■地方やベッドタウンのマンションが10万円に!?
新築マンションの販売広告がメディアに掲載されない日はなく、高額物件が瞬く間に完売する昨今。やがて、その物件が空き家になる、かもしれない将来へ向け現実は動き出している。
以前から、空き家問題が顕在化していたという地方。不動産のなれの果てを物語るひとつの風景が、新潟・越後湯沢に広がっている。著書『空き家問題』(祥伝社新書)で警鐘を鳴らした、不動産コンサルタントの牧野知弘さんは言う。
「JRの駅付近に、平成初期に、販売価格何千万円というリゾートマンションがいっぱいできました。それが現在、どうなっているか? 販売価格10万円ですよ。要は資産価値がもうないってことですね。今はリゾートマンションの話ですが、近い将来、地方や首都圏郊外の普通のマンションで、こんな姿が日常になるかもしれません」
中古物件より新築神話が歓迎され、おびただしい新築物件が長年、供給され続けてきた日本。ニーズがあるうちはよかった。
「地方に育った子どもが東京に憧れて、東京の大学を選び、就職をした。それが団塊の世代です。結婚し、家族をつくると家が欲しくなる。今さら地方に戻りたくないね、ということで、郊外に一戸建てを建てたんです。でも団塊ジュニアたちは都心居住。郊外の一戸建てである実家には戻らないのです。空き家は増えるばかりですね」(牧野さん)
団塊の世代は、今年68歳に達する。25年後の2040年には93歳。その時、日本に現れるのは、今とはまったく違った世界だ。不動産コンサルタントで『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)の著書がある長嶋修さんが見通す。
■空き家が増えればスラム化も進む
「2013年の空き家率が13.5%だったので、この調子でいくと2040年には30~40%になってしまいます。町として成立しないところも出てくると思いますし、誰も住んでいない地区が出てくるでしょうね」
あちらこちらに出現する、まさにゴーストタウン。現在でも、埼玉でハクビシンやタヌキがすみついている空き家があるという。空き家が増えれば、スラム化も進む。近隣住民が不安を感じるだけでなく、自治体にも大きな課題が突きつけられることになる大問題だ。長嶋さんが続ける。
「行政サービスが効率的にできなくなるのが、いちばん大きい。上下水道が老朽化して修繕するといっても、5000人のためにするのか、1万人のためにするのかでは、1人あたりのコストが全然違う。つまりは税金をたくさん使うと、割高になってしまう。ゴミの収集も、北国の除雪も、相当お金がかかりますから」
住民が減れば税収が減り、自治体はお手上げ状態。そんな将来の不安を予感させる地方都市が、すでにある。
「夕張市ですね。財政破綻して人口が激減しています。現在は、夕張の姿を日本の自治体が追いかけている状態です」(牧野さん)
■もはや集まって住むしかない
自治体は、人が住むことによって治安が保たれ、税収が見込め、人口が維持できると考え、居住者を募る。ひとつの試みとして根づいているのが、借り手がいない物件と借り手を結びつけようと各自治体が取り組む制度『空き家バンク』だ。長嶋さんが説明する。
「全国で400くらいあると思います。行政と連携してこの空き家を活用してくれれば補助金を出しますよ、家賃を安くしますよ、リフォーム費用を少し援助しますよ、と。所有者、不動産業者、行政それぞれが協力しないと、空き家問題はなかなかうまく解決しないですね」
効果的な対策を、今から打つことはできるのか。街づくりの視点から牧野さんは、
「人は全部、街の真ん中に住みましょう。これがいちばん単純です。タワーマンションを1000棟くらい建てるとかして、街をコンパクトにする。人口がどんどん減っていますから、もっと集まって住めばいいんです。居住エリアの線引きをやり直していかないと、もう間に合わないのです」
と提言する。人口密度が高い地域ができあがれば、自治体のサービスも集約できる。すでに先鞭をつけている自治体がある。
「富山市です。中心部だけに市電を走らせたり、行政サービスを充実させています。これを大都会でもやっていかないと。そこに住まないと不便という環境を、築いちゃうんですね」(牧野さん)
「消滅自治体」を認定した日本創成会議のレポートには、2030年に日本の自治体が半分に減るという衝撃的な内容も含まれている。もちろん2030年に1度に減るわけではなく、年々少しずつ、今のままでは立ちゆかなくなる自治体が増えていくという現実。すでに地方で始まっている“自治体崩壊”の足跡は、ゆっくりと、重く、都会にも忍び寄っている。
〈プロフィール〉
長嶋修さん●不動産コンサルタント。株式会社さくら事務所会長。空き家問題をはじめ業界・政策への提言も行う。メディア出演多数。
牧野知弘さん●不動産コンサルタント。オラガHSC株式会社代表。ホテルや不動産のアドバイスのほか、講演活動も行っている。