『世界ふしぎ発見!』『主治医が見つかる診療所』などの人気番組で司会を務め、その紳士的な語り口と朗らかな人柄でお茶の間に親しまれてきた草野仁さん。その若々しい姿からは信じられないが、実は今年で71歳を迎えた。そんな草野さんの新刊タイトルは、『老い駆けろ!人生』。
「タイトルはいろいろと考えたんです。これから自分が老いていくのは間違いない。でも、老いて沈み込んでしまうのは寂しいので、まだまだ夢を持ち、前へ駆けて行こうじゃないかという思いを込めて、このタイトルにしました」
本書では「健康」「居場所」「死」「生き甲斐」という4つのテーマが語られている。「健康」といえば、草野さんはバラエティー番組で筋肉隆々のマッチョな身体を披露したことから、肉体派としても有名。普段はどんな健康術を実践しているのか、同世代の人ならずとも気になるところだ。
「私が身体を鍛え始めたのは意外と遅くて、50歳近くになってから。ある日、自分の背中やわき腹をつまんでみたら、かなり分厚くなっていることに気づきまして(笑い)。それでトレーニングを始めました。最初は15キロのダンベル運動などハードなメニューをこなしていましたが、首筋を少し痛めてしまって。それでダンベルを5キロにしたら、無理なく続けられるようになりました。シニアはこれが正解なんですね。あくまでも自分のできる範囲で、無理をしないことが大切です」
年齢を重ねれば、誰もが肉体の衰えを感じるもの。だが、それを後ろ向きにとらえる必要はないと草野さんは話す。
「私も60歳のころは、当時司会をしていた『ザ・ワイド』のスタジオに入る前、階段を垂直跳びで5段上がるのが日課でしたが、今はとても無理でしょうね。でも、シニアにとって一番の目標は、“最後まで人のお世話にならずに暮らすこと”。何かの大会に出るわけではありませんから、日常生活で不自由がない身体を保つことを目標にすればいい。老いを受け入れつつも、決して諦めるわけではなく、できることをコツコツ続けることが大事ではないでしょうか」
また「居場所」の章では、“家庭”という最も大切な居場所について語っている。とはいえ若いころを振り返ると、草野さんは懺悔しなくてはいけないことも多いようで……。
「私は長崎生まれの九州男児ですから、結婚当初は典型的な亭主関白でした。仕事ばかりで家庭を顧みず、“俺が稼いで一家を支えているんだからな!”と思っていましたね。当時、勤めていたNHKの給料はかなり安かったにもかかわらず(笑い)。最初の転勤が決まった時も、まだ1歳と0歳だった息子たちを抱えた家内に引っ越しの準備をすべて任せて、自分は同僚たちが開いた麻雀大会に出ていたのだからひどいものです」
■妻の心遣いに気づき価値観が変わった
それが間違いだと気づいたのは、40代でNHKを辞め、フリーになってから。
「早朝の番組に出るために毎日3時半に起きていたのですが、いつも朝食が用意されていて、冬には部屋も暖めてある。それで“私より早く起きて、こうした準備するのは大変なことなんじゃないか”とふと気づいた。そしてようやく“結婚生活は夫婦2人の力で成り立っているのだ”という当たり前のことに思い至ったのです。それからは“ありがとう”“食事おいしかったよ”と感謝を伝えるよう心がけています。家内に言わせると、“若いころのあなたはひどかったけど、ここ10年は一応、合格点ね”だそうです(笑い)」
草野さんは気づいたからよかったものの、「うちの夫はいまだに“飯、風呂、寝る”しか言わない」と諦めぎみの読者も多いはず。だが草野さんは「奥様の側から、夫を変えるきっかけを作ってみては」と提案する。
「たまにはみなさんも、お友達と旅行でもされてみては? 留守番の夫は自分で身の回りのことをしなくてはいけないので、“妻はいつも大変なことをやっているんだな”と気づくはずです。食事のときに“今日の煮物の味はどうだった?”と奥様から話しかけて妻が作った料理に興味を持つよう働きかけるのもいいですね。男たちも悪気があるわけではなく、本当に気づいていないだけのことが多いんです。みなさんのご主人が変わる可能性も十分あると思いますよ」
そして最終章で語られる「生き甲斐」。これが見つからない人も多いが、「世間に強い関心を寄せていれば、“これをやってみたい”と思うものに出会えるはず」と草野さん。
「大事なのは“自分の年では遅すぎる”などと考えないこと。番組でご一緒している黒柳徹子さんは今年82歳ですが、“90歳になっても司会をやりたい”とおっしゃっています。『徹子の部屋』で各界の旬な人たちをお招きし、誰に対しても“なぜ? どうして?”と好奇心を持ち続けていることが、あの若さの秘訣なのでしょうね。ですからみなさんも、年齢など忘れて、やりたいことを見つけてください。思い立った時が、いつでも“適齢期”ですよ」
■取材後記「著者の素顔」
今の草野さんの「生き甲斐」は、仕事と競馬。競馬は若いころからの趣味で、「家族にどこか遊びに連れて行ってとせがまれて、競馬場に行ったこともありました(笑い)」というほど。
「競馬は知的な遊びです。その日の馬の状態や天候などの不確定な要素を、自分の知恵とノウハウで予想するわけですから。専門家たちも予想しなかった結果を的中させた時は、“神様が与えた難問を私だけが答えられた”と思うほどの達成感がある。競馬は私にとって手放しがたい生き甲斐なんです」
(取材・文/塚田有香 撮影/藏澄侑希)
〈著者プロフィール〉
くさの・ひとし ●1944年、旧満州生まれ。長崎県島原市で育つ。東京大学卒業後、NHK入局。『ニュースセンター9時』などでスポーツアナウンサーとして活躍し、ロサンゼルスオリンピックをはじめ3度の五輪中継に携わる。1985年にNHKを退局し、フリーに。現在は『世界ふしぎ発見!』『主治医が見つかる診療所』などでメーン司会を務める。著書に『話す力』など。