今月15日、長野県軽井沢町の国道18号の道路脇に、スキー客を乗せたバスが転落した事故。4月から社会人として就職先も決まっていた大学生ら15人が、寒い冬の未明に、命を奪い取られた。
大手私鉄バスの50代の運転手は、「いつかこういう事故が起きることは目に見えていたんだよ」と憤慨する。
「大手私鉄のバスなら、あんな事故はありえない。小泉さんの規制緩和から、バスが5台あれば事業ができるようになった。いい加減な会社が増え、今回の事故につながった」
小泉元首相が推し進めた規制緩和の波は、'00 ~'02年にバス業界を変えた。バスやタクシーの参入などが自由競争に委ねられ、その後、過当競争などのひずみをもたらした。
バス専門誌『バスラマ』の和田由貴夫編集長は「新規事業者が増えて価格競争に陥り、観光バス事業から撤退した大手私鉄もある」と話す。
変革の波はマイナス方向に働いた。国交省のデータによると、民営バスの運転手の賃金は'01年以降、全産業平均年収を下回るようになり、'13年時点で約80万円も低くなった。
業界関係者によると、運転手の約半数は50歳以上。離職率も高く、経験年数が少ない人が貸し切りバスを運転するようになった。
「路線バスで経験を積ませてから高速バスに乗せるというステップアップをしなかったり、契約社員に長距離を運転させないという暗黙のルールをないがしろにする新規参入企業がある」(同関係者)
事故から学び、再び事故を起こさないこと、バス業界のブラック企業的風習を変えることが、関係者すべての責務だ。再発防止策として交通労連の鎌田事務局長は、力強く提言する。
「まず、業界への新規参入を3年程度停止する。その間、営業許可を受けているバス会社、旅行会社を徹底的に監査し、きちんとできてないところには退場してもらう」
しかしその間もバスは運行する。事故後もスキーバスには若者が乗り込み、ゲレンデへ向かう。
「正直、乗るのが怖い」という20代男性は「夜11時半に出て朝着いて、昼間滑って夜帰る予定。リフト券付きで8000円です」とバスに乗り込んだ。即効性のある対策は、シンプルだがあるという。前出のNPO法人・久保田顧問は、こう訴える。
「人間がハンドルを握る以上、事故は起こりえます。シートベルト着用を徹底することです」
利用者の命を預かるバス会社と運転手。事故を防ぐためには、改めて両者が安全運行を強く認識することだ。