか?

 同級生の女子は、今にも泣き出しそうな表情で、思いを伝えてくれた。

「年上から暴力を振るわれたりして、(不良グループから)抜けられないことは、何となく聞いていたけど、大丈夫かなと思うことしかできませんでした。自分が動いて、もしグループの人になんかされたら怖い。助けたかったけど、どうすればよかったのか、正直、わからないです」

 2歳上の男子生徒も、上村くんを気にかけていた。

「カミソンが高校生たちにパシられているのは知ってたから、1月にコンビニで会った時に"大丈夫か?"って聞いたけど、笑って"大丈夫"って。抜けさせるとか俺ひとりじゃできなさそうだけど、もっとちゃんと気にかけてやればよかった」

 救いの手は、救いの直前で伸ばし切れず、上村くんからの必死のSOSもなかった。抜ける怖さ、一味の恐怖支配の恐ろしさを、上村くんは誰よりも肌身に染みて知っていたのかもしれない。