面と向かって悪口を言われるのはつらい。こっそり悪口をネットに書き込まれるのはもっとつらい。しかし、そんな経験がある小中高生が少なくないことが、東京都教育委員会が先ごろホームページで公開した調査結果から浮かび上がった。
東京都教育庁がホームページ上で公開したのは「インターネット・携帯電話利用に関する実態調査報告書」。同報告書によると、「グループ内や誰もが見られるところで、自分の悪口や個人情報を書かれた」ことがある児童・生徒は全体の6・9%に上った。
年代別に見ると、小学生で3・2%、中学生で8・9%、高校生の15・4%にこうした経験があり、中学3年で10%を超えていた。
アンケートは今年1〜2月、都内の公立高に通う生徒と、小学3年以上の小中・特別支援学校の児童・生徒から約2%を抽出。うち1万8612人から回答を得た。
機種別では「自分のスマホ」でアクセスしている人のトラブルが多く、12・0%だった。手軽で便利な反面、トラブルを引き起こしやすいようだ。無料通信アプリLINEなどを使えば、相手とのやりとりはスピーディーに進む。余計なことを言ったり、感情的なやりとりでクールダウンできず、エスカレートすることも考えられる。
実際にはどのようなトラブルがあるのか。東京・原宿で高校生に話を聞いた。
男子高校生は「(ネットで悪口を言い合うのは)女子じゃないですか?」とクールに話すだけ。わざわざネットを使って悪口を言うなんて、回りくどいことはしないという。
女子高生はどうか。高校2年のA子さんは、ツイッターで自分に対する悪口を見つけたことがある。
「名指しこそしていませんでしたが、なんとなく私に対する悪口だとわかったので、LINEで“オマエが(悪口を)書いた?”と問いただしました。相手が認めたので、面と向かってケンカしましたね。今では縁が切れた」
A子さんは悪口を書いたこともあるという。
「ムカついたので、ツイッターで書いた」
ただし、相手の名前は書かなかったため、トラブルにはならなかった。
「普段どおりに接したので、(相手は悪口を書かれたと)わかっていないと思う」
同じく高2のB子さんも悪口を書かれたことがある。
「ツイッターで悪口を書かれたことを知らなかったけれど、友達から教えてもらった。1年のときの同級生で仲がよかったのに、今ではもう話していない」
悪く書かれたことが表面化すると、友人関係の亀裂は修復しにくくなるという。
調査では、「グループ内でメールできるアプリで仲間はずれにされた」経験を持つ児童・生徒が5・3%いた。小学生で2・6%、中学生で6・4%、高校生で11・9%が経験したと回答している。
高校3年のC子さんは、LINEのタイムライン(友達全員が閲覧できる実況報告)で友人の悪口を投稿した。誰のことかは曖昧にしていたが、友人のことだとバレた。
「しばらくずっと無視されました。でも謝り続けるしかないと思って、“ごめんね”とLINEで送るしかなかった」
一時、LINEグループからはずされた。結局、仲直りできたというが、場合によっては孤立しかねなかった。
ネットでのトラブルは、自殺や殺人事件を引き起こすこともある。
2013年3月、奈良県橿原市で、中学1年の女子生徒(当時13)が自宅付近のマンションから飛び降り、死亡した。遺族は今月1日、同級生4人と保護者、同市を相手取って計約9700万円の損害賠償を求め、奈良地裁に提訴した。友人から仲間はずれにされたり、LINEで悪口を言われるいじめがあったという。死後も揶揄する表現がLINEのタイムラインに投稿された。自殺した女子生徒の母親が憤る。
「自分がいじめた相手の自死後の通夜の席で『お通夜NOW』と投稿する生徒の異常さに驚愕しました。悪しきネットいじめの最たるものではないか」(女子生徒の母親)
’13年6月、広島県呉市で高等専修学校に通う女子生徒(当時16)が遺体で発見された。裁判では、元同級生で無職の少女(18)=殺人と死体遺棄で懲役13年の判決確定=とLINEで言い争いになったことが、犯行の発端だったと明かされた。
無職少女はLINEのグルチャ(グループチャット)で、
《都合がええやつ嫌い。からまん方がええよ》
と書き込んだ。
殺害された女子生徒のことを指していた。これに女子生徒は、《嫌いじゃね》と返信した。
無職少女は、自分のことを「嫌い」と言ったと解釈して怒った。女子生徒をワゴン車に監禁し、暴行。殺害した。
この事件をきっかけに、LINE側は18歳未満が利用する場合、ID検索ができないようにした。見知らぬ人とのやりとりの制限が狙いだが、顔見知りだと、その意味はない。
’13年8月、熊本市の県立高校1年の女子生徒(当時15)が自殺した。
県教委によると、この女子生徒は寮生活をしていたが、同じ寮に住む同学年の女子生徒から、からかいや脅しの言葉をLINEで書き込まれていたという。学校側は記者会見で「その後の指導で生徒らは和解できたと認識しており、痛恨の極み」とした。
青少年のネット利用に詳しい千葉大学の藤川大祐教授(教育方法学、授業実践開発)は「文科省のいじめに関する調査の小中高別のネットいじめの比率と都教委の調査結果は符合しており、納得できる。同省のデータでは2007年がピークで、その後、減少したが、近年、再び上昇に転じている」と指摘する。
なぜ再び増えているのか。
「子どもたちのスマホ普及率が高まったことを背景に、LINEなどの新しい形態に対応しきれていない部分もある。反面、学校で指導をしているから、この程度にとどまったと言えるかもしれない」
と藤川教授。
悪口などを書かれた子どもたちはどう対応したか。
都教委の調査に37・6%が「我慢した」と回答している。次いで「友達に相談」は16・9%、「家族や親戚に相談」は16・0%で、「先生に相談」は7・4%と低かった。「いじめ相談ホットラインに電話」は1・9%、「教育相談センターに電話」は1・6%と専門機関への相談も少ない。
「先生が相談相手にならないのは、学校がネットに否定的なため。相談しても“使わないほうがいい”と言われかねない。子どもたちからすれば、保護者はスマホを使っていることを知っているため相談しやすい」(藤川教授)
調査結果を受けて、学校側はどう動くのか。
「書いた内容が悪口なのか、誤解して伝わったのかで対応は変わる。誤解して伝わった場合は表現力の稚拙さが原因だ。表現力を向上させる指導をする。真に悪口の場合、“悪口は書かないようにすべき”と指導するしかない。いじめはアプリが起こすわけではない。かつてはグループの日記で悪口があったように、心の問題だ」(都教育庁指導部)
前出の藤川教授は「携帯電話の購入時、保護者はマナーやモラルについて注意すべきだし、日ごろから話題にするべき。中学生までは自室ではなくリビングで使わせれば様子を見ることができる」と助言する。もちろん、学校での指導だけでは限界だ。
「家庭や事業者との連携が必要だ。トラブルの背景には、買い与える親、利用上のルールを作っていない家庭といった問題がある」(都教育庁)
人知れず子どもたちが追い込まれる前に何とかしたい。
ジャーナリスト・渋井哲也