9月28日夜、伊勢の“恋愛の聖地”と呼ばれる虎尾山で高3の女子生徒が刺殺された。殺人容疑で逮捕されたのは“親友”という同級生の男子生徒。「頼まれて殺した」と供述している。少女が親友に殺害を依頼したのは、そして男子生徒が止めなかったのは、いったいなぜか――。
■「看護系の専門学校を受験したい」と打ち明けていたが…
空にはスーパームーンが輝く夜。現場は、三重・伊勢市の伊勢神宮外宮近くにある、標高50メートルほどの小高い虎尾山。恋愛小説『半分の月がのぼる空』にも登場する知る人ぞ知る名所を、演劇部に所属する高校3年、波田泉有さんは最期の舞台に選んだ。
殺人容疑で逮捕されたのは、波田さんと同じ高校に通い、波田さんが“親友”と呼んで信頼していた男子生徒。高2の時は、クラスメートだった。
「普段から仲よしで、よく一緒にいるところを見かけました。でも彼氏彼女ではないと聞いています。それぞれに付き合っている相手がいたのは、みんな知っていましたから」
同級生の男子生徒は、2人の関係をそう証言する。
「警察が慎重に取り調べを進めているのは、男子生徒が『波田さんに頼まれて刺しました』と供述している点。いわゆる嘱託殺人かどうかです。被害者の着衣に乱れがなく、抵抗する際につく防御創と呼ばれる傷がないことも、重要な状況証拠になっています」(民放情報番組デスク)
波田さんのこれまでの言動も、嘱託殺人を裏づけるものとなっている。
「18歳になったら死にたい、自殺したい」と周囲に漏らしていたこと、7月に、逮捕された生徒とは別の男子生徒と死に場所を求め数日間の家出をしたこと、手首に自傷行為の痕があったこと─などが確認されている。
「家出中は、発見されるまで野宿のような生活をしていたようです。その間、男子生徒は彼女の自殺を止めるため、ずっと説得していたようです。それに関し、彼女は感謝していました。自殺する意思はなくなったと、そのときは言っておりました」(校長)
担任が学校に報告したところによれば、波田さんの性格は「自己否定が強い。自尊感情が非常に薄く、“自分なんか生きていても価値がない”と話していた」
家出騒動後の特別指導でも、学校側は「非常に、劣等感、自分が小さいと思っていることを感じました」という。
波田さんは家出を反省し、「学校や家族にも相談していきたい。自分を直していきたい。今後は一切心配をかけない」と話した。看護系の専門学校を受験したいなどと打ち明け、2学期は無欠席だった。
■心理療法の専門家が指摘する危険性
心理カウンセラーで『インサイト・カウンセリング』(東京・港区)代表の大嶋信頼さんは、「人格が割れている可能性がある」と見立てる。
「彼氏以外の男性と家出したり、自殺願望があることと、反省して学校に休まず通うところや看護の道に進みたいと思うことは、対照的ですよね。二面性が見えるのは、危ない。死にたいと思って異性と家出し、帰ってきたら一気に衝動がなくなったかのように見えたのは、かえって注意が必要だったと思います」
自分を殺して……と頼む心理状態に関して、大嶋さんは「家庭環境などの背景が詳しくわからないと診断は難しい」と前置きしたうえで、
「リストカットの痕があったり自殺願望を周囲に漏らしていたとなると、自殺の遺伝子を持っていたことも考えられます。2、3親等まで遺伝する自殺遺伝子というものがあるんです。これを持っていて、何かの要因でスイッチが入ってしまうと、自殺してしまう可能性が高くなります。防ぐことはなかなかできない」
大嶋さんはまた、18歳という年齢の危険性を指摘する。
「性ホルモンが多くなるこの年ごろは、妄想的になったり思い込みが激しくなりやすい。衝動的になることもあり、危ない時期なんです。しかし手首を切ろうとしても“血管が逃げる”といいますが、うまく切れないことがある。何度も失敗しているから、誰かに頼んで……となった可能性もある。どうしても死にたくてしょうがないから、確実な死を選んだのかもしれません」
死に傾倒する波田さんの危うさは、周囲も気づいていた。
だからあの夜、波田さんや逮捕された男子生徒の行方を、同級生や保護者は必死で捜し続けた。犯行後、男子生徒が無料通信アプリ「LINE」に居場所を書き込むと、彼らは一斉に駆けつけた。現場に駆けつけた同級生は、「(加害少年は)放心して座っていた」と学校に伝えている。
犯行時刻は午後5時過ぎ。友人らによって119番されたのは同9時過ぎ。スーパームーンが照らす雑木林の中で少年は自分のしてしまった取り返しのつかないことから逃れられず、われを失っていた。
学校の会見によれば、逮捕された男子生徒の生活態度は「おとなしく口数は多くなく、学習態度はまじめで成績も安定している。自分に与えられた仕事は最後まで責任をもってやり遂げていた」という。
“親友”に頼まれるがままに殺すことが使命だと思ってしまったのか。希望していた調理師系学校への進学が叶わなくなっただけではなく、自分の人生さえも棒に振る行為だと、どうして気づけなかったのだろうか─。