東京外国語大学(東京・府中市)の学園祭に出向くようになって、3年目である。毎年、最終日に行って、野外ステージのフィナーレを見て帰る。

 東京外大の学祭は2014年も「学園祭グランプリ」(ぐるなび)のMVPに輝いている。社会人も子供もふらっと行って楽しめる学祭であるとともに、「もう一度訪ねてみたい」と思わせる世界のお祭りのようだったと評価されている。

 今年はどうか?

 外国語大学だけあって、毎年、1年生は自分が所属する語学科の多国籍料理の模擬店を出店する。2年生は語学劇。3年、4年も有志や部活動、サークル活動でかなりの人が参加するという。ベリーダンスにヒップホップ、フラメンコに韓国舞踊、民族衣装の試着に世界各国の国勢研究結果……多様な世界観をいろいろなかたちにして披露している。

 外国からの留学生の料理模擬店なんぞ、プロ顔負けのクオリティだ。大行列。今年もボクはドイツ語学科のソーセージにロシア語学科のボルシチにペリメニ、中国語学科の春巻きなどなど、たくさんいただいた。

 日程も5日間と長い。地元住民も毎年、お祭りのように楽しみにしているという。いい意味で、敷居が低いのである。

 留学生もかなり多いので、本当にいろいろな国の言葉が飛び交っている。さまざまな外国の方を学祭で見かけた。ここにいるだけで、どこか海外にいるようである。

 けれど、今年の学祭はそれにましてすごかった。ビートの利いたヒップホップのサウンドが流れている。弾けていた。到着すると、野外ステージの前が黒山の人だかり。小雨がまじる空模様の日だったので、予想外だった。観客もノリノリで片手を天に指し、響(どよ)めいている。ずんずんと地面を伝って、音が響く。

 ラップ音楽で非暴力による民主化運動をリードしてきた西アフリカ・セネガルのヒップホップグループ「クルギ(keur gui)」だ。東京外大大学院の真島一郎教授ほか学者グループの呼びかけで初来日が実現したという。この学園祭ではライブとワークショップが行われた。

 クルギは2011年、アラブの春と連動するかたちでジャーナリストらと社会運動体「ヤナマール(フランス語で「もううんざり」)」を結成。慢性的な停電、スラム問題などや政治的圧力への抗議などをヒップホップの曲に乗せてセネガルの言葉、ウォロフ語でメッセージを綴った。

 その結果、民意を動かし、大規模な市民抗議デモにつながり、憲法改正阻止や民主的選挙による大統領退陣ほか、政治を大きく動かしたという。クルギは「若者が運動に加わることでさらによりよい世界が可能になる」と言っているそうだ。

 多くの人たちが東京外大に集まっていた。昔からの友人、役者の金子清文君も「非暴力の牙・世界の鏡に照らして」というタイトルのライブ、シンポジウムに参加するためにこの学祭に来ていた。その金子君いわく、「クルギは日本のSEALDsの代表みたいな二人。権力に非暴力で立ち向かおうとヒップホップで伝道する奇妙な好青年なんです」。酒もドラッグもやらないそうで、格好はいかついけど、大真面目。歌はかなりうまい。彼らのいるところ、セネガルの若者が寄ってくる。

 いつも外国人率の高い東京外大でも、この日はさらに多く感じる。クルギの同朋が集まっていたからだろう。インパクトは抜群だ。こうして、クルギの活動を紹介したくなるし、セネガルという国にも興味を持った。

 東京外大の学祭の充実ぶりも感じられた。文科省の「大学文系不要論」が騒がれていた。同省の本意は教員養成系が廃止対象だったそうだが、そもそも、海外の国を深く知るためは語学を学ばなければ始まらない。これからの日本にとって、それはとても重要なことだと思う。

 クルギはエネルギーの塊だった。

 若者が元気のいい国は将来が楽しみだ。

 日本もセネガル同様、憲法改正が俎上に載っている。

 クルギが民主化運動の一環として憲法改正阻止を主導したのだが、日本ではどうなのだろうか? 改正するにせよ、改正しないにせよ、若者たちは自分たちの問題として、きちんと考えているのか?

 ちょっと疑問だったのだが、この学祭で、日本の大学生もまんざらではないと感じた。まだまだ、熱い。

 そして、こんな大学で学生時代を過ごせたら……と、ちょっとうらやましく思ったりした。

[写真]クルギは東京外大学祭のほか、東京、仙台、沖縄でもライブ、ワークショップ、シンポジウムを行った。撮影/金子清文
[写真]クルギは東京外大学祭のほか、東京、仙台、沖縄でもライブ、ワークショップ、シンポジウムを行った。撮影/金子清文
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〈筆者プロフィール〉

神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari