認知症の患者本人や、その家族、医師や介護専門職員らが一堂に集える場─『認知症カフェ』が今、全国各地につくられている。今年2月、東京・八王子市内にオープンした『ケアラーズカフェわたぼうし』には、1か月に約100人前後の利用者が訪れる。認知症カフェのほとんどは月1回の開催だが、ここは火~土曜日まで毎日オープン。
ケアマネジャーや看護師など専門職員のほか、介護経験のある市民が有償ボランティアで運営を手伝う。
「妻がこの場所好きだから」
病院の帰り、認知症の妻を連れてやって来るのは90歳の男性。スタッフ数人と談笑する夫の横にちょこんと座る妻はいつもニコニコ楽しそうで、2時間があっという間に過ぎることも。
「介護者が楽しそうな様子を、認知症の方はちゃんと感じ取る。介護をする家族が悩みや不満を吐き出せるガス抜きの場になれば」
そう話すボランティアスタッフの能勢由紀子さん(61)は、認知症の母親の介護を13年間し、昨年末に看取った。症状が進むにつれ引きこもりがちになり、やがて笑顔を忘れていく。そんな介護者の気持ちが痛いほどわかるという。
同カフェの魅力はこうした介護経験を共有できるボランティアの存在にある。
金田正さん(78)は、7年前に妻の認知症が発覚し、24時間の見守りと1日2回の徘徊に付き添う苦労を経験。“男同士の話”に相談が及べば大活躍する。
「妻のパンツを買ったり、外出先で女子トイレに付き添ったり、男性だからぶつかる壁がけっこうある」
金野祥さん(66)は、自分と夫の両親4人分の介護を30年続けた大ベテラン。相談者を適切な支援につなぐ情報提供を心がける。
「介護保険もない時代は大変でした。日常の悩みは私たちが聞いて、具体的な相談になれば専門職の人につなげられるのがうれしくて」
運営元の一般社団法人『八王子福祉会』の職員、小林義之さんはカフェを開き、意外な発見があったと話す。
「重度の認知症の奥さんを他人には任せられないと、デイサービスの利用を拒む男性がいました。そこで、息抜きの大切さを知ってもらうため、一時的にカフェで預かることを提案。たったの数時間ですが、別人のような表情で帰ってきた。地域の医療や福祉サービスの利用を検討してもらう第一歩としてカフェは役立つかもしれない」
支援の輪を広げるため、専門医、弁護士、認知症本人をゲストに招いた月1回の講演会も欠かさない。毎回、約40名の参加がある。
常駐スタッフで、『認知症コーディネーター』の資格を持つ看護師の新井さんは、介護をする家族側の支援に遅れを感じている。
「認知症への偏見が根強い中、症状にどう対応すればいいのかわからずに葛藤する家族が多い。孤立防止や在宅介護の負担を軽減するためには、医療や介護分野だけ強化してもダメ。家族の気持ちを受け止められるボランティアと、福祉職員、医療者が協力して、初めて認知症本人と家族のサポート体制ができ、ケアが成り立つように思います」