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遺棄現場。山林内には約10メートル四方のブルーシートが設けられており、脇には花束とコーヒーが供えられていた

 

 山形市内の山林で29歳男性の白骨化した遺体が発見され、3人の男が死体遺棄の疑いで逮捕された。被害者を含む4人は市内外の複数のパチンコ店で有名な常連客。両者には巨額のお金の貸し借りがあったという。

「ハット!」「ハットさん!」

 仲間内にそう呼ばれていた柴田健太さん(当時29)が忽然と姿を消したのは、昨年秋。調べによれば、10月29日ごろを最後に、ぷっつりと行方がわからなくなったという。

「ハットさん!」─あだ名の理由はいたってシンプルで「毎日、おしゃれな帽子をかぶっていたから、いつしか呼ばれるようになりました」と柴田さんを知る人物は話す。

 近隣住人は、「身長が160センチちょっとと小さくて、あごと口にひげをはやしていました。家から出てくるといつも帽子姿で、かぶっていないのを見たことがない。サッカーの長友(佑都)選手に似ていた」と風貌を証言する。

 柴田さんは、パチスロが好きで、そして得意だった。

 地元の情報通は「失踪3か月前まで柴田さんには彼女がいた。でも、パチスロの打ちすぎが原因で別れたらしい」。それほどまでに、のめり込んでいた。よく出入りしていた郊外のホールは遊技機1000台以上の大型店で、約2年前の新規開店当初から、柴田さんは常連客だった。

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柴田さんが大宮容疑者と暮らしていたとされるアパートは空き部屋に

 

 柴田さんの姿が見えなくなった直後、嫌な噂話が常連客の間で交わされていたという。

「"あの人、いなくなっちゃったよね"って話は、たびたび出ていた。"そうそう、見かけなくなったね"と話す人もいたけど、"あいつ、俺らが消したから、これで借金はチャラだ"という会話を店内で耳にした客もいる」(常連客)

 常連客以上に柴田さんの行方を気にしていた人物がいた。

「ハットさんにはいつも一緒にパチスロをする親友がいて、その人が周囲に"あいつがいなくなった、知らないか?"って血相を変えて探し回っていました。"きっと殺されてしまった。埋められたか沈められたかだ"とも言っていた」

 事情を知る人物は、沈痛な表情でそう証言する。

 柴田さんが姿を消してから約1週間後の昨年11月7日、「まだ失踪届を出すのは早いんじゃないか」と二の足を踏む柴田さんの父親を親友が説得し、県警に捜索願を提出。

 交友関係などを調べていた山形県警は行方不明になってから約8か月後の6月26日未明、山形市内の山林の土中から一部が白骨化した遺体を発見。司法解剖とDNA鑑定の結果、柴田さんと判明した。

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捜査本部が置かれた山形警察署。71人体制で事件解決に全力を尽くす

 

 失踪直前、柴田さんに会っていた3人の男が、死体遺棄容疑で逮捕された。山形市内に住む無職・大槻一亮(25)、派遣社員・大宮真緒(25)、無職・樋渡聖弥(25)の3容疑者。"自称パチプロ集団"で「土の中に埋めた」といった供述をしているという。3人と柴田さんの間に、一体何があったのか。トラブルの正体を取材すると、ひとつの原因にたどり着いた。

 ─それは金。

「柴田さんはパチンコなどで貯めたお金が3000万円くらいあり、市内に飲食店を開いたこともあるそうです。遊技資金が欲しい容疑者らとの間で、4ケタ(=1000万円)もの額が動いていた。中でも大槻がいちばん借りていたみたい。捺印つき借用書もちゃんと存在していて、返済日が来たけどどうにもならなくて犯行に及んだんじゃないかと……」

 ある交友関係者は、そう内情を明かす。警察発表では誰が主犯格なのか明らかにされていないが、3容疑者の力関係についてこの関係者は、

「大槻がいちばん腕っぷしが強く、ほかの2人を束ねる存在だったようです」

 と付け加える。

 大槻容疑者の人となりを、以前の勤め先の関係者が打ち明けてくれた。

「"京都のホスト店で経理をしていて、売り上げがすごくよかった日の金を持ち逃げして山形に帰って来た"と言ってました。腕じゅう入れ墨でいっぱい。自分の利益しか考えないやつなので嫌われ、勤め先を辞めてからは連絡をとった従業員はいないらしい。働いていたのは、3~4年前の短期間のみ。そのあと、近所の店で働いてすぐ辞め、自分で洋服のブランドを立ち上げるも長続きしていない。事件を知ったとき"ああ、やりかねないな"と驚かなかった」

 小柄だがお腹に肉がつき腕から首にかけてはタトゥー。

「市街地の他のホールや、ときには仙台まで遠征していた。本気でパチスロで稼いだ金で生活していくつもりだったみたい」(前出の情報通)

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3容疑者らが通っていた山形市内のパチンコ・パチスロ店。「大槻と柴田さんはいつもいた」と話す常連客も

 

 大宮容疑者はフェイスブックの職業欄に「個人事業主」とパチプロ気取りで記し、月収20万円を目標にしていたという。柴田さんと同居していたことがあり、今年3月ごろに部屋を引き払ったという目撃情報もある。

 もうひとりの樋渡容疑者は母親、祖母、弟と4人暮らし。2年半前に父親をがんで亡くし、母親は午後から夜まで近所のスーパーで働く。近所の住人は、

「あの家は近所と交流を取りたがらなかったものの、会えばあいさつはしたし、息子はハキハキした気のいいやつという印象だったけど……」

 3容疑者は開店前の朝8時前から入店待ちの列に並び、夜7時ごろまでホールに入りびたっていた。なじみの店には複数のパチプログループが存在。3容疑者のほか柴田さんと親友のコンビ、ほかに2、3組あり、グループ同士の交流もあったという。

「グループごとに全メンバーで入店する時もあるし1人の時もある。ハットさん以外にも"ねずみ男""チンパンジー"などあだ名で呼びあっていた。事件は計画的犯行で、ハットさんを埋める穴を先に掘り、麻雀を口実に呼び出してナイフで刺し殺したらしいというウワサ話がささやかれている」(前出の関係者)

 なぜ金の貸し借りが始まったのか。周囲の取材をまとめると、柴田さんがお金持ちなのを狙って大槻容疑者らが近づいた可能性が高い。

「柴田さんは金を貸した相手がパチスロで勝ったらその分の利子を上乗せして返してもらっていた。パチスロで負けても"個人金融"で取り戻せるかたち」(常連客のひとり)

 今、柴田さんの生家には、父親がひとりで暮らす。

「3人息子で、上の2人は家を出て働いている。末っ子が柴田さん。いちばんやんちゃで、高校時代からバイクを乗り回していた。母親は5年前、山から転落死してね。あの子は飲食店をやっていたけど、弱った父親のために時々様子を見に帰って、1週間分の食料を保存容器に分けたりしてあげてたんだ。ようやく父親が妻の死から立ち直れそうな矢先に息子を亡くして、気の毒だよ、本当に」(近くの住人)

 山形県警は、「殺人容疑も視野に入れ、全容解明に向けた捜査を徹底する」と、執念を燃やす。事件の闇は深そうだ。