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 埼玉県深谷市から熊谷市に流れる利根川で、高齢の夫婦が死亡しているのが見つかり、深谷市稲荷町の無職・藤田慶秀さん(74)と妻ヨキさん(81)と判明した。

 県警深谷署は23日、川岸で救助された三女の無職・波方敦子容疑者(47)を母・ヨキさんの殺害容疑と父・慶秀さんへの自殺幇助容疑で逮捕。

「母が約10年前から重い認知症で介護に疲れた。生活苦で貯金もない。年金もない。仕事を辞めた父が“死にたい”というので、車で川に突っ込んで無理心中を図った」と供述しているという。

 慶秀さんは自他ともに認める愛妻家で、ヨキさんが認知症を患っても変わらず、「オレはかあちゃんを愛しているんだ」と堂々と公言していたそうだ。

 しかし、ノロケてみせる笑顔の裏で、介護生活は日を追うごとに厳しくなっていた。

 おしゃべりでふくよかだったヨキさんは少しやせて、髪の毛が真っ白になった。慶秀さんと波方容疑者はヨキさんの両脇を抱えるようにして近所をよく散歩した。

 顔見知りの女性が「こんにちは。私、誰だかわかる?」と声をかけてくれても、ヨキさんは「わからない」。目を離した隙に家を飛び出したこともある。父娘は顔面蒼白で探し回り、近所に頭を下げた。

 深夜出勤の慶秀さんはしばしばヨキさんに起こされた。

「夜、奥さんの大きな叫び声が聞こえてくる。娘さんは、“ご迷惑じゃないでしょうか”と近所に気を遣っていらっしゃいました」(近所の主婦)

 波方容疑者は独身。近隣住民らの話によると、両親と姓が異なるのはヨキさんの旧姓を名乗っているから。慶秀さんが借金取りに追われていたころ名字を変えたようだ。介護に専念するため6~7年前に仕事を辞め、結婚は半ば諦めているようだったという。

「今年の夏に娘さんはひと回りやせ、“ダイエットしたのよ”と笑っていました。今にして思えば無理をしていたのかもしれない」(近所の女性)

 家計が苦しかったのは間違いない。慶秀さんの収入だけが頼りだった。

「娘のおかげで本当に助かっているんだよ」

 職場でしみじみとそう話したという慶秀さん。

 前出の新聞販売店店主が、「ダメだよ。早く結婚させてあげなきゃ」と言うと、「そうなんだけどねぇ……」と口ごもることがあった。

 痛風と腰痛の持病を抱える慶秀さんを首痛が襲った。手術を受けるため仕事を辞めた。事件の10日ほど前のことだ。

「“あと5年は働きたいから、よろしく頼むね”と言っていたんですが、辞める直前は歩行するのも困難な様子で、仲間の助けを借りて仕事をこなしていました。もし、お金の問題だったら、長年勤めた職場を頼ってくれたらよかったのに。仕事を辞めたことで心が折れてしまったのかもしれない」(販売店店主)

 一家が引っ越してくる前に結婚した長女は熊谷市内に住んでいる。次女は幼いころ、母方の実家である新潟の親戚筋に養子にもらわれている。

 波方容疑者は深谷市役所を訪ね、介護サービスと生活保護の申請手続きをとった。急場はしのげるはずだった。

 しかし、一家は11月21日夜から22日未明にかけて3人で軽自動車に乗り込み利根川に向かった。三女が運転する車は河川敷で加速し川に突っ込むと浅瀬で進まなくなった。三女は運転席から降りた。慶秀さんとヨキさんと川の深いほうに歩いた。水は3人の身体を切り裂くように冷たく、やがて親子の姿は川の中へ消えた。

 ヨキさんの遺体を収容していた警察官が、すぐそばの崖下のくぼみで座り込む波方容疑者を発見した。意識は朦朧としていたが、呼びかけると返事があった。低体温症で命に別状はなかった。

〈フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班〉