安保法成立への反発を受け流した安倍首相は、国民の目を景気回復に向けさせようとして“アベノミクス新3本の矢”を言い始めた。旧3本の矢は大多数の国民にメリットがないままフェードアウト。今度は「一億総活躍」と大きく出たけれど、本当に実現できるのか。
今回、安倍首相が提案する新3本の矢は、①2020年ごろまでに国内総生産(GDP)600兆円、②'20年代半ばまでに出生率1・8、③'20年代初めまでに介護離職ゼロというもの。国民生活を向上させるために安倍首相が放った矢は、これで合計6本になる。いまだ景気回復の実感が伴わないのはどうしたことか。
新3本の矢の実現度をジャッジする前に、旧3本の矢の成果を確認しておきたい。
経済アナリストで獨協大学教授の森永卓郎氏は「旧第1の矢の金融緩和は、とてつもなく大きな効果をもたらしました」として次のように話す。
「民主党政権末期の3年前と比べると、いまは少し落ちましたが、株価は約2倍になっている。失業率も5年ぶりに3%台に下がりましたし、15年続いたデフレも止まりました。企業の倒産件数はバブル期並みの低さです。旧第2の矢の財政出動はたいしたことをやらなかったのでニュートラルです」
問題は旧第3の矢の成長戦略だ。森永氏が続ける。
「失敗といえば失敗なんですけれど、わかっていてあえてやったことですからね。所得格差を開きにいって、何十億円と稼ぐ金持ちが増えました。どの立場に立つかですが、つまり金持ちにはよかったということ。
ただ大多数の国民にとっては、大卒者が売り手市場になって就職がしやすくなった程度。給料は増えていないので功罪相半ばといったところ。でも、これからは確実にマイナスにいくと思います」
森永氏は「安倍首相が言う“一億総活躍社会”はわかりやすい言葉で言うと、国家総動員なんです」として次のように指摘する。
「昭和16(1941)年1月、当時の近衛文麿内閣は人口政策確立要綱を閣議決定しています。内地人口を昭和35年に1億人にするため、1人の女性に子どもを5人産めという内容でした。銃後の守りを固める狙いです。新3本の矢はあまりにそっくりで、子どもの数が1・8人になっただけ。
女性は子どもを産み、働いて、なおかつ介護までしろというムチャクチャな要求です。ちなみに昭和16年の12月には太平洋戦争に突入しました。歴史は繰り返します。安保法と重ねると富国強兵策なんです」(森永氏)
たしかに、あまりに不気味な一致だ。