■学校からすすめられた接種で少女たちが……

 カーテンが引かれた薄暗い室内で、じっとうつぶせでいた少女の身体が、突然小刻みに動き出す。蚊の鳴くような声で“こんにちは”と挨拶をしたかと思うと、まぶたが裏返ってまた身動きひとつしなくなり、両足が、突如として天井に届くかと思うほど跳ね上がる──。

 『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(黒川祥子著・集英社刊)は14歳の少女・あすかさん(仮名)の、そんな極めてショッキングな描写からスタートします。

 あすかさんは800メートル走が得意で、華道に打ち込む健康で明るい女の子でした。ところが、中学1年になった2012年5月、“あること”をして以来、強い頭痛に襲われるようになり、2014年2月末には、ついに前述のような状態に──。

 悪夢のような変化は、あすかさんだけに限りません。“あること”をきっかけに、日本各地でハンマーで叩かれるようなすさまじい頭痛や、意思とは裏腹に身体が動き出してしまう不随意運動、自分の名前や親の顔さえ思い出せない記憶障害が、次々と少女たちに発症しているのです。

 彼女たちに共通する“あること”。それこそが、子宮頸がんワクチンでした。

 本書には6人の少女たちが登場、その症状が克明に描写されますが、彼女たち全員に共通するたったひとつのことこそが、子宮頸がんワクチンの接種なのです。

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「この問題はテレビでも見て知っていましたし、震えるような気持ちで見てはいました。ですが虐待などほかにも追っていたテーマがありましたし、私以外に適任者がいると思っていました。ところが、担当編集のMさんに集英社のエレベーターの中で、“子宮頸がんワクチンのこと、ご存じですか?”と尋ねられて。8階から1階に着くころには、“やらせてもらおう、これはやらなきゃいけない”と決めていました」

 こう語るのは、著者である黒川祥子さんです。

 以来、昨年の夏から取材を始めますが、少女たちの凄まじいまでの症状に茫然として立ち尽くすとともに、病院をはじめ、周囲の無理解に怒りを感じずにいられなかったと語ります。

「すごい激痛のなか、すがる思いで病院にたどり着いても、“こんな病気ありえないから、あなたの気持ちの問題だよ”と精神科をすすめられる。学校でサポートを頼んでも“サボりたいだけなんでしょう?”。お母さんたちはお母さんたちで、わが子にワクチン接種をさせてしまった自責の念に責めさいなまれているんです」

 被害者協会には、介護の負担に苦しむあまり“娘に手をかけてしまうかもしれない”という連絡もしばしばだとか。ワクチンを打たせてしまったお母さんと副反応に苦しむ娘さん、そんな娘の介護のために置き去りにされざるをえないきょうだいなど、二重、三重に被害者が生まれている。

 これこそが、子宮頸がんワクチン接種の陰で起こっていることなのだと、黒川さんは語るのです。

■健康よりも利権が優先されている

 さて、こんな子宮頸がんワクチンですが、がんを減らしたという確たる証拠はまだなく、効果も最長でわずか10年。そしてなによりも、これほどのことが日本各地で続発していながら、いまだワクチン接種をすすめるキャンペーンが繰り広げられているのには驚きます。

「国はワクチン接種と少女たちに起こっている副反応に因果関係を認めていません。2014年1月の厚生労働省副反応検討部会の結論は、こうした症状は“心身の反応”によるもの。つまり痛みや緊張、恐怖に敏感すぎるからこうしたことになる、非は少女たちにあるというのです。

 福島の原発事故でも、国は“心配しすぎるからがんになる”といっている。これと構造は同じですよね」

 そもそも子宮頸がんワクチンは公費助成による無料接種で始まったワクチンでした。BCGや日本脳炎などの、定期接種以外のワクチンで公費助成を行ったのは異例中の異例と黒川さん。

 本書では、子宮頸がん制圧を目指す専門家会議への製薬会社からの巨額の寄付金や、大流行が予測された新型インフルエンザが感染拡大とならず、当然払われるべき違約金をなぜか受け取らない製薬会社と、子宮頸がんワクチン公的助成の関わりにも言及。ワクチン接種という利権の構造にも言及しています。

 圧巻はワクチン接種を推進する某大学教授の発言。苦しむ少女たちに会い、その目で確認することすらなしに、思春期女子特有の“心身の反応”ととらえ、ワクチン接種を推奨しているのです。

 黒川さんは断言します。

「子宮頸がんワクチンは絶対受けるべきではない、と私は考えています。製薬会社や医者、国に言われるままにしていたらとんでもないことになりかねない。この問題は決して“対岸の火事”ではないことが、本を読めばわかっていただけると思います」

 わが子を守るためには、自分で情報収集し、調べることが大事だと気づかされる。そしてなにより、これ以上、被害が拡大しないことと被害に遭われた少女たちの未来を祈るばかりです。

『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』1600円/集英社
『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』1600円/集英社

■取材後記「著者の素顔」

 自分が見たこと、聞いたことを積み重ね、黙々と1冊の本にしていく。そんなノンフィクション作家である著者は、取材拒否や嫌がらせの言葉にも負けない闘士であると同時に婚活にいそしむ可愛らしい女性でもあります。某誌で婚活記を掲載しており、「50代での婚活は泥水をすするようなもの」という実情はそちらでお読みいただくとして、何にも負けないその闘志は、著書にも共通しているように思います。

(取材・文/千羽ひとみ 撮影/齋藤周造)

〈著者プロフィール〉

くろかわ・しょうこ 1959年、福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業後、弁護士秘書、ヤクルトレディ、デッサンモデル、業界紙記者などを経てフリーライターに。以来、家族の問題をテーマに執筆活動を行う。『誕生日を知らない子 虐待──その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。本書は同賞受賞後第1作。