貧困問題に取り組むNPO法人『ほっとプラス』は、さいたま市岩槻区内で、生活保護受給者向け施設を9棟、約50部屋運営する。そのうち一緒に立っている6棟は、良心的な大家さんが無償提供している。
藤田さんは社会福祉士でもあり、『反貧困ネットワーク埼玉』の代表も務める。貧困問題に対する個人・企業・行政の意識の低さを実感している。例えば、老人ホームや介護施設の整備には力を入れても、貧困分野は未整備のまま。儲からないので民間企業もなかなか参入してこない。
「欧米は移民政策をとるところが多い。だから移民支援を含めて福祉政策が手厚く、すぐに段階に応じた支援を受けられる仕組みがある。ビル管理やタクシードライバーなど職業訓練のメニューも多い。
日本は移民政策をとっていないのでメニューがなく、いきなり生活保護なんです。儲からない分野に入ってくるのは暴力団関係や宗教法人など。まずは福祉の底辺からしっかり整備する必要がある」(藤田さん)
ほっとプラスの施設で暮らす60代の独身男性は言う。
「58歳で心臓と首が悪くなって働けなくなった。生活保護を受けるようになって、役所に相談したら、この施設を紹介された。将来への不安はあるけど、ここの生活で不満はまったくない。スタッフが相談に乗ってくれるし、みんな優しいしね」
ほっとプラスのスタッフは車で入居者を病院へ連れていくほか、ヘルパーさんも出入りする。前記の問題施設では自転車を貸し出すだけだから関わり方はずいぶんと違う。
別の60代男性は、大手鉄鋼会社の下請けとして工場で働いていたころ、左手をローラーに巻き込まれてリストラ退職。労災も下りず、退職金はわずか10万円だった。
「しばらく兄貴の家にいたが、ネットカフェやマンガ喫茶を転々とするようになった。公園でホームレスを2か月したころ、出会ったおじさんが食事をおごってくれて、この施設を教えてくれた。ここまで来る電車賃もくれた。ボロボロの格好だったのにスタッフはイヤな顔ひとつせず、優しく受け入れてくれてね。孤独から解放されました」
ホームレスのころは怪しい勧誘があったという。
「“8万~9万円で寝るところと食事があるよ”とか“腎臓を海外で手術して300万円で売らないか”とか。お金は魅力だったけど、怖かった」
今ではアルバイトも始め、年2回、認知症で老人ホームにいる母親に会いに行く。
入居者の話を聞く限り、違反施設に入るメリットは見当たらない。しかし、さいたま市の生活福祉担当者は「違反施設に出戻りした人もいる」と話す。なぜ、搾取されるとわかっていて飛び込むのか。
「自治体によって事情は異なるかもしれないが、公的な更生施設はほぼ満員状態にある。それと禁煙で禁酒。だから運営元がしっかりした民間施設は人気がある。一方で、どこにも行くところがないならば、多少問題のある施設でも、野宿よりはましだと考えざるをえない。雨宿りする感覚に近い」(都内の福祉関係者)
アパート暮らしの場合、自治体の生活福祉担当者が定期的に訪問し、自立生活に向けた話をする。
「施設入居者については、運営側が指導を一任されているので、いちいち訪問されてわずらわしい話をする必要はない。もっとも、問題のある施設は指導しないはず。ずっといてもらったほうが金になるわけですから」(藤田さん)
貧困ビジネスを根絶するのは難しい。極寒をしのぐ公共施設の十分な整備が急がれる。
取材・文/フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班